裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

文字の大きさ
6 / 34
第一章 踏み荒らされ花

エルヴァン聖王国(1)【SIDE:国王】

しおりを挟む

「子供のお使いじゃないんだぞ!!」

 その怒声と同時に、派手に物が壊れる音が執務室に響いた。床には国王が騎士たちに向かって投げ付け、壊した破片が散乱している。それでも、国王の怒りはおさまらないようだ。

「それでも、お前たちは我がエルヴァン聖王国の騎士か!! 村を探すのに、どれだけ手間取ってる!! この能無しどもが!!」

 なおも、国王は報告に来た騎士たちを怒鳴り続けた。そんな緊迫した中で、声を発する者がいた。エモンズ大司祭だ。

「……国王陛下。これで、確率が高くなりましたね」

 国王の怒りを平然と受け流しながら、エモンズ大司祭は静かに告げた。

「どういう意味だ?」

 さすがに、「何が」とは訊かない。わかり切っていることだからだ。

「大罪人であるアークの死体は見付からず。同時期に、平民の護衛騎士が姿を消した。そして、今だにユリウス王子に勇者の証が浮かばないことから、大罪人アークが生きている可能性が非常に高いと考えられますね」

 飄々とした言い方に、国王の神経は逆撫でされる。

「エモンズ大司祭、五月蠅いぞ」

 冷え切った声と同時に放たれる氷の刃。しかし、その氷の刃はエモンズ大司祭の張った結界に防がれる。結界が間に合わなければ、間違いなくエモンズ大司祭は死んでいた。

「……本当に、姿を消した護衛騎士は平民だったのでしょうか?」

 エモンズ大司祭は特に臆することなく、自分を殺そうとした国王に疑問を投げかける。

「どういう意味だ?」

 国王は怪訝な表情をしながら尋ねる。不機嫌さは隠し切れない。

「おかしいとは思いませんか? 国王陛下。右手を切り落とされ、たいした止血も施されないまま魔の森に放置された五歳の子供が、生きていると思いますか? 普通なら生きてはいません。よほどの治癒師がいない限り。しかし、彼の履歴書には、そんなこと一文字も書かれてはいませんでした。そもそも治癒師の多くは貴族出身のはず。唯一、平民でそこまでの治療師は、記憶している限りただ一人。元聖女だけ。魔の森にアイリスがいたことは報告されていません。だとしたら、治療を行ったのは、平民の護衛騎士ということになりますね」

 淡々と語るエモンズ大司祭。その口元にはわずかに笑みが、だがその目は全く笑っていない。感情そのものが欠落したような感じさえする。ただ……光は失ってはいない。その光も黒いものだったが。

 相変わらず、薄気味悪い奴だ。

 その目を直視すると、大半の人間は身震いするだろう。そして、エモンズ大司祭を薄気味悪く感じるに違いない。国王自身も初めはそうだった。

 だが、国王は敢えて相談役として、あの忌々しい日からエモンズ大司祭を側に置いていた。

 頭がキレ、実力もある。多少性格に難があっても、お釣りが十分くるだろう。それに、神殿の後ろ盾も得られる。メリットの方が大きかった。その割には、怒りに任せて殺そうとしてしまうが。まぁそれも致し方ない。そうさせる方が悪いのだから。

「……つまり、村自体が存在しない可能性があるということか」

 その考までは思い至らなかった。国王は正直そう語る。エモンズ大司祭は軽く頷いてみせた。

「それか……誰かが、村全体に結界を張り巡らせているかのどちらかでしょう」

 エモンズ大司祭が答えると国王は唸る。

「結界を張り巡らせるか……可能なのか?」

 結界を張るだけで、相当な魔力が必要だ。それを維持するのなら、さらに魔力が必要になる。常に魔力を吸い取られ続ける状態になるわけだ。それゆえに、可能なのか尋ねたのだ。

「人によりますね。先程名前が出てきた、アイリスなら十分可能でしょう」

 それほどか……確かに、アイツの聖女の実力は飛び抜けていたな。いい機会だ。そろそろアイツも素直になってもいい頃合いだ。

 下卑た笑みを浮かべる国王。

「アイリスの行方を並行して追わなければならんな?」

「おや。ご自身で追放したのに心配なさるのですか?」

「ふん。お前には関係ないだろ」

 さっきまでの不機嫌さはどこに行ったのか、少し機嫌がよくなる国王に、エモンズ大司祭は苦笑する。

「私には関係ありませんね。ですが、ユリウス王子のために、そしてこの世界のために一肌脱ぎましょう。大罪人アークと元護衛騎士ライド、元聖女アイリスの行方を、私が突き止めてみせましょう」

 エモンズ大司祭は笑みを浮かべながら断言する。その様子に国王はニンマリと笑った。

「ほ~大きく出たな。ではやってみるがいい。失敗した時は分かっているな」

 神殿に属する自分に言う台詞ではないだろうに。一国の国王風情が。エモンズ大司祭は内心そう毒吐きながら一礼し退出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...