スキルツリーの探究者、弱小国家に転生する

Fragment Weaver

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第六話 最終節:「剣、立つ ― 白霞境界戦」

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——足が、地を裂く。

山道を駆ける剣之介の身体は、空気の流れそのものと化していた。

足裏の感覚が地面に吸い込まれ、視界の奥で収束砲の砲塔が霧の中に浮かび上がる。
照準が完成しつつある今、彼が選んだ道はただ一つ——突貫。

風を裂き、霧の帳を蹴る。
霞流の呼吸に合わせ、身体がまるで“山の気”に乗るかのように加速していく。

「“間”が、見える……!」

それはかつて、師から教わった“剣と空間の繋がり”。
だが今、剣之介は初めて、“剣を持たずとも世界を斬る”という感覚を得ていた。

山肌の斜面を滑り、岩の陰をすり抜け、霧の隙間を縫う。
剣之介の五感は、地脈を走る気配のような微細な“収束のうねり”を捉えていた。

——その先に、“白霞石の共鳴”がある。



同時刻、山中の索敵ドローンが一つ、急激な磁場干渉により通信不能となった。

トウマが地下のジャミング中継端末を握り、口元を引き締める。

「今だ……剣之介。道は開けた。」

ナギサも村の広場で囮として立ち回り、残されたPMC小部隊を引きつけていた。

リツキは別ルートから接近中の重装備隊に対し、手製の地雷を用いて時間を稼いでいた。

村が、剣之介の剣を通して戦っていた。



その頃、収束砲の操作パネルに異常信号が点滅した。

「共鳴振動に……微弱な干渉波が再発!白霞石が照準安定を拒絶しています!」

「構わん、強制固定でいい。発射準備を継続しろ!」

グレイヴスの命令が飛ぶ。

だが、誰も気づいていなかった。

その微弱な“拒絶波”は、あたかも——**一人の剣士を導くために拡張された“剣の道”**であるかのように、風を操っていた。



剣之介は、霧の切れ間で砲座の頂点を視界に捉えた。

距離、およそ数百メートル。

——走破可能圏内。

その刹那。

索敵レーザーの赤線が、剣之介の肩先をかすめて通り過ぎた。


「——見つかったか!」

直後、周囲の茂みから無人歩哨が二体、銃身を閃かせて現れた。

剣之介は迷わず刀を抜いた。

空気が、震える。

霞流奥義「水面返し」——振り下ろされる銃撃の軌道を読み、剣気の反射でそれを逸らす。

一閃、二閃——風とともに閃いた剣が、無人歩哨の関節部を断ち、機械の体が崩れ落ちた。

「退く理由はない……進む“意味”がある限り、俺は——!」

そして、最後の斜面。
剣之介は刀を収め、一度だけ深く息を吸い込む。



発射シークエンス、最終段階。

「エネルギー臨界に到達——発射まで、5秒!」

収束砲がうねり、地面がわずかに震える。
中心核が淡い白光を放つ。

だがその瞬間——
剣之介の踏み込みとともに、砲座全体に不可解な“逆共鳴”が走った。

白霞石が、剣士の到達を“受け入れた”。

「——“導け”。」

剣之介の剣が、砲座の共鳴コイルを“なぞる”ように走る。

破壊ではない。——これは、砲座との“共鳴解除”だ。

砲座の制御装置が次々とショートし、
フィールドコイルが「バチッ」と音を立てて消失。

次いで、砲塔の外周部に設置されたターゲティングリングがパリン、と音を立てて崩落した。

高度計がゼロを刻み、発射シーケンスが自動中断される。

白霞石の中心核は、まるで剣の通過を追うように一度だけ柔らかな光を放ち、完全に沈黙した。

——沈黙こそが、勝利の証。



剣之介は膝をついた。

肩で息をし、握り締めた刀の柄から力が抜けていく。

その指先には、微かに“温もり”のような震えが残っていた。
ただの金属ではない。剣は、空間と、記憶と、“意思”を繋げるものだった。

風が吹く。

霧が流れ、空が割れ、山の輪郭が見える。

砲座の残骸から、かすかに響くのは……静かな、“何かの解放音”。

——白霞は、剣によって、守られた。


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