少年兵と流れ星

阿納あざみ

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第一章

第5話 ふたりのやさしさ

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 ヘリオスはテラの返答がないことを確認すると、メテオラに優しく話しかける。

「メテオラ。あまり急かすものでもないさ。まずは家族を助けてから考えないかい?」

 助け船を出すようにヘリオスがそう提案する。
 テラはいつの間にかうつむいていた顔を上げると、その視線に気づいたヘリオスは優しく微笑んだ。

「何せテラは、いままで戦場にいたんだから。そういうのはぱっとでてこないものさ。一旦、目の前のやりたいことに、目を向けた方がいいんじゃないかい?」

 メテオラはヘリオスのその言葉に納得したようで、大きく頷いた。

「それもそうだね! 最初にしたいことが家族を助けたい、だし」
 
 そしてテーブルの上の料理を次々と取り皿に乗せて、もぐもぐとくちいっぱいに頬張って食べきっていく。

「じゃあとりあえず、これ食べれるだけ食べてから、テラ君の家族のところ、いこうか!」
 

 △▼△▼△▼△▼△


 食堂から離れてメインデッキへ向かう。窓の外は相変わらず巨大な闇におおわれていた。

「ねえ、テラ」

 メテオラが軽快に案内するように先行する途中、テラは背後のヘリオスから声をかけられた。
 彼女は初めて会った時と同じように鋭い目をしていた。
 しかしその表情は怒りではなく、悲しみに満ちている。

「あんた、いまの自分の有り様は分かってるんだろうね?」

 己からヒュ、と息を飲む音がするのを冷静に見ている自分がいた。
 テラはこくり、と小さく頷いた。

「俺は、…………」

 自分がわからない。それを、どう伝えればいいものか考えあぐねた。
 くちのなかが乾いて何も言えなくなる。
 テラが二の句が継げずにいるのを察したのか、ヘリオスは首をふった。

「もういいよ」

 呆れられただろうかと表情を伺えば、赤いくちびるを噛み、どこか憐れむような、悲しむような顔でテラのことを見下ろしていた。
 

「戦場ってのは残酷だぁね……。いいよ、あんたがわかっているんなら」

 まっすぐ歩いて振り向かず、ヘリオスは手を振りながらテラに言った。

「自分を取り戻しなさいよ。応援はしてあげる」

 ヘリオスのポニーテールが揺れている。
 テラは、はたして己は彼女の応援に報いることができるだろうか、と考え、分からなかった。 
 数秒立ち尽くしてから、スバルに促されてあとを追った。

「ばかだなぁ、お前」

 そう言ってスバルは笑った。痛みに耐えるような笑みだった。
 なぜスバルが痛そうなんだろう、と思うと同時に、テラはスバルに慰められているような気がした。 
 テラは、何と言えばスバルに報いることができるだろうか、と考えながらメインデッキへ歩いた。
 
 テラは結局、何も言えなかった。
 ふたりに何かを言えるようになりたい、と思った。


 △▼△▼△▼△▼△


 メインデッキは全面がガラス張りの大きな部屋だった。
 精密機械が前方下部に設置してある。
 それらがあちこちでピカピカと光り、時折無機質な電子音が鳴っている。
 部屋の中央には地図のようなものが表示されていた。
 テラは軍にいた経験から、それが宇宙に置ける地図、例えていうなら、宙域図だろうとすぐ察した。

「さぁ準備はバンタン、ミーティ・アイちゃん! 現在の航行状況を出して!」

 メテオラが大仰な身振り手振りと大きな声で宣言する。
 テラがまるで船自体に声をかけているようだ、と違和感を持つ。
 彼の疑問とほぼ同時に、中央に設置されている宙域図の画像に二頭身ほどだろうか、デフォルメ体型のアンドロイドがポップアップしてきた。
 頭部には猫や犬のような三角形の飾りがついている。

『はーい、はじめましてミスターテラ。アイはミーティ・アイちゃん! この宇宙船、ミーティアの航行管理、哨戒、ルート検索等々を勤めている超優秀エー・アイだよ』

 意味もないだろうにくるっとまわってピースをしている。
 テラはすっかり驚いて目を丸くし固まってしまった。
 宇宙船の時点ですっかり麻痺していたが、既に宇宙へ進出した人々はテラの惑星の技術よりはるかに進んだ技術をもっている。

『おや、ミーティ・アイちゃんに見惚れちゃった? アイにほれると火傷しちゃうゾ!』
「いや、違うが……」

 テラはミーティ・アイのことを、まるで人間のようだと思った。
 ただの画像、映像だというのに、その表情が豊かに見えるのは、身振り手振りがメテオラに似ているからだろうか。

「つれないことをいうね。まぁいいよ、ミスターテラのご家族救出作戦に移行するよ」

 ミーティ・アイは宙域図を消すとテラの住んでいた惑星の天体模型を取り出した。

「ウースタインだ」
『現地言語でここはウースタインという惑星なんだね。学習したよ!』

 ミーティ・アイは耳や目、関節をピカピカ光らせて、インプットをアピールする。
 そして、作戦の話し合いのためコンコンとわざとらしく咳をしたのち真剣な声色で話し始めた。

『現在ミーティアは、惑星ウースタインにおけるメテオラ墜落地点に船を固定し移動中。このまますぐに光速に移行できるよ。さっそく、テラのご家族はどこにいるのか教えてほしいな』

 ミーティ・アイの言葉にテラはこくりと頷く。
 幾度も手紙を送り、それらのどれひとつとして返事の帰ってこなかった遠き地、北の向こうの呪われし地を思いおこす。
 テラは深く呼吸をして、忌まわしいその名を言う。

「俺の家族は、砂漠の果ての、北部支援者保護区域にいる」
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