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光学都市と魔石の書
竜の相談役1
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この時代、ドグマティズムを強く推進する集団である縛鎖教団の戒律が広く浸透していた事もあり、それをかき乱す竜の存在は厄災の象徴として見る向きが主流となっていた。
しかし竜を観測する才に恵まれた者達も異端視され手当たり次第に狩られて行った為、教団と竜が直接的に対峙する機会はこれまでほとんど無いに等しかった。幸運と偶然によって回帰派のコミューンに身を寄せそれなりに平穏に暮らしていた彼女もまた、そのような時代の潮流に取り残された存在だった。
「よお。今日の成果はどうだい?」
トラックの荷台を覗き込みながら、見張りの男が声を掛けてくる。
「いつも通りさ。あまり期待はしない事だね」
荷台に積まれた小型サイズの工業用バッテリーを苦もなく荷台から降ろし、男に手渡しながら応える。
「持って行ったバッテリーの充電率は半分と少しってところか」資材を搬入する為に出て来た住民が後から遅れてやって来る。「地下栽培用のライトは手に入らなかったのか?」
「向こうの親父が言うには全部揃えるのには最低でもひと月はかかるとさ」
回帰派に対する物資の支給を打ち切る法改正が施行されて以来、ここの暮らしは一変した。他のコミューンと連帯して何とか自給自足の生活を送る為、他の回帰派のコミュニティを渡り歩いて物資援助を求め交渉する日々が続いていた。
横殴りの砂と熱風が絶えず吹き付ける過酷な環境下では作物は屋内や地下で育てるしか無く、その為に必要な各種設備を揃えに彼女は他のコミュニティへと出向いていたのだが、中々思うように事は進んでいない。
このコミューンは、乾燥地帯にある随分昔に打ち捨てられたプラント施設の跡地を利用して作られた比較的小規模なコミュニティだ。大規模な自動化に伴い非効率的な人力に頼ったインフラは次々に閉鎖され、工業生産の場は自動化された大規模な工業ラインへと集約化された。当時重工業地区だった頃の住民達は失職し、新たな職を求めて他の地区へと移って行った為、この土地は永らく荒れ果てたままになっていた。そこへ行く宛てのない回帰派達が辿り着いたのは今から三十年程前の事だ。
都市中枢部は最先端技術によって華々しく発展を遂げた一方で、一歩外に出ると其処彼処に打ち捨てられた過去の残骸が転がっていた。ゆくゆくはこの地区も近代化されるのだろうが、そこに回帰派の望む暮らしの出来る場は無い。都市部がこの地区の再開発事業に着手を決定すれば、また住む場所を新たに探さねばならない。
施設を改造して作られた住居区画へ向かうと、気心の知れた友人がこちらに気付く。
「遅かったじゃない。これで役目は一通り済んだの?」
「いや、今回も全然ダメだった。この分じゃひと通り目処が立つ頃にはあの子が成人してるかもしれないよ」
「成人…か。いまいちピンとこないな」
「そうか、アンタにはそういうのが無いのか。見た目は大してあの子と変わらないって言うのに」
「ハハっ。年上相手におかしな事を言うなあ!それよりほら、噂をすればあの子が来たよ」
搬入口とは逆方向、住居施設の奥の方から彼女の唯一の血縁者がやって来る。
「姉さん、何を独りで話して居るの?」
「ん?何でも無いよ。ただの独り言さ。さあ、夕飯にしよう」
そう言って、彼女は姿なき友人に目配せをすると奥にある食堂へ弟と連れ立って去って行く。
親の居ない姉弟の微笑ましいやり取りを見送りながら、一方で彼女は世界の異変を察知していた。
「そろそろ潮時、かな」
その言葉は誰にも聞かれる事も無く砂塵の舞う虚空へと消えて行った。
しかし竜を観測する才に恵まれた者達も異端視され手当たり次第に狩られて行った為、教団と竜が直接的に対峙する機会はこれまでほとんど無いに等しかった。幸運と偶然によって回帰派のコミューンに身を寄せそれなりに平穏に暮らしていた彼女もまた、そのような時代の潮流に取り残された存在だった。
「よお。今日の成果はどうだい?」
トラックの荷台を覗き込みながら、見張りの男が声を掛けてくる。
「いつも通りさ。あまり期待はしない事だね」
荷台に積まれた小型サイズの工業用バッテリーを苦もなく荷台から降ろし、男に手渡しながら応える。
「持って行ったバッテリーの充電率は半分と少しってところか」資材を搬入する為に出て来た住民が後から遅れてやって来る。「地下栽培用のライトは手に入らなかったのか?」
「向こうの親父が言うには全部揃えるのには最低でもひと月はかかるとさ」
回帰派に対する物資の支給を打ち切る法改正が施行されて以来、ここの暮らしは一変した。他のコミューンと連帯して何とか自給自足の生活を送る為、他の回帰派のコミュニティを渡り歩いて物資援助を求め交渉する日々が続いていた。
横殴りの砂と熱風が絶えず吹き付ける過酷な環境下では作物は屋内や地下で育てるしか無く、その為に必要な各種設備を揃えに彼女は他のコミュニティへと出向いていたのだが、中々思うように事は進んでいない。
このコミューンは、乾燥地帯にある随分昔に打ち捨てられたプラント施設の跡地を利用して作られた比較的小規模なコミュニティだ。大規模な自動化に伴い非効率的な人力に頼ったインフラは次々に閉鎖され、工業生産の場は自動化された大規模な工業ラインへと集約化された。当時重工業地区だった頃の住民達は失職し、新たな職を求めて他の地区へと移って行った為、この土地は永らく荒れ果てたままになっていた。そこへ行く宛てのない回帰派達が辿り着いたのは今から三十年程前の事だ。
都市中枢部は最先端技術によって華々しく発展を遂げた一方で、一歩外に出ると其処彼処に打ち捨てられた過去の残骸が転がっていた。ゆくゆくはこの地区も近代化されるのだろうが、そこに回帰派の望む暮らしの出来る場は無い。都市部がこの地区の再開発事業に着手を決定すれば、また住む場所を新たに探さねばならない。
施設を改造して作られた住居区画へ向かうと、気心の知れた友人がこちらに気付く。
「遅かったじゃない。これで役目は一通り済んだの?」
「いや、今回も全然ダメだった。この分じゃひと通り目処が立つ頃にはあの子が成人してるかもしれないよ」
「成人…か。いまいちピンとこないな」
「そうか、アンタにはそういうのが無いのか。見た目は大してあの子と変わらないって言うのに」
「ハハっ。年上相手におかしな事を言うなあ!それよりほら、噂をすればあの子が来たよ」
搬入口とは逆方向、住居施設の奥の方から彼女の唯一の血縁者がやって来る。
「姉さん、何を独りで話して居るの?」
「ん?何でも無いよ。ただの独り言さ。さあ、夕飯にしよう」
そう言って、彼女は姿なき友人に目配せをすると奥にある食堂へ弟と連れ立って去って行く。
親の居ない姉弟の微笑ましいやり取りを見送りながら、一方で彼女は世界の異変を察知していた。
「そろそろ潮時、かな」
その言葉は誰にも聞かれる事も無く砂塵の舞う虚空へと消えて行った。
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