5 / 21
正式版 第6話「次なる脅威」 第一節:静寂の村、傷跡と兆し
しおりを挟む朝露に濡れる白霞の村は、静謐な白に包まれていた。
陽が昇るよりもわずかに早く、剣之介は境内の石畳に膝をつき、黙々と刀を拭っていた。
瓦礫の隙間から香る炭の匂いと、風に混じる僅かな血の残り香が、昨夜の戦いが夢ではなかったことを証明している。
鳥の鳴き声も、子どもたちの笑い声もない。
ただ、白い霧だけが音もなく地を這い、村を包んでいた。
「……静かすぎるな。」
石灯籠に背を預けた剣之介は、鞘に収めた愛刀を見下ろした。
刃こぼれ一つない――だが、それが却って心に刺さる。
(ヴァルゴとの戦い……いや、あれはただの先触れだ。モローが、あれだけで終わるはずがない。)
村のあちこちで、復旧作業に当たる村人たちの影がゆらゆらと霧の中に揺れている。
中には竹槍を抱えて歩く若者もいれば、土嚢を積む老人もいる。誰もが疲弊しながらも、かすかな希望を抱いていた。
その時、剣之介の背後で足音が止まった。
「随分と早いな、剣之介。」
声の主はナギサだった。
袖をまくった衣の下に、いくつかの擦り傷が覗く。
それでも彼女の目は鋭く、戦う者の光を宿していた。
「眠れなかったのか?」と、剣之介。
「……夢で村がまた燃えてた。立ち尽くすしかなかった私を、剣之介が振り返らずに走って行くんだ。」
「……。」
「目が覚めたら、胸がずっと重くて……でも、不思議と怖くはなかった。」
ナギサはそう言って、剣之介の隣にしゃがみ込んだ。
湿った土の香りと、竹の油の匂いが、朝の空気に混じる。
「前より、皆が動いてる。あの子たちも、年寄りも、何かをしようとしてる。剣之介の剣は、そういう風を起こしたんだよ。」
彼女の声に、剣之介は何も答えなかった。
その沈黙の中に、言葉にならない問いと、まだ癒えぬ痛みが沈んでいた。
ふと、境内の木々の奥で鳥が鳴いた。
その声は、わずかに震えていた。
(何かが近づいている――)
その予感に、剣之介は背筋を伸ばした。
剣を握る右手に、自然と力が入る。
それはまだ「敵」という確証ではなかった。
ただ、空気の粒子が微かに重く、風の流れがわずかに乱れていた。
(これは……風が“警戒している”匂いだ。)
彼がまだ知らぬ“次なる脅威”は、すでにその足音を村の縁に滲ませていた。
⸻
白霞の村には、独特の“気”が流れている。
霧とともに眠るような静けさと、微細な音すら吸い込む白の結界。
それは「白霞石」の結晶が村の周囲に埋まっていることに由来し、時に人々を守り、時に外敵の足音を隠す。
だが今、その“守り”がわずかに軋んでいる。
剣之介は立ち上がり、村の東縁へと歩き出す。
足音は土を踏みしめるたびに、湿った地面に吸い込まれていく。
「どこへ行くの?」ナギサが問う。
「見ておきたいものがある。」
「一人で?」
「……ああ。」
言い残し、剣之介は霧の中へと姿を消す。
ナギサは小さく息を吐いた。彼の背に宿る気配が、僅かに鋭くなっていたことに気づいていた。
──
村の境界線。
かつて外敵が侵入した際に強化された柵と警戒線のそばで、木に腰かけていた男が一人。
リツキだった。
肩に槍を担ぎ、足元には複数の袋。
その中には草の根、香草、そして機械部品が混在していた。
「早いな、剣之介。」
「お前も……もう動いてるのか。」
「敵が来るのはわかってる。それまでに、できることをするだけさ。」
剣之介は立ち止まり、リツキの槍を見る。
「相変わらず、鉄じゃないのか?」
「ああ。竹はいいぞ。軽い、しなる、音も小さい。剣士には不向きでも、俺にはちょうどいい。」
彼は淡く笑ったあと、剣之介の目を見据えた。
「お前の気配が変わってる。何か見たか? 感じたか?」
剣之介は答えず、ただ霧の向こうをじっと見つめた。
「……風が揺れた。霧が呼吸してる。何かが、近くにいる。」
リツキは立ち上がった。
彼の顔に浮かぶのは、戦士の表情ではなく、“狩人”の目だった。
「それは……『兆し』だ。なら俺も動こう。」
剣之介は、その言葉にわずかに頷いた。
──
彼らの背後で、白霞の結界がかすかに震えた。
それは、誰にも気づかれぬほど微かな、波動の歪み。
村の内部では、まだ誰も知らない。
だが、“兆し”は確かに始まっていた。
そして、その霧の彼方では――
モローの新たなる兵器と策謀が、静かに“収束”の時を待っていた。
【次節へ続く】
⸻
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件
Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。
火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。
――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。
「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」
「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」
彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった!
魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。
着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。
世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。
胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる