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第七話 第一節:「夜の輪郭 ― 薄明に揺れる村」
しおりを挟む霧が、夜を抱いていた。
それは空から降るのではなく、大地から滲み出すように広がっていた。
白霞の村では、剣之介の帰還以降、一切の発砲音も悲鳴もなかった。
だが静寂こそが異常の証。
日が落ちても、鳥は鳴かず、虫すら音を立てない。
神社の石段に、リツキが腰掛けていた。
探知器の画面には何も映らない。だが、彼の耳が、肌が、そして“気配を読む”感覚が告げていた。
——何かが、潜んでいる。
「剣之介はまだ戻ってないのか?」
そう尋ねたのは、ナギサだった。
額には汗、肩には小刀。防衛隊の訓練から戻ってきたばかりのようだった。
「地下の封域にいる。白霞石と何か……“会話”しているらしい。」
ナギサは苦笑するように息をついた。
「言葉を持たぬ石と話す。あの人らしい。」
空を見上げると、夜の帳がまだ村の輪郭を覆っていない。
しかし“光”もまた、影に抗うことをためらっているようだった。
その時、霧の向こうで、かすかに土が軋む音がした。
リツキがすぐさま立ち上がり、短弓を握る。
だがその“音”は、ただの物理的な振動ではなかった。
——霧の奥で、誰かが“立っている”。
**
神社の裏手、封域の入り口。
剣之介はひざまずき、白霞石の前にいた。
石は、脈動していた。
表面に触れた指先から、かすかに熱を感じる。
それは火でも電気でもない、“記憶”の熱だった。
「……俺の剣は、この村のために振るわれた。
だが、この村が何を守ってきたのか……本当のところを、俺は知らない。」
石は何も答えない。だが、返事がないことが、剣之介には“言葉”に聞こえた。
“村を守る”とはどういうことか。
“剣を振るう”とは誰の意思なのか。
その問いが、白霞石の鼓動と同じリズムで、彼の胸に打ちつけていた。
**
境内の松明に火が灯る。
防衛隊の一人が走ってきた。
その目は、言葉より先に“異常”を告げていた。
「西の外れに……霧の流れが逆転しています!」
ナギサとリツキは目を見合わせた。
「霧は風とともにあるはず……それが逆流するって……?」
リツキは背負った探知器を再起動させながら呟いた。
「何かが、こちらに向かっている。」
その“何か”の正体はまだ分からない。
だが、剣之介が霧の奥に立つその瞬間、彼の剣はすでに“構えて”いた。
——夜が、牙を研ぎ始めていた。
⸻
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