スキルツリーの探究者、弱小国家に転生する

Fragment Weaver

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第七話 第四節「影の輪郭 ― 霧の境界線」前半その1

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霧が深く降りた夜明け前。

白霞の村の外縁、獣道のような山道を、リツキは無言で歩いていた。
背には簡易背嚢、腰には探知用の手製アンテナ。足元の草は霧に濡れ、朝露の粒が細かく震えている。

彼の視線は常に前ではなく、横と後ろ、そして上空を意識していた。

「……さっきの音、やっぱり“自然音”じゃない。」

自分にだけ聞こえたはずの微かな“かすれ音”が、ずっと耳の奥に残っていた。

**

一方、村の広場では、ナギサが若者たちを相手に訓練を行っていた。
その表情は凛と張り詰めているが、言葉には柔らかさがあった。

「いい?剣を振るうっていうのは、“恐怖に負けない覚悟”を振るうってこと。」

若者たちはうなずくが、その顔には緊張が浮かんでいた。

「死ぬための訓練じゃない。生き延びるために、いまできることを“備える”。それだけ。」

ナギサは、ふと空を見上げた。

風はない。霧も、流れていない。
“気配”が、“沈んでいる”。

「……おかしい。」

その瞬間、村の南方に位置する外周防衛網が、低く短い警報音を発した。

**

神社の石段を下りていた剣之介の足が止まる。

「……感じたか?」

その声に答えたのは、すでに走ってきたリツキだった。

「“何か”が入った。いや、もう“いる”……」

剣之介は霧の先を睨んだ。

「気配が……空間ごと、ねじれてる。」

リツキは頷き、小型端末の画面を見せる。そこには、重力波の微弱な変動が記録されていた。

「これ、普通の人間じゃない。“奴ら”だ。」

霧の帳に、わずかに輪郭が浮かび上がった。

無音のまま進行する、黒い影。
それは風に逆らい、霧に隠れるようにして村の境界を越えようとしていた。

「……ナイトフォール部隊か?」

「たぶん。でも、まだ“完全には踏み込んでいない”。境界を測ってる。」

リツキの声に、剣之介が短く答えた。

「なら、こちらも——“境界”を見せてやる。」

**

剣之介は霧の中を進み、境界結界の前に立った。

結界といっても、目に見えるものではない。
それは“白霞石の波動”と、村人の“意思”とが共鳴して生まれる目に見えぬ盾。

剣之介が刀を構えると、足元の霧がわずかに後退し、空間が“引き締まった”。

そしてその時——

——パチッ。

空気が弾けるような音。

霧の中から、一体の影が現れる。
それは人か、機械か……否、それすらも判別できないまま、剣之介は直感で動いた。

刀が風を裂く。

——しかし、影はそこに“いなかった”。

「……“視覚だけ”の投影?」

すぐさまリツキの声が入る。

「違う、**“予測視差”**だ。複数の波長で“存在の輪郭”だけを演算させてる。
つまり、奴はこの“霧の中の構造”を利用してる。」

剣之介は深く息を吸い、風の流れを読んだ。

「なら、読むしかない。“剣の間”を。」

**

ナギサは若者たちを避難させながら、防衛班と合流していた。

「始まる……今度は、前とは違う。」

トウマの端末が警告を示す。

「ナイトフォール式ジャミング。通信が遮断される。リツキと剣之介の位置も……もう正確にはわからない。」

ナギサは静かに目を閉じた。

「でも……気配は、わかる。」

**

——風が止む。

剣之介の前に、再び“輪郭”が現れる。
影は、霧の壁を切り裂くようにして、ついにその姿を顕現しようとしていた。

だが、その前に——

剣が、一閃した。

「“ここは、越えさせない。”」

——霧が切り裂かれ、空がわずかに明るむ。

白霞の村の“境界”が、確かにそこにあった。


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