裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第一章 踏み荒らされ花

付き纏う過去と悪夢

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 フワッと身体が浮いた。

 浮遊感を感じたと同時に襲い掛かる、背中と後頭部の衝撃からくる激痛。強く打ち付けた背中も痛いが、特に頭が割れるように激しく痛んだ。そのままわけも分からずに、俺は転がるしかない。

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 ただ……父上に激しく拒絶されたことだけは、幼いなりにも理解できた。

 それでも、助けを求めた相手は父上だった。父上しかいなかった。今までの記憶がそうさせた。

 例え、今のこの状態が父上のせいだとしても――

 助けて欲しくて目を開けると、視界は真っ赤に染まっていた。頭が割れたのだとわかった。赤いのは自分の血だ。

 傷のことなんてどうでもいい。伸ばした手を掴んでくれれば、それだけでいい。

 それだけを願った――

 大好きな父上が自分を見下ろしている。

「…………父上……」

 吐く息ぐらいの小さい声しか出てこない。

 それでも、父上には届いたはずだ。だけど、父上は微動だにしない。頭上から見下ろすその目は、氷のように冷たく、鋭利で憎悪、侮蔑の色がありありと浮かんでいた。数十分前とは反対の目。

 少なくとも、自分の子を見る目じゃない。

 俺はその目を絶対忘れないだろう。

 忘れることなど、一生できるはずない――

 


「…………ク……アーク!! ……アーク起きろ!!」

 肩を揺らされ跳ね起きる。運動をした後じゃないのに息が切れた。寝汗も酷い。シーツまでべっしょり濡れていた。

 また、あの時の夢を見たのか……寝覚め最悪。

「大丈夫か、アーク。また、あの時の夢を見たのか。大丈夫だ。ここにはお前を苦しめる者はいない。そんな奴が現れたら、俺が蹴散らしてやる。だから、安心しろ」

 そう言いながら俺を抱き締め、子供をあやすように背中をポンポンと叩く。

「ウゲッ。ライド、苦しい」

 本人は至って軽くのつもりが、俺は息が詰まり出来なくなる。慌ててライドが腕を解く。

「大丈夫か?」

「……大丈夫か、じゃねーよ!! この筋肉馬鹿が!! 食後だったら、マジで吐いてたからな」

 荒くなった息を整えてから俺は文句を言った。なのに、ライドはどこか嬉しそうだ。その目は愛玩動物の猫を見るのと変わらない。もう、その目にも慣れた。今更、文句を言っても無駄だ。この五年、ますます酷くなる。

 あれから五年経っても、力加減間違えるんだよな。少しは学習して欲しい。それともワザとか。だったら、俺も考えるぞ。

 思わずジト目になってしまう。

「ああ。悪い悪い。軽く汗を流してこい。朝ご飯にしよう」

 不機嫌な俺に、ニカッと笑いながらそう言うと、ライドは部屋を出て行った。

 階段を下りる音がする。窓を開けると、心地良い風と焼き立てパンのいい匂いがした。

 胸くそ悪い悪夢を見たが、いつもと変わらない朝だ。

 この朝は、この未来は、ライドが俺にくれたものだ。ライドが命懸けで手繰り寄せ、全てを投げ捨てて手に入れてくれたものだ。だからこそ、俺は平和な朝を迎えることができる。

 筋肉馬鹿でも、人を猫のように見ていても構わない。俺はランドとずっと一緒にいれればいい。それ以外望まない。

 だから、この幸せがいつまでも続きますようにと、俺はいつも切に願っている。

 地位、名誉、家族、住む家、命、全てを失った俺はそう願わずにはいられなかった。


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