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第六話 第六節:剣の鼓動 ― 襲来、収束砲照準
しおりを挟む霧が晴れることのない朝、白霞の村を包む空気はひときわ重かった。
風が止み、木々の葉すら揺れぬその静けさの中に、剣之介は確かに“違和感”を感じ取っていた。
それは遠く、しかし確かに――鋭く、熱を帯びた“視線”のようなものだった。
「……来るな。」
剣之介が独りごちたその瞬間、村外縁の警戒装置が微細な異常を検知。
直後、斥候として出ていたリツキが駆け戻ってきた。
「剣之介――山の向こう側に、“熱の収束点”が現れている。おそらく、収束砲が……照準を合わせている!」
報告を聞いた瞬間、剣之介の視線が鋭く跳ね上がる。
背後ではナギサが子どもたちを神社の地下に避難させ、村の若者たちは指示を受けて装備を整え始めていた。
「村を……狙ってるのか?」
リツキは頷く。
「座標の変位を追ってる。奴ら、こっちの動きに“照準を合わせてる”んだ。まるで村そのものがターゲットだ。」
そのとき、空の一角に、光の筋が走った。
薄曇りの空を斜めに切り裂くように伸びる、かすかな“光の索敵線”――収束砲の照準レーザーだ。
剣之介の眼前を、赤い光が掠める。瞬間、空気が焼けたような微かな匂いと熱。
「……っ、なんだこれは……!」
レーザーの軌跡が、神社の屋根をかすめて消えていく。
狙いは定まっていない。だが、それは逆に、「定めている最中」であることを意味していた。
剣之介はリツキに目を向けた。
「射線はどこから来てる?」
「村の西、標高2200の尾根……そこに新たな砲座。標準軌道であと2分で“固定完了”の可能性がある。」
「間に合うな。」
「え?」
剣之介は言葉を返さない。
代わりに、腰の白霞刀を抜き、背にある封印布を解く。
刀身に宿る白霞石の核が、光の鼓動と共に脈打つ。
霧が裂ける。空気が震える。
その瞬間、剣之介の身体が、一歩前へと踏み出した。
「……一太刀、届けばいい。」
ナギサが駆け寄る。
「まさか……行くの!?」
「この距離、剣では届かない……なら、俺の“歩み”ごと剣にする。」
「無茶だよ!相手は砲台よ、射程の理屈が違う!」
だが、剣之介の足は止まらない。
その背に、霞流の伝統、幾多の剣士の誇り、そして“村人たちの想い”が重なっていた。
「無茶は承知だ。けどな、俺の剣は……“この村で生きる”ためにある。」
霧の中へと走り出す剣之介を、リツキとナギサが見送る。
「せめて、半径500メートル内に入れば……!」
「いいえ、彼なら行ける。剣の道は“間合い”じゃない。“覚悟”で届かせるものよ。」
村の背後、霧が裂ける。
剣之介の気配が、空気を震わせながら、収束砲の照準へと走っていた。
――次節、第七節「剣、立つ ― 白霞境界戦」へ続く。
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