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次に……とはまだ言えないけど
しおりを挟む漸く落ち着いた私は、ラキさんから身体を離した。
『大丈夫ですか?』
心配して、膝を折り私の顔を覗き込むラキさんに、私は笑い掛けると「大丈夫」と答えた。
私はスマホを拾うと、先日交換したばかりの立木さんにメールを送った。たまたまスマホを開いていたのか、直ぐに返事が返ってきた。
〈わかった。よく耐えたね。今から迎えに行くから待っていなさい〉
えっ!?
「ど、どうしよう!? 立木さん、今から来るって!! 今、仕事中だよね」
焦った私は、寄り添ってくれているラキさんに助けを求める。
『いいではないですか。そもそも、上手くふることが出来なかった彼の責任でしょう』
さも当然のように言われたよ。
「それは違うでしょ!!」
私はラキさんにそう言うと、立木さんに再度メールを送った。
〈会社が終わってからで大丈夫なので、立木さんは仕事頑張ってください〉
私のことで、これ以上、赤の他人である立木さんに迷惑を掛けたくはなかったの。亮君や立花ちゃんが、私の傍にいてくれるのを許してくれただけでも、立木さんに足を向けて寝れないのに、その上、遺骨の件を了承してくれた、それだけで十分お釣りがくるよ。
返せるものが、私には何一つないのに……立木さんからは貰ってばっかり。
〈今から迎えに行きます。こういう時ぐらい、大人に甘えてもいいんですよ〉
本当に、温かいよ。
赤の他人のために、ここまでしてくれるなんて――
スマホを持つ手が震える。
『三奈様……』
「……ラキさん、私、すっごく悔しいよ。悔しくて、悔しくてたまらない。なんで、死んでるだろ、私」
言っても仕方ない、やるせない怒りが私から溢れ出る。
生きていたかった。生きていたら、会えたかわかんないけど、それでも生きていたかった。蓮君や亮君や立花ちゃん、そして立木さん、皆々、大事な人たち。
生きてさえいれば、彼らと同じ時に存在出来た。それこそ、終わることのない奇跡を享受できたかもしれない。
どんなに大切で大事な人でも、どんなに願っても、私と彼らは違う世界に存在している。あと少しで、重なった世界はまた離れていく。
そして、もう二度と重ならない――
「生きていたかった。病院から出られなかったかもしれないけど、生きていたら……」
言葉がこれ以上出てこない。
何々してたらってよく使うけど、その言葉の裏には諦めと後悔しかないんだよ。全部が全部、自分の望み通りになんてならない。だから、人は妥協する。言い訳みたいに、この文字を語尾に付け、自分を納得させるために使うの。
私もそう……変えられない過去に後悔している。自分の力ではどうしようもなかったけど、それでも後悔しているの。
ほんと、苦しくて苦しくて、やるせなくて、ただただ……この苦しみから必死で逃れようとしている。見ないようにしていても、今みたいに目の前に突きつけられる。
『三奈様はどう生きたのでしょう……笑ったり、怒ったりして、忙しかったのでしょうね』
ラキさんの穏やかな声が降ってくる。私は顔を上げてラキさんを見上げた。
「……ラキさん」
『私は、そんな貴女を見てみたかったです』
ラキさんの言葉が私の心に沁みていく。
ラキさんは私に慰めの言葉はくれない。その代わり、私に隣で同じものを見て寄り添ってくれる。こんな仕事をしてるんだから、たぶん、ラキさんも似た思いを味わったことがあるんだろうね。どんな慰めの言葉より、私はそれが何よりもありがたかった。
「……私も、そんな風に生きてみたかったよ」
さすがに、次に……とはまだ言えないけど……でも、そんな人生を生きでみたいと、私は心から思った。
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