空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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捨てられた紙袋

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 不幸を願わなくても破談になればいい。つくづく、薄情な娘だよね。

 亮君や立花ちゃん、そして二人のお父さんである立木さんと自身のお母さんを天秤にかけた時、私は迷わずに立木家の皆を選んだから。

 産んでくれたことには感謝はしてる。最後まで治療させてくれたことにも感謝はしてる。

 でも、それだけ。

 それらを加味した上で、私はお母さんを選ばなかった。選べなかった。特に酷いとは思わない。

 ただそれだけのことなのに、モヤモヤして気持ちが晴れないのは……やっぱり、お母さんに対してわずかに残っている情のせいかもしれない。まぁ、あんな葬式をしても親だからね。

 そう思ってたのにな……まさか、あんな行動に出るとは考えてもいなかったよ。

 事が起きたのは、昼前だった。

 前と同じで、突然、お母さんは家にやって来たの。相変わらず、私の遺骨に手を合わせることなんてしない。今回も見えていないしね。

 とはいえ、仏壇の前に立つ姿は意外すぎて、私もラキさんも固まって成り行きを見ていた。ほんの少しだけ、手を合わせてくれるかもって期待してた。すると、怨嗟えんさの声が聞こえてきたの。一瞬、聞き間違いかと思っていたけど、違った。

「最後まで面倒をみてやったのに、死んでまで私の邪魔をするのね。忌々しい」

 お母さんは私の遺骨に向かって、そう吐き捨てると、私の骨壺を乱暴に持ち紙袋にぼしこむ。そのまま、家を出て行った。

 慌ててあとを追い掛けるラキさん。遅れて、私も家を飛び出した。お母さんは直ぐに見付かった。少し離れた場所で、ラキさんが呆然と立ち尽くしている。

 私とラキさんの目の前で、お母さんは迷うことなく粗大ごみに出したの。紙袋ごと私の遺骨が入った骨壺をね。

「……最低限、永代供養はされると考えていたけど、それは甘かったみたいね。海に蒔いてくれるだけでもよかったのに……それすら、したくなかったのね。……ラキさん、大丈夫? 私は大丈夫だから、手を緩めて」

 怒りで震えながら、ラキさんは両拳を握り締めていた。このままだと、ラキさんの手が傷付きそうだったから、私は彼の手を握り声を掛けた。思っていた以上に、落ち着いた声が出たよ。

 私がそう声を掛けている間に、お母さんはさっさと帰って行った。 

 お母さんは立木さんに振られたの、私のせいだと思っているみたい。

 違うのに、何故気付かないの。

 少なくとも、あんな葬式で娘を送り出して、その上娘の骨壺を平気で粗大ごみに出せる所に、嫌気がさしたんだよ。そんな人に、自分の子供を預けることはできないでしょ。

『……追い掛けないのですか?』

「問題発言だね、ラキさん。追い掛けていいの?」

『…………』

 さすがに、していいなんて言えないよね。

「安心して、しないよ。だって、しても仕方ないってわかったから。でも、このことは亮君と立花ちゃんに報告するよ。一応、動画に撮ってるから、言い逃れはできないしね。葬式のことも話すつもり」

 笑いながら言った。ラキさんはそんな私を見て驚いたあと、小さく笑った。

『……余裕ありましたね』

「いや~たまたま、スマホいじってたから」

 バッチリ撮れてるはず。あとは、紙袋の中を写しておけば、信憑しんぴょう性が上がるわね。

 粗大ごみの中から紙袋を取り出すと、道の端で写真を撮る。一応、粗大ごみ場を背景に。




 その日の夕方、遊びに来た亮君と立花ちゃんに昼間に起きたことを話した。立花ちゃんはボロボロと泣きながら、怒りで震えている。だけど亮君は、顔を怒りで歪ませたままスマホを持ち廊下に出ると、どこかに電話を掛けた。

 会話の端々が聞こえてくる。どうやら、立木さんに掛けているみたい。

 短い会話のあと、亮君は電話を切り、リビングに戻って来た。

「お父さんが、会社終わったあと来るって。あと、その映像と写真のコピーが欲しいって言ってた」

「うん。わかった」

 今日は長い夜になりそうね。


 
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