Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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トボトボとカイルが歩いていく様子をレオノーラは窓から眺めていた。

完全に姿が見えなくなったのを確認して、レオノーラはマントルピースまで杖を使って移動する。

そこまで広くない部屋でも、今の身体では少しの移動にも骨が折れる。

置いてあるシガーケースから一本取り出し、先端を一気に切り落として火をつける。

地獄のような日々から解放されてからレオノーラはこれを嗜むようになった。

今手に取ったのはザダ王国産のもの。

それは望郷の念なのか追憶なのか。

口の中に広がる香りを楽しみながら、レオノーラはカイルのことを思い出していた。

久しぶりに会った幼馴染み、心のどこかで引っ掛かっていた存在だったのかもしれない。

そうでなければ数多ある面会希望者の中から彼の名前を見つけなかっただろう。

どう変わったか、良い方に変わっているだろうか、ほんの少しだけ期待していたのも事実だ。

しかし現実はどうだった?

何も知ろうともしない、目の前の障害を乗り越えることだけしか考えていない、相変わらずのお坊ちゃん。

なぜ疑問を抱かないのか?

カイルの生い立ちを考えれば一目瞭然だろうか。当たり前のように与えられた地位を当然のように享受するだけ。家族からの愛を疑う余地もなく甘やかされて育った。

根本は変わらないものなのだろうか?

そんなことはない、現にレオノーラの教え子達は変わっていった。

生まれてすぐ親に捨てられた誰に対しても攻撃的だった少女は、レオノーラがほんの少し正しい道を示しただけで自らの力で己の立場を勝ち取っていった。

少し動作の鈍い少年は数字の魅力に取りつかれ没頭していった。

きれいでキラキラしたものを作るのが大好きだった少女はレオノーラがデザインを教えただけで才能を伸ばした。

みな、親も家もコネもない、自らの才能のみで変わっていったのだ。

どうして恵まれているカイルが変わらないのか。

戦後の混乱をあの甘ったれがどうやって生き抜いて来たのか不思議でならない。

身分が物を言う時代はとっくに終わっている、これからは実力で成り上がっていく者が増えるのは必然だ。

カイルだけならそれに飲み込まれるだろうが、いかんせんナキスという切れ者の兄が存在しているのだからそれはない。

おそらくナキスがなんらかのサポートをしていたのだろう、それこそカイルのわからない所で。

コーウェル侯爵家次男ナキス、典型的な参謀タイプの彼は表に立つことはなかった。しかし王太子の遊学に付き添うなどしていたことから将来は重要なボストを約束されていた。

父は財務大臣、兄は王太子の側近。そんな家族がいるのに戦争責任を問われなかった理由をカイルは気づかない。

「…本当におめでたいこと」

灰皿に落ちるシガーの灰を眺めながらポツリと呟いた。
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