スキルツリーの探究者、弱小国家に転生する

Fragment Weaver

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第四節「影の輪郭 ― 霧の境界線」後半 その2

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霧の帳が、次なる戦場を静かに覆っていた。

湿り気を帯びた夜気が肌を撫で、空と大地の輪郭は曖昧に溶け合っていく。

ここが誰にとって、何と何の間にある「境界」なのか――その答えすら、霧の向こうに沈んでいた。

剣之介は、夜の帳に深く包まれた神社裏手の山道をひとり歩いていた。

彼の足が向かうのは――かつて、父が歩いたであろう道だった。

剥がれかけた苔、曲がりくねった根が地表を這う細道には、時間の澱のような気配が宿っていた。

かすかに漂う草の匂いが、遠い記憶を呼び起こす。
幼い頃、母に手を引かれて歩いたあの小道――。

だが、今は誰の手も借りず、己の足で歩くしかない。
その先に、何が待ち受けていようとも。

前方の霧が風に押され、木立の間から滲むように白い灯が浮かぶ。
神社の境内だった。

そこに立っていたのは、ナギサだった。
背には古びた鳥居。足元には、小さな影が寄り添っていた。

「……来てくれたんですね」

ナギサの声は、霧の底から滲むように穏やかだった。

剣之介は、無言のまま頷く。
その足取りが、答えだった。

やがて霧の奥から、軽やかな足音が響いた。
小石を蹴るような音、呼吸を整えながら近づく気配――。

姿を見せたのは、まだ幼い少年。
ナギサのもとに身を寄せている、ユウトだった。

「剣之介さん……」

その呼びかけには、恐れも、拒絶もない。
ただ、まっすぐな願いが込められていた。

「あなた、本当は……誰も殺したくないんでしょう?」

その一言が、心の深部に触れる。
閉ざしていた扉が軋むように、剣之介の内側で何かが崩れ落ちていく。

知っていた。
気づかないふりをしてきたが、自分の中に芽生えていた違和感――。
このまま進めば、きっと自分は自分でなくなってしまう。

「……戦いは、もうすぐ始まる」

掠れた声が、口をついて出る。

「俺が斬るべきものが、そこにある。だが……それだけじゃない」

ユウトは黙って頷いた。
その幼い顔に浮かぶ表情は、どこか覚悟めいていた。

ナギサが静かに口を開く。

「なら、今この静けさを、心に刻んでください。
 それが、あなたを戻す道しるべになるかもしれないから」

剣之介は目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んだ。
草の匂い、湿った土の感触、空気の冷たさ。
それらが確かに、守りたいと願ったものだった。

そして剣之介は再び歩き出す。
霧の向こうに、戦場が待つ。

その背中を見送りながら、ナギサとユウトの姿は霧に溶けてゆく。

次に訪れる戦いは、もはや剣だけで越えられない。
その歩みは――もはやただの戦士のものではない。
命を、希望へと繋ごうとする者の、それだった。

そして彼の行く先には、まだ答えきれていない問いがあった。






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