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第六話「次なる脅威」 第四節:迫る機影 ― 収束砲構築開始
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夜明けの気配が、霧の奥にうっすらと滲み始めていた。
尾根を越えた山腹の斜面には、すでに巨大な鋼の構造体がその姿を現していた。鋼鉄の円環。幾重にも重なる補助アーム。中心部には、白霞石から削り出された無垢の結晶核が静かに脈動している。
それは、ただの構造物ではなかった。
——まるで、何かを「待っている」かのような、無言の意思があった。
「測定完了。共振基準軸、許容誤差内で固定。白霞石コアとの同期開始。」
無機質な音声が重機の制御中枢から響く。
装甲服に身を包んだ作業班が手際よく動き、次々と装置が配置されていく。傾斜地には脚部を伸ばした多脚重機が踏みとどまり、地盤へと巨大なパイロンが打ち込まれていく。振動が土を伝い、空気の奥にまで沈むように響いた。
その中心に立つのは、モロー統制機関所属のグレイヴス中佐だった。
曇天の下、彼は戦術端末越しに衛星データを見つめていた。白霞の村の輪郭が、淡く霧の奥に浮かび上がっていた。
「……例外を許さない。それが、我々の仕事だ。」
中佐は誰に言うともなく、呟いた。
その視線の端には、“霞流剣士 剣之介”のデータが表示されていた。
【生存確認 / 接触履歴あり / リスク評価:B+】
グレイヴスの瞳がわずかに細まる。
「文化も、記憶も、過去も——全ては灰になる。」
⸻
その頃、やや下層の工区では、技術局から派遣された女性研究者、イオ・セラフィムが別ユニットの調整に取り掛かっていた。
彼女の片眼には、試作型視覚支援端末〈プロトβ-Eyes〉が装着されている。そこに浮かび上がるのは、白霞石の粒子の流れ、共鳴振動のわずかな乱れ、そして——拒絶の波長。
「……この石、“呼吸”してる。」
イオの独り言に、オペレーターが首をかしげる。
「共振調整、難航しているんですか?」
「そうじゃない。石が“協調していない”の。……まるで、意思があるみたい。」
構築中の装置の名は【Z-Oblivion Type】。
正式名称:白霞石拡張型収束共鳴投射機。
一撃で山を消し、村ごと存在を削り取る超長距離攻撃兵器。
その中心核に使用されている白霞石が、今もかすかに“震えて”いる。
——拒絶しているのだ、この構造体に。
「この振動層……“記憶”に触れてる。」
イオはそっと胸元のポケットに手をやる。そこには、かつて白霞の村を調査した際に子どもから渡された、小さな祈祷布があった。
「何かが壊れる。……それも、取り返しのつかない何かが。」
⸻
「セラフィム技官、報告しろ。」
通信が入る。グレイヴス中佐の声だ。
「はい。砲台展開進行中。ただし、白霞石との共振層に乱れがあり、起動時に出力誤差が——」
「問題ない。撃てさえすればいい。石の機嫌など、我々には関係ない。」
通信は一方的に切られた。
イオは息を呑み、静かに端末を閉じる。白霞石の波動は、なおも微細な周期で“抗い続けていた”。
「……何かが、目覚めようとしている。」
⸻
同時刻。
白霞の村の地中センサーが、微細な磁場変化と振動を検知していた。静かな霧の奥で、地鳴りのような感触が、かすかに響いていた。
境内の外れ、リツキが風を読むように立ち止まる。
「……剣之介。山の奥で、空気が……刺さってきてる。」
剣之介は黙って頷いた。
「“槍”が向けられている。……殺すための“意思”だ。」
空に鳥が一斉に飛び立った。
霧が裂けるように空へと舞い、誰にも見えない“狙撃手の眼”が村に向けて固定されていることを、彼らは直感していた。
その槍が放たれる時が、確実に近づいていた。
——“戦い”は、始まっていた。
⸻
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