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第七話 第二節:「霧の警鐘 ― 境界の揺らぎ」
しおりを挟む霧は静かに揺れていた。だが、それは自然の呼吸ではなかった。
村の西外れ、かつての炭焼き小屋の跡地付近——
普段は誰も通らぬ裏道に、霧が“内側から膨張する”ように押し寄せていた。
リツキはそこにいた。
探知器の微細波スキャンが、通常とは異なる“層の歪み”を検知している。
「重なってる……?」
彼の視界の先で、空間がわずかに“波立って”見えた。
まるで、二つの現実が触れ合い、一瞬だけ擦れたような違和感。
“境界”が、揺らいでいる。
**
村の神社では、剣之介が封域から戻ってきたところだった。
白霞石に触れた時間は短かった。だがその感覚は、言葉にならぬ“内なる予感”を彼に残していた。
「……来る。」
その一言に、ナギサとリツキが頷いた。
「村の警戒網、すでに一部が反応を示している。
けど、“侵入”というより、“擦れている”……って表現のほうが近いかもな。」
リツキがスキャンログを剣之介に見せる。
そのグラフは、まるで人間の心拍のように不規則に波打っていた。
「境界が不安定になってる。
霧の流れそのものが、“この村を中心にして渦を巻いてる”。」
剣之介はその言葉に、ふと空を仰いだ。
「白霞石は“結界”じゃない。“楔”なんだ。」
「……楔?」
「何かを、止めている。もしくは、こちらに来させないようにしている。
だからモローは、外からじゃなく、“境界ごと”壊そうとしてる。」
ナギサが息を呑む。
「じゃあ……村の外から攻めるだけじゃなく、村そのものの“成り立ち”を崩すつもりなの?」
「それが、“霧の逆流”の正体か……」
リツキが低く呟いた。
その時、遠くで雷のような低い振動音が響いた。
収束砲の予備共鳴——まだ“発射”ではないが、白霞石との共振層を測定する調整振動が走ったのだ。
剣之介は静かに刀を構える。
「準備しよう。“剣の届かぬ敵”が、ついに動き出す。」
**
霧が、鳴いていた。
それは風の音ではない。
かすかに、人の声のような……剣の軋みのような音だった。
——白霞の境界が、軋みを上げている。
⸻
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