双子の妹の学費のために変態親父に売られそうになったので、友人と一緒に逃げたら幸せが待ってました

井藤 美樹

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簡単な質問ですよ


「では、貴方たちに問います」

 一旦、そこで言葉を区切ると、屑兄たちの息を飲み込む音が聞こえた。それほど、周囲は静まり返っていた。皆、私の言葉を待っている。

(私は、この屑兄たちに何か期待しているの? いや、違う。期待じゃない。これは、確認。現実を再確認するために必要なことなの。そう……完全な決別のために)

 私はゆっくりと口を開いた。

 そして、質問する。

「……私の名前を答えて下さい」

 質問の内容に、周囲は呆気に取られている。そして次々に、「簡単過ぎるだろ」という声が周囲から上がった。

(家族なら、知り合いなら、何も考えずに答えることが出来る質問。他者からみたら、サービス問題もいい所だよね)

 でも、私には何故か確信があった。

 屑兄たちは答えられないと――

 だって、一度として、屑兄たちに名前を呼ばれた記憶がないからね。毒親や双子の妹でさえ呼ばれた記憶はない。「おい」「お前」「それ」「これ」が私の呼び名だった。主人家族全員がそうなのだから、当然、屋敷に仕える者たちもそうなるよね。

 それに、未成年という配慮から、新聞でも私の名前は記載されていない。そこから知ることも不可能。ましてや、私はセリナのようにお茶会に出席したこともない。徹底的に隠されていたからね、他の貴族が、私に意識を向けることなど当然なかった。

(やっぱりね。直ぐに答えられない)

 屑兄たちは真っ青になりながら、必死で名前を思い出そうとしているみたいね。

(その時点で、完全にアウトなのに)

 沈黙が続く。それに比例するかのように、屑兄たちと私以外の人たちの反応が段々冷めていく。呆れを通り越して、侮蔑や蔑みの色合いが濃くなってきた。もう、生ゴミを見るような目だ。

 その変化に、屑兄たちは一切気付かない。今も、必死で思い出そうとしている。

「……答えられないのですか? 普通なら、即答出来る問題ですよ」

 私の声も低く冷え冷えとしたものだった。

(再確認の時間は十分ね)

「「…………」」
  
 屑兄たちは口を開かない。自信がないのか、完全に忘れたのか、今はどっちでも構わない。

「貴方たちは、私を血が繋がった家族だから助けてほしいと願った。なら、何故答えられないのです。即答出来る問題ですよ」

 私の台詞に、尚も屑兄たちは、悔しそうな目で睨むだけで答えない。

 そんな屑兄たちに、周囲は「信じられねー」などの野次やじを飛ばす。私たちが彼らの傍にいなかったら、他の屑たちと同じように、石や生ゴミが飛んできたに違いない。

 そこまでになって、屑兄たちは周囲の視線にやっと気付く。

 直接浴びる負の感情――

 学園とは明らかに比べられない程の、濃さと重み、そして悪意でしょうね。

 それは時に、体温をも奪う。

 冬の凍える寒さより、身体の芯を冷やすの。普通の暖では身体は暖まらない。

 屑兄たちは、今それを体感していた。

 真っ青になり、小刻みに震え出す。人の記憶から、私が消えない限り、それは永遠に続くのよ。

(想像出来たのね。自分たちの未来が)

「……これで、はっきりとしましたね。私は貴方がたにとって、家族でも知り合いでもない。ただの、名前を持たない奴隷に過ぎなかった。本当に惨めですね。奴隷に土下座をし、頼み込んでいるのだから」

 私はそう吐き捨てると、屑兄たちから視線をはずした。もう、視線を合わせる必要はない。改めて、馬車に乗ろうとしたら、また屑兄が声を荒げ叫ぶ。

「本当に、俺たち家族を見捨てるのか!!」

 ここまで来ても、屑兄(二)は私を批判する。私は足を止め、屑兄(二)を凍える目で見下ろす。

「家族? 自分の都合に合わせて、免罪符のように使ってくるけど、それ、意味がないことにまだ気付かないの。私たちは家族じゃない。家族であることを捨てたのは貴方たち。その関係を切ったのも貴方たち……ねぇ、気付いてる。貴方たち、私に一度も謝罪してないないよね。それが答えよ」

(どこまでも、私は屑兄たちにとって、都合のいい存在でしかなかった)

 つまり、そういうことなのだと、改めて実感したよ。

「……お前は、俺たちの名前を知っているのか?」

 最後の足掻きのように、屑兄(一)が訊いてきた。私は屑兄たちに向き合い即答する。

「アクセル・エレナール、ロッド・エレナール。今生では、もう会うことはないでしょう。正直、会いたくもありませんし、勿論、来世でもです。では、御機嫌よう。せいぜい、血反吐を吐きながら惨めな一生をお過ごし下さい。この世は因果応報、自分たちがしてきたことは、いずれ己の身に返ってくることをお忘れなく」

 笑顔でそう言ってやりたかったけど、表情筋が死んでる私には無理だった。ほんと、残念。

 項垂うなだれる屑兄たちを、最後に私は一瞥する。

 それから、アルお兄様に視線を向け、小さく頷く。アルお兄様も頷き返してくれた。そして私は、ユニにエスコートされ、今度は邪魔され図に馬車に乗った。



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