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レオノーラがスパイの疑いがある、というのはカイルも聞いていたし、いざという時の人質だというのも理解していた。
しかし、そんな酷い扱いだったと?
初耳だった。
貼り付いてしまったかのように動かしづらくなった喉を動かし、なんとか声を出す。
「…王太子妃に無礼を働いて怪我をしたというのは?」
カイルは自身の想像が外れて欲しいと願った、しかしそれは悪い方向に当たってしまう。
「そういう話になっていたようですわね、まったく違います。私は王太子妃に階段から突き落とされたんです。満足な手当てもされないまま放置されて、障害が残ったんです」
「そんな…」
「アルキス伯爵が信じていた世界が崩れましたか?あの女との思い出は美しいもので彩られているのでしょうね?カージリアン公爵邸の美しい庭園で将来を約束された他愛のない会話を楽しむ婚約者同士。こんな感じかしら?」
嘘をついていたミリアーヌ、レオノーラを突き落とした王太子妃、共通しているのは被害者はレオノーラだということ。
しかし、だ。果たしてそれらは信じていいのだろうか。片方の話しか聞けない今となってはどうやって真実を知ればいいのか。
「私の言葉だけでは信用できないようでしたら、コーウェル侯爵にお聞きください。きっと真実を話していただけますわ」
「父に…?」
「全てご存知のはずですわ」
カイルを見るレオノーラは、かつて将来の王太子妃として毅然と前を向いていたレオノーラの雰囲気そのままだった。
「そう、全てね…」
含みを持たすような物言いにカイルは疑問を抱く。
「私がどのような扱いを受けていたのか、私が誰とも連絡が取れなくなっていたこと、そして誰がスパイだったのか、もご存知のはずですわ」
「スパイ?」
「ええ、戦争は情報が命ですもの。どこかの誰かがスパイだとしてもおかしくはないでしょう?あ、私ではありませんわ」
ニッコリと微笑むレオノーラの姿がかつてのレオノーラと重なる。
「なぜ、優勢だった戦況が突然劣勢になったのか、疑問を抱きませんか?」
ザダ王国、ウエズ王国、トルトメスタン王国から成る連合軍は一時期ヤルシュ王国の首都のすぐ近くまで進行していたのだ、そこまでは知らされていた。
しかし劣勢に陥ると途端に情報が規制された、そのことを知ったのは後になってからなのだが。
なぜ劣勢に?
軍事力だけの問題ではないと?
情報がどこからか漏れていたとしてもそれはお互い様だろう。あちらの情報だっておそらく漏れていたのだろうから。
「少し考えれば分かるはずですわ、戦況を覆すほどの情報がヤルシュ王国に渡っていた。それが出来るのは誰なのか?」
カイルにはそれが誰なのか想像もできない。
「今は混乱しているでしょうから考えられないでしょう、どうぞザダ王国に到着するまで考えてください」
そこまで言うとレオノーラはカイルにきちんと封蝋された手紙を手渡した。かなり分厚いそれはこれまでの話の内容と相まって重く感じさせた。
それを受け取ってカイルはよろよろと立ち上がる、もう何も言えなかった。
「ねえ、アルキス伯爵」
扉に手をかけたところで不意にレオノーラが声をかけた。
「あなたは異母妹の顔を覚えていますか?」
「…?」
「声を覚えていますか?」
「そんなのっ、覚えているに…」
決まっている、というあとに続く言葉がカイルは出てこない。
「覚えていないでしょう?もうずいぶんと昔のことですもの。あなたは悲劇に終わった恋愛を美しいものとして取っておきたいだけ。あの時はよかった、と少しでも現実から逃げたいだけ」
もうレオノーラの方を向くことさえ出来なかった。
「戦後復興に必死にならなければ生きていけない現実を少しでも癒そうと過去を美しいものにしていただけ」
カイルの背後から手を伸ばし、レオノーラは扉を開ける。
「どうぞ、列車のお時間があるでしょう?」
外からの新しい空気がカイルの頬を撫でた。
「さようなら、アルキス伯爵」
しかし、そんな酷い扱いだったと?
初耳だった。
貼り付いてしまったかのように動かしづらくなった喉を動かし、なんとか声を出す。
「…王太子妃に無礼を働いて怪我をしたというのは?」
カイルは自身の想像が外れて欲しいと願った、しかしそれは悪い方向に当たってしまう。
「そういう話になっていたようですわね、まったく違います。私は王太子妃に階段から突き落とされたんです。満足な手当てもされないまま放置されて、障害が残ったんです」
「そんな…」
「アルキス伯爵が信じていた世界が崩れましたか?あの女との思い出は美しいもので彩られているのでしょうね?カージリアン公爵邸の美しい庭園で将来を約束された他愛のない会話を楽しむ婚約者同士。こんな感じかしら?」
嘘をついていたミリアーヌ、レオノーラを突き落とした王太子妃、共通しているのは被害者はレオノーラだということ。
しかし、だ。果たしてそれらは信じていいのだろうか。片方の話しか聞けない今となってはどうやって真実を知ればいいのか。
「私の言葉だけでは信用できないようでしたら、コーウェル侯爵にお聞きください。きっと真実を話していただけますわ」
「父に…?」
「全てご存知のはずですわ」
カイルを見るレオノーラは、かつて将来の王太子妃として毅然と前を向いていたレオノーラの雰囲気そのままだった。
「そう、全てね…」
含みを持たすような物言いにカイルは疑問を抱く。
「私がどのような扱いを受けていたのか、私が誰とも連絡が取れなくなっていたこと、そして誰がスパイだったのか、もご存知のはずですわ」
「スパイ?」
「ええ、戦争は情報が命ですもの。どこかの誰かがスパイだとしてもおかしくはないでしょう?あ、私ではありませんわ」
ニッコリと微笑むレオノーラの姿がかつてのレオノーラと重なる。
「なぜ、優勢だった戦況が突然劣勢になったのか、疑問を抱きませんか?」
ザダ王国、ウエズ王国、トルトメスタン王国から成る連合軍は一時期ヤルシュ王国の首都のすぐ近くまで進行していたのだ、そこまでは知らされていた。
しかし劣勢に陥ると途端に情報が規制された、そのことを知ったのは後になってからなのだが。
なぜ劣勢に?
軍事力だけの問題ではないと?
情報がどこからか漏れていたとしてもそれはお互い様だろう。あちらの情報だっておそらく漏れていたのだろうから。
「少し考えれば分かるはずですわ、戦況を覆すほどの情報がヤルシュ王国に渡っていた。それが出来るのは誰なのか?」
カイルにはそれが誰なのか想像もできない。
「今は混乱しているでしょうから考えられないでしょう、どうぞザダ王国に到着するまで考えてください」
そこまで言うとレオノーラはカイルにきちんと封蝋された手紙を手渡した。かなり分厚いそれはこれまでの話の内容と相まって重く感じさせた。
それを受け取ってカイルはよろよろと立ち上がる、もう何も言えなかった。
「ねえ、アルキス伯爵」
扉に手をかけたところで不意にレオノーラが声をかけた。
「あなたは異母妹の顔を覚えていますか?」
「…?」
「声を覚えていますか?」
「そんなのっ、覚えているに…」
決まっている、というあとに続く言葉がカイルは出てこない。
「覚えていないでしょう?もうずいぶんと昔のことですもの。あなたは悲劇に終わった恋愛を美しいものとして取っておきたいだけ。あの時はよかった、と少しでも現実から逃げたいだけ」
もうレオノーラの方を向くことさえ出来なかった。
「戦後復興に必死にならなければ生きていけない現実を少しでも癒そうと過去を美しいものにしていただけ」
カイルの背後から手を伸ばし、レオノーラは扉を開ける。
「どうぞ、列車のお時間があるでしょう?」
外からの新しい空気がカイルの頬を撫でた。
「さようなら、アルキス伯爵」
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