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第1話:不穏な足音
しおりを挟む白霞の村の朝は、いつも静かで穏やかだ。山の霧が村全体を包み、鳥たちの囀りが響き渡る。剣之介は神社の境内で若者たちに護身術を教えていた。彼が教えるのは、ただ技を体に叩き込むだけではない。「技の呼吸」と呼ばれる、動きと呼吸を一体化させた古流体術の基礎だ。
剣之介:
「動きに迷いがある。息を止めるな。技を振るう瞬間に力を集中させろ。」
若者の一人が失敗して地面に倒れると、剣之介は穏やかに微笑みながら手を差し伸べた。
剣之介:
「失敗を恐れるな。それが力になる。だが、繰り返すたびに改善しろ。それが鍛錬だ。」
村の若者たちは剣之介を尊敬していた。彼の教えは技術だけでなく、心の在り方をも示していたからだ。
訓練が終わり、剣之介が神社の境内で休んでいると、村の東側から一人の男が駆け込んできた。息を切らし、額に汗を浮かべている。村人たちがその異常な様子にざわめき立った。
男:
「鉱山の方に……見知らぬ者たちが現れた!武装した男たちが洞窟を調べている!」
村人たちが顔を見合わせ、不安げに声を交わす。鉱山は村にとって神聖な場所であり、生活の一部でもあった。外部の人間が足を踏み入れることは、村の平和を脅かす行為だ。
剣之介は神社の縁側から立ち上がり、鋭い眼差しを男に向けた。
剣之介:
「武装しているというのは、どういうことだ?彼らの目的は分かるのか?」
男:
「詳しくは分からないが、見たところ、鉱山を調べているようだった。人数は10人以上……それに、何か機械も持ち込んでいるようだ。」
その言葉に剣之介の眉がわずかに動く。機械――それはこの村の生活には存在しない外の世界の象徴だった。
剣之介:
「すぐに確認する必要がある。長老にも伝えておけ。」
男が頷き、村の集会所へ走り去るのを見届けると、剣之介は村の中心に目を向けた。
村人たちは次々に家から出てきて、広場に集まってきた。皆、恐怖と不安を顔に浮かべている。そんな中、一人の女性が剣之介に近づいてきた。彼女はナギサ――村の守護を自らの使命とする伝統派の若き闘士だ。
ナギサ:
「私も行く。外の人間が鉱山に侵入するなんて、絶対に許せない。」
その後ろから、トウマが声を上げる。彼は村では異端とされる技術派の若者だった。
トウマ:
「ちょっと待て、ただ飛び込んでいくだけじゃ無謀だ。相手が武装してるなら、情報を集めてから動くべきだろ?」
ナギサは苛立ったように彼を睨む。
ナギサ:
「情報なんて悠長なことを言ってる暇はない!神聖な場所が侵されているんだぞ!」
トウマ:
「だからこそ慎重に動くべきだって言ってるんだ。無駄な犠牲は避けるべきだろ?」
二人の言い争いを遮るように、剣之介が一歩前に出た。
剣之介:
「どちらも正しいが、どちらも欠けている。情報を集めるために動くのは当然だが、それには確かな行動力も必要だ。私が行く。ナギサ、トウマ、お前たちも来い。」
三人は村を出て、鉱山へと向かった。途中、山道を抜ける風が冷たく、木々のざわめきが不気味に感じられた。
トウマ:
「どうしてこんなタイミングで外の連中が来たんだ?この村なんて、外の世界には忘れられた存在だろ。」
剣之介:
「それが分かるまで動くしかない。だが、気を抜くな。いつ襲われるか分からん。」
その言葉に、ナギサも緊張を取り戻し、周囲に目を光らせた。
鉱山に到着した三人は、隠れながら遠くの様子を伺った。そこには、黒い防護服に身を包んだ武装集団が見えた。手には最新式のライフルや分析機器を持ち、洞窟の周囲を調べている。
ナギサ(小声で):
「あいつら……何をしているんだ?」
トウマ:
「調査機器だな。鉱石の成分を調べているのかもしれない。」
彼らの視線の先には、モローの利権集団のシンボルが入った箱があった。その名を聞いたことがある剣之介は眉をひそめた。
剣之介:
「モロー……中央の利権集団か。」
トウマ:
「そうだ。奴らは金になるものなら何だって奪う。」
剣之介は静かに立ち上がり、二人に向き直る。
剣之介:
「今は深入りせず、村に戻って報告しよう。だが、この侵入を許せば次は村そのものが危険に晒される。戦う準備を始める必要がある。」
ナギサは拳を握りしめ、悔しげに言った。
ナギサ:
「なら、早く戻って対策を練ろう。奴らをこの村から追い出すために。」
村に戻った三人はすぐに長老を交えた会議を開いた。モローの集団が鉱山に侵入していることが伝えられると、村人たちの表情が恐怖に染まった。
長老:
「これは平穏な日々の終わりかもしれん……だが、まだ戦いが始まったわけではない。剣之介、お前に皆を導いてもらう必要がある。」
剣之介は深く頷き、村の人々に向けて静かに言葉を発した。
剣之介:
「恐れるな。この村の命運は私たちの手にかかっている。そして、守り抜くためには一人ひとりの力が必要だ。」
次回予告:第2話「鉱山の真実」
モローの利権集団が鉱山を調査する目的とは?村を守るための準備が進む中、剣之介たちはさらなる真実に迫る――。
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