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第一章 踏み荒らされ花
エルヴァン聖王国(1)【SIDE:国王】
しおりを挟む「子供のお使いじゃないんだぞ!!」
その怒声と同時に、派手に物が壊れる音が執務室に響いた。床には国王が騎士たちに向かって投げ付け、壊した破片が散乱している。それでも、国王の怒りはおさまらないようだ。
「それでも、お前たちは我がエルヴァン聖王国の騎士か!! 村を探すのに、どれだけ手間取ってる!! この能無しどもが!!」
なおも、国王は報告に来た騎士たちを怒鳴り続けた。そんな緊迫した中で、声を発する者がいた。エモンズ大司祭だ。
「……国王陛下。これで、確率が高くなりましたね」
国王の怒りを平然と受け流しながら、エモンズ大司祭は静かに告げた。
「どういう意味だ?」
さすがに、「何が」とは訊かない。わかり切っていることだからだ。
「大罪人であるアークの死体は見付からず。同時期に、平民の護衛騎士が姿を消した。そして、今だにユリウス王子に勇者の証が浮かばないことから、大罪人アークが生きている可能性が非常に高いと考えられますね」
飄々とした言い方に、国王の神経は逆撫でされる。
「エモンズ大司祭、五月蠅いぞ」
冷え切った声と同時に放たれる氷の刃。しかし、その氷の刃はエモンズ大司祭の張った結界に防がれる。結界が間に合わなければ、間違いなくエモンズ大司祭は死んでいた。
「……本当に、姿を消した護衛騎士は平民だったのでしょうか?」
エモンズ大司祭は特に臆することなく、自分を殺そうとした国王に疑問を投げかける。
「どういう意味だ?」
国王は怪訝な表情をしながら尋ねる。不機嫌さは隠し切れない。
「おかしいとは思いませんか? 国王陛下。右手を切り落とされ、たいした止血も施されないまま魔の森に放置された五歳の子供が、生きていると思いますか? 普通なら生きてはいません。よほどの治癒師がいない限り。しかし、彼の履歴書には、そんなこと一文字も書かれてはいませんでした。そもそも治癒師の多くは貴族出身のはず。唯一、平民でそこまでの治療師は、記憶している限りただ一人。元聖女アイリスだけ。魔の森にアイリスがいたことは報告されていません。だとしたら、治療を行ったのは、平民の護衛騎士ということになりますね」
淡々と語るエモンズ大司祭。その口元にはわずかに笑みが、だがその目は全く笑っていない。感情そのものが欠落したような感じさえする。ただ……光は失ってはいない。その光も黒いものだったが。
相変わらず、薄気味悪い奴だ。
その目を直視すると、大半の人間は身震いするだろう。そして、エモンズ大司祭を薄気味悪く感じるに違いない。国王自身も初めはそうだった。
だが、国王は敢えて相談役として、あの忌々しい日からエモンズ大司祭を側に置いていた。
頭がキレ、実力もある。多少性格に難があっても、お釣りが十分くるだろう。それに、神殿の後ろ盾も得られる。メリットの方が大きかった。その割には、怒りに任せて殺そうとしてしまうが。まぁそれも致し方ない。そうさせる方が悪いのだから。
「……つまり、村自体が存在しない可能性があるということか」
その考までは思い至らなかった。国王は正直そう語る。エモンズ大司祭は軽く頷いてみせた。
「それか……誰かが、村全体に結界を張り巡らせているかのどちらかでしょう」
エモンズ大司祭が答えると国王は唸る。
「結界を張り巡らせるか……可能なのか?」
結界を張るだけで、相当な魔力が必要だ。それを維持するのなら、さらに魔力が必要になる。常に魔力を吸い取られ続ける状態になるわけだ。それゆえに、可能なのか尋ねたのだ。
「人によりますね。先程名前が出てきた、アイリスなら十分可能でしょう」
それほどか……確かに、アイツの聖女の実力は飛び抜けていたな。いい機会だ。そろそろアイツも素直になってもいい頃合いだ。
下卑た笑みを浮かべる国王。
「アイリスの行方を並行して追わなければならんな?」
「おや。ご自身で追放したのに心配なさるのですか?」
「ふん。お前には関係ないだろ」
さっきまでの不機嫌さはどこに行ったのか、少し機嫌がよくなる国王に、エモンズ大司祭は苦笑する。
「私には関係ありませんね。ですが、ユリウス王子のために、そしてこの世界のために一肌脱ぎましょう。大罪人アークと元護衛騎士ライド、元聖女アイリスの行方を、私が突き止めてみせましょう」
エモンズ大司祭は笑みを浮かべながら断言する。その様子に国王はニンマリと笑った。
「ほ~大きく出たな。ではやってみるがいい。失敗した時は分かっているな」
神殿に属する自分に言う台詞ではないだろうに。一国の国王風情が。エモンズ大司祭は内心そう毒吐きながら一礼し退出した。
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