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『婚約破棄』というワードに女はどう反応するのか男は気がかりだったが、懸念した反応は返ってこない。
「相手に好きな子が出来たそうだ、娘に庇護はないが、傷物になったという事実は隠せないだろう」
「…」
今度は女が無言になる番だ。
「相手からは相応の慰謝料を払ってもらった…、表向きはそれで終わりだろう、だが娘が負った傷はそんなもので癒せるはずがないんだ!」
あの時の悔しさが蘇ってきたようで、男は手を握りしめ拳を固くしている。
「娘が、フランシーヌがかわいそうで…」
残酷な現実だが、婚約を一方的に破棄しても相応の償いをしてしまえば相手からしてみれば既に終わったこと。
いつまでも同じ場所で悲しみ続けているのは娘、前向きに、あんな男のことは忘れて、なんて他人事で慰める訳にはいかない。
「どうして私にそんなことを言いに来たのですか?」
女は読めない表情で男に聞く。
「…娘のことで君を思い出したんだ。あの時、君がどうやって立ち直ったのか、教えてほしいんだ」
娘が何を求めているのか、その答えは経験者にしか分からないことだろう。だから男は恥知らずになろうとも女に会いに来た。
「どの面を下げて、と思うだろうがフランシーヌは君にとっても姪にあたるんだ。親戚のよしみで力を貸して欲しい!」
女に向かって頭を下げる男は、娘のためなら何でもするのだろう。
「本当に、どの面下げて、ですわね?」
女は忘れてなどいない、あの時の絶望と屈辱を。
「私に何をしたのか、あなたは覚えているでしょう?よくそんなこと聞きにこれましたわね?」
男は何を言われても仕方ないと、全てを受け止める覚悟でここに来ていた、だから女の言葉も想定内。
「私からは何も言えません、婚約破棄は残念でしたわね、とでもお伝えください」
「っ頼む!少しでもいいんだ、フランシーヌが一歩を踏み出せるよう、協力してほしい!」
「お断りですわ、どうぞお帰りください」
女は帰りを促す、きっぱりと受け付けない様だが男は諦めるわけにはいかなかった。
その様子にため息をついた女は、いよいよ立ち上がると扉を開け放つ。
「お帰りください」
とりつく島もないとはこのことだろう、女はきっぱりと男を拒絶した。
「頼むから…、レオノーラ…」
「その名前は捨てました。あなたの言うレオノーラはこの世に存在しません」
そうだ、あの時、女は全てを捨てた。
地位も名誉も全て。
女は杖をダン!と床に叩きつけ、男の視線を奪う。
「あなたが、いえ、あなた方が私をこんな身体にした、覚えているでしょう?」
「そ、それは…」
仕方のないことだった、とは口に出せない。
「仕方のないことだったとでも?」
女はズバリと言い当てた。
「国の事情はある程度推察出来ますの、それだけの教育は受けてきましたから。私は体のいい人質だった。だから婚約破棄されても軟禁されていた」
「…」
男は無言で肯定する。
「少しでも『恥』という言葉を理解しているのなら、どうぞお帰りください」
男は何も言えず立ち上がると、ゆっくりと歩き出す。
ただ女の前でピタリと立ち止まると、
「申し訳なかった、レオノーラ」
とだけ言い、去って行った。
「相手に好きな子が出来たそうだ、娘に庇護はないが、傷物になったという事実は隠せないだろう」
「…」
今度は女が無言になる番だ。
「相手からは相応の慰謝料を払ってもらった…、表向きはそれで終わりだろう、だが娘が負った傷はそんなもので癒せるはずがないんだ!」
あの時の悔しさが蘇ってきたようで、男は手を握りしめ拳を固くしている。
「娘が、フランシーヌがかわいそうで…」
残酷な現実だが、婚約を一方的に破棄しても相応の償いをしてしまえば相手からしてみれば既に終わったこと。
いつまでも同じ場所で悲しみ続けているのは娘、前向きに、あんな男のことは忘れて、なんて他人事で慰める訳にはいかない。
「どうして私にそんなことを言いに来たのですか?」
女は読めない表情で男に聞く。
「…娘のことで君を思い出したんだ。あの時、君がどうやって立ち直ったのか、教えてほしいんだ」
娘が何を求めているのか、その答えは経験者にしか分からないことだろう。だから男は恥知らずになろうとも女に会いに来た。
「どの面を下げて、と思うだろうがフランシーヌは君にとっても姪にあたるんだ。親戚のよしみで力を貸して欲しい!」
女に向かって頭を下げる男は、娘のためなら何でもするのだろう。
「本当に、どの面下げて、ですわね?」
女は忘れてなどいない、あの時の絶望と屈辱を。
「私に何をしたのか、あなたは覚えているでしょう?よくそんなこと聞きにこれましたわね?」
男は何を言われても仕方ないと、全てを受け止める覚悟でここに来ていた、だから女の言葉も想定内。
「私からは何も言えません、婚約破棄は残念でしたわね、とでもお伝えください」
「っ頼む!少しでもいいんだ、フランシーヌが一歩を踏み出せるよう、協力してほしい!」
「お断りですわ、どうぞお帰りください」
女は帰りを促す、きっぱりと受け付けない様だが男は諦めるわけにはいかなかった。
その様子にため息をついた女は、いよいよ立ち上がると扉を開け放つ。
「お帰りください」
とりつく島もないとはこのことだろう、女はきっぱりと男を拒絶した。
「頼むから…、レオノーラ…」
「その名前は捨てました。あなたの言うレオノーラはこの世に存在しません」
そうだ、あの時、女は全てを捨てた。
地位も名誉も全て。
女は杖をダン!と床に叩きつけ、男の視線を奪う。
「あなたが、いえ、あなた方が私をこんな身体にした、覚えているでしょう?」
「そ、それは…」
仕方のないことだった、とは口に出せない。
「仕方のないことだったとでも?」
女はズバリと言い当てた。
「国の事情はある程度推察出来ますの、それだけの教育は受けてきましたから。私は体のいい人質だった。だから婚約破棄されても軟禁されていた」
「…」
男は無言で肯定する。
「少しでも『恥』という言葉を理解しているのなら、どうぞお帰りください」
男は何も言えず立ち上がると、ゆっくりと歩き出す。
ただ女の前でピタリと立ち止まると、
「申し訳なかった、レオノーラ」
とだけ言い、去って行った。
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