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第二章 ラッシュ港攻略
ここから、俺たちの復讐が始まる
しおりを挟む「無事、ラッシュ港を一日で攻略したようだな。小僧」
あってないようなズブズブな帳簿に苛々しながら目を通していると、知った声がいきなり降ってきた。
俺のことを小僧と呼ぶのは、自分が知る中で一人だけだ。
格闘していた帳簿を机に置き、俺は頭を下げ出迎える。一緒に作業していたレイも同じく頭を下げ出迎えた。
「このような辺鄙な場所にお越し頂きありがとうございます、魔王陛下」
直接会うのは久し振りだ。ラッシュ港攻略のために出発した日以来か。定期的にリュートには連絡をいれていたんだけどな。一応、リュート直属の部隊だから。
「配下を労うのも、我の仕事だからな」
「光栄でございます、魔王陛下」
魔王はレイに視線を向ける。それだけで魔王の意図を察したレイは、一礼すると執務室を出て行った。
「……帳簿に苦労しているようだな」
ニヤニヤと笑う魔王。
見てたのか。
「あまりにも出鱈目過ぎて、却って難解なんですよ」
二人っきりになった途端、少し話し方が砕ける。一応、俺は魔王の甥になるらしい。ライドの姓を名乗っていたからな。それと関係なく、初めて会った時からこんな感じだ。
「凶霊を作り出す親だからな、碌な経営はしていなかったのだろう。帳簿も、あってないようなものではないか?」
「……お見通しで」
ちょっとおもしろくない。
「なら、いっそうのこと、自分用に作り直せばよいのではないか」
作り直す……?
それ、いいかもしれない。確かに、魔王の指摘通りにした方が早い気がする。終わりも見えるし。それに正確だ。ましてや、自分たちが作ったものだから信用出来るしな。目からウロコだ。さすが魔王。
「まぁ、いい機会だ。これも勉強だな。励め。いずれ必要になるからな」
いずれ必要になる……? どういう意味だ?
疑問を口にするより早く、魔王は話題を変える。
「……五年前の約束通り、お前たちは自分の存在価値を我に示した。ここからだな、アーク」
その言葉に、俺は目を見開く。
陛下が初めて、俺の名前を呼んだ。
出会った時は嫌味のように勇者と呼ばれ、この五年は小僧だった。一度も名前を呼ばれたことはなかった。認められた気がした。思ってた以上に嬉しい。
「お前たちが復讐のために、エルヴァン聖王国の柱の一つである、この貿易港を選んだことには正直驚いた。かなりの難易度だったからな。もう少し難易度の低い町を攻略すると考えていた。だが、お前らしいと言えばらしいな。魔国としても、これから先、ラッシュ港は重要な拠点の一つになる。よくやった」
魔王からお褒めの言葉をもらった。初めてだ。
ラッシュ港はエルヴァン聖王国の食と防衛、交易の拠点の一つだ。
位置的には魔国に最も近いが、魔族の間では、なぜか難攻不落と呼ばれていた。なんせ、三つの魔石を同時に壊さなければならないからな。チームプレイが苦手で、好戦的で、自我が強い魔族には難しい作業なんだろう。俺たちには全く難しくはなかったけどな。
復讐の第一歩になる町を選ぶのに、俺たちはどこにするかを一番に悩み時間を掛けた。最初の一歩が大事だからな。
この五年間、エルヴァン聖王国と聖教国は太陽が出ていない。当然、ラッシュ港もだ。
空は厚い雲に覆われ、辛うじて太陽の位置が目視出来るかなという程度だ。
太陽を失った国は緩やかに破滅の道を歩んでいく――
作物は育ちにくく、害虫が大量発生する。それが原因で、国のどこかで常に飢饉が起きていた。そして、結界が弱まり魔物が侵入し民を襲うこともしばしばあった。民を護る兵士が泥棒になり果てたこともだ。
そんな状況下なのに、払う税は同じ。いや、反対に増えていた。結果、国民の中に不平不満の声が上がっていた。当然だな。それは、いつ破裂してもおかしく程膨れ上がっている。
当然、この町も例外ではない。まだ他と比べて幾分かマシだったのは、結界のおかげで魔物の侵入を防げたからだ。それは、建物が綺麗に残っている。
俺たちが攻略する拠点に求めたのは二点。
まず一点目が、エルヴァン聖王国、聖教国から遠く離れていること。その分、情報が王都に行くのに時間が掛かるからだ。その猶予の分、俺たちは自由に動ける。
次に二点目が、エルヴァン聖王国にとって重要な町、或いは都であるかどうかだった。特に考慮したのが、防衛と食糧だ。中でも、食糧に重点をおいた。どんな人間も、食べなきゃ死ぬからな。
ラッシュ港を有するこの町は、この二点を満たしていた。特に食糧に関しては飛び抜けていたな。
エルヴァン聖王国は食糧難を回避するために、他国から大量の小麦と大麦を大量に仕入れていたんだ。その三分の一強が、このラッシュ港に集まっている。
ということは、ここを抑えたら、三分の一強の小麦と大麦がストップする訳だ。三分の一強って、かなりでかいと思うが、まだ凌げない程じゃない。ジワリジワリと苦しめるには、丁度いいだろ。
まぁ決め手になったのは、ジムとフランが「魚食べたい」って言った一言だったけどな。俺たちらしくていい。おかげで、毎日新鮮な魚介類が食卓にのぼってる。ここを選んで、ほんと正解だったな。
「はい。ありがとうございます」
魔王に褒められると嬉しい。口にはしないが。したら、冷たく睨み返されるだけだからな。
「お前のことだ。騎士たちに何か仕掛けているんだろ?」
ニヤリと笑いながら尋ねてくる。
「はい」
満面な笑みを浮かべながら俺は答えた。
勿論。拠点を手に入れて、はい終わりは面白くないだろ。
ここからだ――
ここから、俺たちの復讐が始まるんだ。一気には殺らない。ジワリジワリと苦しめてやる。そして少しづつ、肉をもいでやる。
「まぁ、好きにすればいい。フォローはしてやる。代わりに、精々楽しませてくれよ。手始めに、アーク、ここの統治はお前に任せることとする。よいな」
「畏まりました」
俺は深々と頭を下げた。
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