10 / 64
私はまた君に叶わない嘘を吐く
しおりを挟む私は蓮君がくれたココアを飲みながら、学校のことを訊いた。それなら、口下手の蓮君でも話しやすいし、私も興味があったからね。だって、ほぼ学校に通ったことがなかったもの。
蓮君たちにとっては当たり前の光景でも、私にとっては、とても新鮮な世界だから。
「高校って学食があるんでしょ。何が美味しいの?」
目、キラッキラにして訊いた。蓮君はすっごく呆れてたな。
「あのな~一番に訊く内容がそれか?」
「え~だって、これ重要だよ。不味かったら、近くのコンビニでパン買わなくちゃいけないし、それに、数えるくらいしか外食したことないから、興味あるんだよね」
「外食と学食は違うだろ?」
蓮君の呆れ具合が増していく。またしても馬鹿にされた。
「まぁ、そうだけど、外で食べることには変わりないじゃない。やっぱり、定番の唐揚げ定食が人気なのかな?」
定食と言えば、唐揚げだよね。それとも、カレーかな。これも、テレビで知ったこと。私にとって、外の世界を知るツールは、テレビなどを媒介にするしかなかった。仕方ないとはいえ、ほんと、狭い世界で生きていたって思い知る。
「いや、唐揚げも美味しいけど、俺的にはラーメンだな」
「ラーメン? 三分待つのじゃなくて」
「はぁ!? 学校でカップラーメンは出さねーよ」
「でも、ラーメンを食べれるのは、ラーメン屋さんか中華屋さんだよね。学食で何時間も骨を煮込むの!?」
なんか、私の知識は偏ってるみたい。雑誌とかテレビでたまにするラーメン特集で、そんなことを話していたのを覚えてたんだけど、違うの?
「詳しくは知らねーけど、カップラーメンじゃない。入学したら食えるだろ」
入学したらね……
蓮君は私が入学するって信じてる。私の嘘を信じてる。
半分は本当で、半分は嘘。
入学しようとしていたのは事実。でも、私は入学することはない。できないの……
自分で吐いた嘘なのに、胸がすごく痛いな。私の我が儘に付き合わせてるのも、苦しい。だからといって、蓮君の前から消えることもできない。
私の初めての恋が、私をさらに我が儘にする。
わかっているのに、私は限られた時間を蓮君と一緒にいたいと貪欲に願う――
願ってしまう。
「そうだね。一緒に食べようね、蓮君」
私は明るい声で微笑みながら約束する。叶わない約束を平気でしてしまう。
私はとても自分勝手で、業が深い人間なんだよ。付き合わせて、ごめんね。
「しょうがないな、付き合ってやる」
どうしようもない感ありありだけど、その言葉嬉しいな。未来があって。私には眩しすぎるよ。
「ありがとう……」
「大丈夫か? 少し寒くなってきたな?」
私の身体気遣ってくれるんだ……ほんと、優しいね。
「大丈夫。見て、ちゃんとカイロ貼ってきたから」
そう言って、セーターを少し捲ろうとしたら、すっごい勢いで止められた。
「馬鹿が!! 高校の前に常識を習え!!」
「痛っ!!」
少し遊んだのは悪かったけど、頭叩くことないよね。女の子の扱いじゃないよね。ココアの件で、女の子の扱いされたと思ったのに、直ぐに降格って、酷くない!?
「他の誰にもするなよ!!」
「カイロを貼ってるのを見せること?」
「違う!! いや、違わないか、とりあえず、セーターを捲ることだ!!」
「見せてもいいアンダーなのに? 駄目なんだ~」
もしかして、降格ではなく昇格していたのかな?
ニヤリと笑う私にムカついたのか、「その顔止めろ」って低い声で言われて、また叩かれた。
「女の子に手を出すなんて、最低~」
「教育的指導だ」
大きな溜め息を吐きながら、蓮君は言った。
蓮君の手、大きくて温かかったな。ちゃんと、生きている人の手だね。
「……蓮君だから、話せるのかもしれない」
曲がり角に消える蓮君を見ながら、私はポツリと呟く。
今までの私は苦しくて、言葉一つ発するのも難しかった。話し方を忘れてしまうほど、私は誰とも話せなかった。
ましてや、身体中にたくさんのチューブに繋がれてて、指一本動かすのもしんどくて苦痛だった。でも、色んな話し声や音は聞こえてたよ。心地良いのや違うものとか色々ね……
蓮君の声は、今まで聞いていた中で一番心地良いの。
だから、ずっと話していたいと思う。
聞いていたいと思う。
あれから公園で話し込んじゃったよね。蓮君が家まで送ろうと言ってくれたのは嬉しかった。家の前まできた時、思わず言っちゃった、「あがる?」って。すると、蓮君は焦ったように帰って行ったね。
あの時、本当は内心ホッとしたの。
だって、もし蓮君が私の家にあがったら、直ぐに私の秘密に気付いたはずだからね。私が吐いていた嘘もバレてたよ。
どうして、私はあんなことを口にしてしまったんだろうね?
バレてほしくはないのに……
「ただいま」
私は玄関で、そう声をかけてから二階に上がる。返事はかえってこない。
リビングは今日も真っ暗。二人とも仕事で毎日帰りが遅い。帰るだけまだマシかな。私の医療費のせいで借金してるから、両親は忙しいの。寂しいけど我慢。
私は蓮君から貰ったココアの缶をベッドのサイドテーブルにソッと置く。そのまま、ベッドに座った時だった。
『人間って、つくづく矛盾した生き物ですね』
まるで、私の心を見透かしたかのように、アイツは突然現れ、私にそう話し掛けてきたの。
30
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる