稀血の令嬢は普通に生きたい 〜王子からの溺愛と執着は日常ですか?〜

ひまわり

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第3章

36.一番伝えたい言葉

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披露宴は無事にお開きとなった。


国王陛下と王妃陛下のご厚意で、今日はこのまま王宮に泊まることになっている。
与えられた部屋はゲストルームなのだろうが、家具や装飾はさすが王宮というもので、煌びやかで豪華である。
王宮の上階にあるその部屋のテラスからは、帰途に着く参加者達の馬車が見えた。


宴の喧騒が去った王宮のテラスには、星の光とランタンの柔らかな明かりが降り注いでいる。

ミラは披露宴できたドレスのまま、静かに夜空を仰いでいた。


ーー改めて自分の立場を実感する。
たくさんの祝福の言葉をいただけて、とても励まされた1日だった。
全て自分が選んだ選択だから、後悔はない。
むしろ、これからだと身が引き締まる。

これまでのことをぼんやり振り返ると、心が満たされる感覚になる。


そこへ、ゆっくりと足音が近づいた。

「…ミラ。ノックしたけど返事がなくて、入ってしまったよ。」

振り向くと、ルシア殿下が月光の下に現れる。
披露宴中とは違い、肩の力が抜けた優しい微笑みを浮かべていた。

ミラも微笑みを返し、そっと会釈をした。

「無事に終わり、ホッとしています。」

「ああ、ありがとう。完璧な立ち回りだったよ。」

殿下はミラの隣に並び、柵にもたれて夜空を見上げた。

しばしの沈黙。
それを破るように、彼はゆっくりと口を開いた。

「…私は浮かれているよ。今夜、ミラと正式に婚約できたことが、とても嬉しい。」

いつもながらにストレートすぎる言葉には、否応いやおう無く胸が鳴ってしまう。

「…私も、同じです。」

殿下の方を直視はできなかったが、はっきりと答えた。



広い庭と幾重の城門で囲まれる王宮での夜は静かである。
先に見える王都は、様々な色で輝いていた。

ーー人々が、生きている。
そのことを表す輝きは、それ以上に美しい。

「ここから見える景色を、ずっと守りたい。」

そう呟いた殿下の言葉に、同じことを考えていたのだと悟る。

「私は、ミラを“この国妃”として迎えることを誇りに思うよ。」

殿下は、自分のことを真っ直ぐに見ていた。




王族としての責務を重く感じることもあるかもしれない、不安になることもあると思う。

それはもう言わなくても、殿下は分かっている。全て分かった上での、私に対する全肯定の言葉なのだ。
最初から、彼はずっとそうだった。



瞳がじわりと温かく滲む感じがする。

貴方の隣で頑張りたいとか、一緒に国を背負う覚悟があるとか、そんなことはもう言わなくても伝わっていると思った。

だから、何度伝えても伝えるべだと思うことを、いや、伝えたくなることを言葉にした。

「……好きです…っ」



頬に熱を持つ感じがする。
もっと彼への想いを言葉にして伝えられたら、とも思うけれど、今の精一杯なのだ。


殿下は自分の肩にそっと腕をまわし、優しく引き寄せた。
その後、頭、耳、頬へと口付けをしていく。

そこで、屈んで目の前に来た殿下の顔と目が合う。
とても嬉しそうな笑顔を見せた後、唇が重ねられた。

頬だけでなく、顔全体が熱を持つ。
お互いに言葉を発しないので、静寂がより彼を近く感じさせた。

なかなか唇を離してくれなくて、息が苦しくなる。

「……ん、…っ」

我慢できず声を漏らすと、ようやく顔が離れた。

「……可愛い。」

乱れた呼吸がを治そうとする自分に対して、息一つ乱れていない殿下に少し悔しくなる。

「…からかわないでください。」

「からかってないよ。言ったでしょ、私は浮かれているし、ミラが可愛すぎるんだよ。」

ぎゅ、と正面から抱きつかれる。
聞こえる鼓動は、自分のものなのだろうか。

殿下の体にすっぽりと収まり、彼の胸元に顔を伏せた。

「ああ、離したくないなあ。」


私は返事をするように、袖をきゅっと小さく掴んだ。


「君が隣にいてくれるだけで、私は強くなれるよ。」


ありがとう、と小さく殿下は呟いた。
宝物のように優しく、優しく自分に触れている。

この腕の中の温かささえあれば、私も強くなれると思った。



月が静かに昇っていく。
その光の下、二人の影は一つに重なっていた。



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