少年兵と流れ星

阿納あざみ

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第一章

第2話 テラとメテオラ

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 数刻後、とある青年がテラたちのいる方角にスコープを向けていた。

 今朝から青年は妙な高揚感に襲われていた。
 理由は分かっている。テラというガキを始末してこい、という話が出回ったからだ。

 自分はあなた方とは違います、とでも言いたげなすかした態度の気にくわない子供だった。

 あの少年兵は気づいていないが、この部隊の子供は人手不足の解消より大人の優越感を満たすためのものだった。
 使えない子供を見下し、死ぬときは盾にする。
 そういう存在だったのだが、テラはそのようなトラップを見事にすべて回避してしまっていたのだ。

 勿論子供を自身の優越感のためのおもちゃにしていることは大人たちには公然の秘密であった。
 今回少年兵を用いたストレス発散に選ばれたのは、かの上官を敬愛する青年だった。
 上官は数々の罠を潜り抜け、生き延びるテラのことを面白がっていた。

 それが彼には自身の関心を横取りされたように思えたのだった。
 だからテラを確実に殺す役回りが来たとき、彼は内心大喜びした。
 これで邪魔なガキを消して己がいちばんになるのだ、と。

 作戦の時間になった。所定の位置につき銃を構える。
 スコープの先には子供の姿があった。
 迷彩をまとっていてもこちらからは丸見えの場所で、決して逃がせない獲物だった。
 彼は逸る気持ちを抑えて照準を絞り、引き金をひいた。

 スコープ越しに薄い金色の瞳の少女がこちらをまっすぐ視ていた。
 青年が疑問を抱く前に、彼はそのまま頭を撃ちぬかれて倒れた。
 彼の死体はすぐ発見された。
 青年から出てきた弾丸は、配給された弾丸の記録からテラのものであることがすぐ判明した。
 しかしテラはその部隊に二度と戻ることはなかった。

 部隊から一気にテラとやる気ある一名を失ったその部隊は敵国によって徐々に押されて、やがて撤退した。
 そんなことは、テラとメテオラには少しも関係のないことだった。


△▼△▼△▼△▼△
 

 作戦開始少し前。
 メテオラが言い出したことは荒唐無稽なものだった。

「それじゃあわたしがかわりに撃たれるから、テラはそこから弾道を読み取って相手を撃ってくれない?」
「メテオラが死ぬ前提の作戦じゃないか!」

 彼女は胸を張って慌てるテラをたしなめる。

「大丈夫、安心して。こんな銃じゃ死なないよ。だからテラは相手を撃ちぬくことだけ考えて」

 実際彼女には手があった。
 そもそもこんな砂漠地帯にうっかり落ちてしまったのはメテオラの小型宇宙船にミサイルが飛んできたからだ。
 彼女にはマッハで飛来するそれを落下傘一つで回避できる道具があった。

 時間の進捗を極限まで遅くする道具である。
 宇宙進出が当たり前になった世界において必須品だが、まだ同じ惑星内で宇宙進出権を争っているこの国にはそれの存在はまだ知られていなかった。

 また、宇宙の長大な時間軸で生きているメテオラには時間感覚を自在に操ることが可能だった。

 メテオラは狙撃されるポイントにしゃがみこむ。
 テラはそこを狙いやすい味方のおおよその位置を既に割り出していた。

 あとは向こうが撃ってくることを待つだけだ。
 そして彼女は時間が来ると同時に道具を使う。
 時間鈍化効果を展開する。
 ミサイルと比較すればせいぜい音速程度だが、それでも命を奪おうと迫りくる銃弾をそっとてのひらで包み込む。

 そして、メテオラは己を狙う狙撃手の、そのスコープのきらめくさまを視た。

「テラ、ここからまっすぐ!」
「わかってる!」

 時間鈍化効果を止めたメテオラの指さす先をテラは撃った。
 スコープには同じ部隊のいけすかない男が見えていた。悲しむ間もなく引き金をひいた。

 と、ほぼ同時に彼は後ろに倒れた。
 テラはその時、初めて相手のひととなりを把握した上で殺したのだった。
 動揺する己の手の内で砲身は熱くなっていたが言葉を返すことはなかった。
 相棒の狙撃銃が心のない機械だということを思い知った。

「べつにいけすかないやつだったけど、僕はアンタのこと、嫌いじゃなかったよ」

 これは懺悔なのだろうか、と思いながらテラは呟いた。
 指先まで冷えきっている。何度も敵軍は撃ってきたのに、初めて命を奪ったようだ。
 同じ部隊のひとを撃つのはもう二度と嫌だった。

「へへ、二度も命を救われちゃったね」

 一方でメテオラは受け止めた弾丸の熱さにてのひらをひらひらさせて冷やしていた。
 命を救ってもらったのはテラの方だというのに、冗談めかしてへらへらとメテオラは笑う。
 しかしメテオラは急に真顔になって言う。

「テラはこのあとどうするの?」

 彼は肩をすくめて銃を背負う。沈めていた心が顔を出す。

「自分を殺そうとしたひとたちの下になんか帰れないよ。脱走する」

 テラの決意にメテオラはやや嬉しそうに頬をゆがめながらも、それでも言葉ではテラの家族を心配した。

「大丈夫? 脱走兵って家族も大変な目にあうって聞いたけど」 
「……あの、メテオラ。メテオラの宇宙船って俺の家族も乗せられるくらい大きい?」

 それを聞いてメテオラは嬉しそうに顔をほころばせた。
 そしてナップサックからまた変な道具を取り出した。

「へへっあと五家族くらいなら入るともさ!」

 メテオラは手榴弾のようなものの紐をひっぱる。
 荒野にけたたましいブザーが鳴り響く。

 少しもしないで背後に巨大な宇宙船が光輝き粉塵を撒き散らしながら降下する。
 様々な色に輝きながら、円盤形の宇宙船がくるくると回りながらおりてきたのだ。

「ようこそ、我ら宇宙海賊ミーティアへ!」
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