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第6話:「次なる脅威 」 第二節:暗雲の演算 ― モロー内部会議
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無音の空間に、光だけがあった。
蒼白く輝く六面体の会議室。壁という概念すら曖昧なその場に、影のような人影が五つ。
それぞれが仮想アバター、神経接続体、全身義体、あるいは電子存在――モロー統制機関の意思決定中枢、「深層委員会」だった。
中央のホログラムが脈動する。
照射された情報はすべて数式と戦況図に還元され、そこに「感情」の余地はない。
⸻
グレイヴス(作戦統括責任者)は、ゆっくりと口を開いた。
「――前回の白霞村への攻勢は、限定的な成果にとどまった。
我々はヴァルゴ中隊を失い、対象村の戦闘能力を過小評価していた。」
彼の背後に浮かぶ映像には、剣之介の戦闘データがスローモーションで再生されていた。
白霞石を背景に舞う剣。その軌道にはAIによる分析ラインが幾重にも重ねられている。
「……ただし、重要な収穫がある。」
その言葉と同時に、別の映像が投影された。
⸻
**ナイトフォールAIオペレーター・RHEL-X(レル・エックス)**の無機質な音声が会議室に響く。
「対象個体《剣之介》。霞流剣術使用。精神連携適性:想定外に高。
白霞石共鳴率:71.4%。
戦闘リズム:古流に基づく連続接続型。だが、予測難易度は上昇傾向にある。」
画面には、「剣気」という人智の外にある感覚を数値化しようとするアルゴリズムが羅列されていた。
それは、機械知能が“未知の直感”を追いかけている姿だった。
⸻
アークライン博士が椅子ごと傾きながら口を開く。
「なるほど。やはり彼は“単なる戦士”ではない。
白霞石との適応、それはつまり、“次の器”の可能性があるということだ。」
「彼を捕獲し、直接白霞石に共鳴させれば……あらゆる制御下に置けるかもしれませんな。」
その目はどこか愉悦すら帯びていた。
「兵器」という語を使わずに「価値」を語る口調は、冷酷な研究者のそれだった。
⸻
キール中佐がそれに割って入る。
「甘い理屈だ。
俺たちは兵を失ってる。現場は命懸けなんだよ。
研究材料を捕まえるためにまた死体を積み上げる気か?」
アークラインは肩をすくめた。
「……死体の山の上に立っているのが君たちじゃないかね?」
その一言に、会議室の空気が微かに揺れた。
だが、グレイヴスの声が全てを切り裂く。
⸻
「いいだろう。――今回の作戦を、第二段階へ移行する。」
照明が切り替わり、新たなホログラムが現れる。
それは、巨大な構造物。
山脈の尾根に建設された「白霞収束砲」。
白霞石のエネルギーを強制収束し、対象地点を蒸発させる一撃必殺の兵器だった。
「これは村を消す兵器ではない。“交渉の材料”だ。」
グレイヴスの言葉に、アークラインが笑う。
「脅しの効かない者は、痛みで従わせる。古典的ですが、効果的ですな。」
⸻
グレイヴスが、最後に一つの指令を下す。
「……そして、影を再び送れ。」
RHEL-Xが即座に反応する。
「影の剣士《Midnight Edge》、再投入準備中。
対象個体《剣之介》への再接触任務を優先指令として発動します。」
映し出されたのは、黒い戦闘スーツをまとった存在――
無音の死を纏い、光学迷彩とAIの補助によって霧そのものとなる暗殺剣士。
⸻
“戦術ではなく、演算によって動く殺意。”
それこそが、モローが次に差し向ける“答え”だった。
そして、その刃は再び――白霞の村へと向けられる。
(次節へ続く)
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