少年兵と流れ星

阿納あざみ

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第一章

第3話 宇宙船

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 テラはその宇宙船を形容する語彙を持たなかった。
 平たいタバコ皿をひっくり返したような形の宇宙船だった。
 底には椀のようなものが四つほどくっついている。
 子供が食器棚にあるもので作った悪ふざけのようなかたちだった。
 
 もし誰かにユーフォーの知識があったなら、こう形容できただろう。
 いわゆる円盤型、オカルトマニアが言うアダムスキータイプユーフォーだ、と。
 
 下部からのぞく丸い部分が、ビガビガと七色に光りながらくるくると回っている。
 半球がピタリと止まり、光がテラとメテオラを照らす。

「くぉらメテオラ! 勝手に戦地へ行くなと言っているでしょうが!」

 宇宙船の中から怒鳴り声。
 あまりの勢いにスピーカーはハウリングした。
 メテオラは耳をふさぎ、テラは目を丸くし数歩後ずさって銃を抱えてしまった。

「ち、ちがうよ! 戦地って知らなかったの! おねがい、なかにいれてよ!」

 今回はまずいやつだ、みたいな表情で身振り手振りを混ぜつつ言い訳を重ねていく。
 少しの沈黙ののち、スピーカーは大きくため息をついた。
 観念したように光がメテオラとテラを持ちあげる。
 ぐうっとからだが浮く感覚が一秒ほどして、まばゆい光のなかを通される。
 テラはぎゅっと目を閉じ思わず狙撃銃に手を掛けた。

「物騒なもの持ってるね。ここじゃ撃たないでくれよ? 一応精密機器が揃ってるから」

 軽快な言葉に目をそっと開けば、あのちゃちな円盤型宇宙船からは想像できないほど真っ白な空間が広がっていた。
 白く輝く壁、鏡面のように磨かれた白いタイルの床、およそ四畳ほどの空間に、テラとメテオラ、そして背の高い女性がレンチを片手に腕を組み怒りを滲ませて立っていた。

「た、ただいまヘリオス。ええと、迷子防止ブザーめちゃくちゃ役に立ったよ」

 ヘリオス、と呼ばれた女性はメテオラの方を向くと青筋を浮かべながら綺麗に微笑んだ。

「そいつはよかった。小舟だけ帰ってきた時には流石に死んだかと思ったよ? 何せピッカピカの子をあんな煤だらけにして戻ってきたんだからねぇ」

 ギロリ、と薄く目を開く。青い瞳がまっすぐテラを射貫いた。
 値踏みするような視線に、軍上層部の少年兵を見定める無遠慮にあびせられた空気と似たものを感じて、つい目をそらしてしまった。

「今回も拾い物かい?」
「そ、そう! テラっていうの」

 メテオラも言い訳をするように緊張しているテラの手を握る。
 彼女の手も冷や汗をかいていていることに気づいた。
 いくら恩人で度胸のある女の子とはいえ、一人で矢面に立たせる訳にはいかない。
 テラもヘリオスをまっすぐ見据えた。ヘリオスは上から下まで眺めると怒りの表情をやわらげた。

「何もあんたを取って食わないさ。メテオラがしたいことをすればいい」

 そこで言葉を区切ると目付きをキッと鋭くしてメテオラをにらみつける。
 
「でもメテオラ! 報告連絡相談! これだけはしてくれよ!」
「アイアイメカニックー!」

 ヘリオスはふざけないの! とメテオラの頭を軽くはたいた。
 そして安堵したように微笑むと赤くて長いポニーテールをゆっくり揺らしながら扉の方へ去っていった。

「…………ふぅ、ヘリオスのお説教がいつもより少なくてよかった」

 メテオラはヘリオスが扉の向こうへ消えていくのを見送ったあと滝のような汗をぬぐいながらため息をついた。
 一方テラはヘリオスのお説教内容より威圧感に圧倒されていた。
 その背丈は言うに及ばず、全身の筋肉が戦う上で理想的なバランスでついていることをテラは見抜いていた。

「恐ろしい女性もいるんだな」
「普段は基本的に優しいよ。声めっちゃ大きいけど。主にわたしが怒らせるだけで」

 メテオラはケロリと伝える。反省の色が見えない。
 背負っていたナップサックをごそごそとまさぐっている。

「あっ、あったあった」

 取り出したのはこの宇宙船を呼び出す際に使った手榴弾のような機械だった。
 よく観察すれば、随所にスイッチがついており何らかの通信装置であることがすぐわかった。

「メテオラからの連絡です! 新入りがいるから集合! パーティーしよ!」

 メテオラは通信機に向かって満面の笑みで言った。
 途端に通信機の向こう側から賑やかな返答が帰ってくる。

「メテオラ、待て。聞いていない」
「やったねパーティーだ! しかも今回はレーフに無茶振りつきだぞー!」
「あー、えっと、レーフ? そこまで頑張らなくていいからね?」
「諦めるんだね。こうなったらメテオラは止まらないこと、よく知ってるだろ?」

 低く唸るような勘弁してくれ、のあとに男性の声は不承ながら覚悟を決めたような返答をする。

「……スバル、あとで手伝いに来い」
「そんなー!?」
「あはは、僕も行こうか?」
「お前は医務室から離れるな」

 恒例のやり取りなのだろう。
 ヘリオスがけらけら笑いながら「じゃあパーティーでな」と言ったきり黙ってしまった。
 通信を切ったのだろうか。

「それじゃあみんなよろしくね、わたしは新入りを案内するね!」

 メテオラは通信を切るやいなやテラの手を取り扉を指した。
 
「それじゃあパーティーまで、船の設備の紹介しようか」

 メテオラはニヤッと笑ってテラを引っ張って歩き出した。
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