スキルツリーの探究者、弱小国家に転生する

Fragment Weaver

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正式版 第6話「次なる脅威」 第一節:静寂の村、傷跡と兆し

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朝露に濡れる白霞の村は、静謐な白に包まれていた。

陽が昇るよりもわずかに早く、剣之介は境内の石畳に膝をつき、黙々と刀を拭っていた。
瓦礫の隙間から香る炭の匂いと、風に混じる僅かな血の残り香が、昨夜の戦いが夢ではなかったことを証明している。

鳥の鳴き声も、子どもたちの笑い声もない。
ただ、白い霧だけが音もなく地を這い、村を包んでいた。

「……静かすぎるな。」

石灯籠に背を預けた剣之介は、鞘に収めた愛刀を見下ろした。
刃こぼれ一つない――だが、それが却って心に刺さる。

(ヴァルゴとの戦い……いや、あれはただの先触れだ。モローが、あれだけで終わるはずがない。)

村のあちこちで、復旧作業に当たる村人たちの影がゆらゆらと霧の中に揺れている。
中には竹槍を抱えて歩く若者もいれば、土嚢を積む老人もいる。誰もが疲弊しながらも、かすかな希望を抱いていた。

その時、剣之介の背後で足音が止まった。

「随分と早いな、剣之介。」

声の主はナギサだった。
袖をまくった衣の下に、いくつかの擦り傷が覗く。
それでも彼女の目は鋭く、戦う者の光を宿していた。

「眠れなかったのか?」と、剣之介。

「……夢で村がまた燃えてた。立ち尽くすしかなかった私を、剣之介が振り返らずに走って行くんだ。」

「……。」

「目が覚めたら、胸がずっと重くて……でも、不思議と怖くはなかった。」

ナギサはそう言って、剣之介の隣にしゃがみ込んだ。
湿った土の香りと、竹の油の匂いが、朝の空気に混じる。

「前より、皆が動いてる。あの子たちも、年寄りも、何かをしようとしてる。剣之介の剣は、そういう風を起こしたんだよ。」

彼女の声に、剣之介は何も答えなかった。
その沈黙の中に、言葉にならない問いと、まだ癒えぬ痛みが沈んでいた。

ふと、境内の木々の奥で鳥が鳴いた。
その声は、わずかに震えていた。

(何かが近づいている――)

その予感に、剣之介は背筋を伸ばした。
剣を握る右手に、自然と力が入る。

それはまだ「敵」という確証ではなかった。
ただ、空気の粒子が微かに重く、風の流れがわずかに乱れていた。

(これは……風が“警戒している”匂いだ。)

彼がまだ知らぬ“次なる脅威”は、すでにその足音を村の縁に滲ませていた。



白霞の村には、独特の“気”が流れている。

霧とともに眠るような静けさと、微細な音すら吸い込む白の結界。
それは「白霞石」の結晶が村の周囲に埋まっていることに由来し、時に人々を守り、時に外敵の足音を隠す。

だが今、その“守り”がわずかに軋んでいる。

剣之介は立ち上がり、村の東縁へと歩き出す。
足音は土を踏みしめるたびに、湿った地面に吸い込まれていく。

「どこへ行くの?」ナギサが問う。

「見ておきたいものがある。」

「一人で?」

「……ああ。」

言い残し、剣之介は霧の中へと姿を消す。
ナギサは小さく息を吐いた。彼の背に宿る気配が、僅かに鋭くなっていたことに気づいていた。

──

村の境界線。
かつて外敵が侵入した際に強化された柵と警戒線のそばで、木に腰かけていた男が一人。

リツキだった。

肩に槍を担ぎ、足元には複数の袋。
その中には草の根、香草、そして機械部品が混在していた。

「早いな、剣之介。」

「お前も……もう動いてるのか。」

「敵が来るのはわかってる。それまでに、できることをするだけさ。」

剣之介は立ち止まり、リツキの槍を見る。

「相変わらず、鉄じゃないのか?」

「ああ。竹はいいぞ。軽い、しなる、音も小さい。剣士には不向きでも、俺にはちょうどいい。」

彼は淡く笑ったあと、剣之介の目を見据えた。

「お前の気配が変わってる。何か見たか? 感じたか?」

剣之介は答えず、ただ霧の向こうをじっと見つめた。

「……風が揺れた。霧が呼吸してる。何かが、近くにいる。」

リツキは立ち上がった。
彼の顔に浮かぶのは、戦士の表情ではなく、“狩人”の目だった。

「それは……『兆し』だ。なら俺も動こう。」

剣之介は、その言葉にわずかに頷いた。

──

彼らの背後で、白霞の結界がかすかに震えた。
それは、誰にも気づかれぬほど微かな、波動の歪み。

村の内部では、まだ誰も知らない。
だが、“兆し”は確かに始まっていた。

そして、その霧の彼方では――
モローの新たなる兵器と策謀が、静かに“収束”の時を待っていた。

【次節へ続く】


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