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ザダ王国に戻ったカイルがまずしたことは父であるコーウェル侯爵に会うことだった。
レオノーラに託された手紙を早く渡したいということもあったが、彼女が言っていた「全て知っている」という言葉を確かめたかったこともある。
帰路の列車でいくら考えても出てこない答えを手っ取り早く解決したかった。
「カイル、よく来たな。ドルトミルアン国はどうだった?」
朗らかなコーウェル侯爵は手元の書類から顔を上げて、カイルを出迎えた。
「シガーの新たな販路を開拓できそうです、それといくらでもいいから岩塩を売って欲しいと頼まれました」
「ほお、岩塩は希少性をウリにしているからな、しっかり相談してから決めよう」
それから始まった末息子の土産話をコーウェル侯爵は目尻を下げて聞いている。
それが一段落してから、カイルは本題を切り出した。
「…レオノーラに会いました」
「レオノーラ?」
コーウェル侯爵は記憶をさぐるように目線を彷徨わせた、少しして何かに気づいた様子で、
「ああ、もしかして今はサイナリィ・マグドロスと名乗っているあのレオノーラ嬢か?」
と納得した。
「彼女と会ったのか…、息災にしていたか?」
「杖をついていましたがそれ以外は元気そうでした」
「そう、か…。そうだったな。彼女は足を悪くしたんだったな」
「彼女から手紙を預かってます」
そう言ってカイルはコーウェル侯爵に渡した。
「……?」
なぜ?おそらくコーウェル侯爵はそう思っていることだろう。それはカイルも知りたいことだった。
手紙を読み進めるコーウェル侯爵の眉間が徐々に険しくなっていく、こんな風に表情が変わっていくコーウェル侯爵を久しく見ていないカイルは、余程の内容だったのだろうかと予想する。
「…カイル、儂に何か聞きたいことがあるのか?」
核心を突いてきたコーウェル侯爵は、まっすぐカイルを見つめた。
ゴクリとつばを飲み込んでからカイルは口を開く。
「レオノーラがカージリアン家で冷遇されていたことをご存知でしたか?」
「知っていた」
「っ!ミリアーヌがよく着けていたネックレスはレオノーラの母親の物だということは?」
「黒い宝石のネックレスのことか?あれはヤルシュ王国でしか採れない貴重な物だからな、大方そうだろうとは思っていた」
「レオノーラが幽閉されていた時、満足な食事も与えられていなかったことは?」
「知っていた」
「王太子妃に階段から突き落とされたことは?」
「ああ、知っている。なんせその場にいたからな」
「なっ!どうしてレオノーラを助けなかったんですか!?」
「医者の手配はした」
「満足に治療をしなかったからレオノーラは杖を使うようになったんですよ?」
「落ち着けカイル。あの時はあれ以上何も出来なかった。スパイの疑いがある彼女が治療を受けられただけでも良かっただろう?」
駄々っ子を諭すような物言いがカイルを余計に逆上させた。
「レオノーラの状況を考えても彼女がスパイであるはずがなかった、父上はそれもご存知だったのではないですか?」
「まあ、そうだろうな。彼女には常に見張りがついていたし、信用できる使用人もいなかったからな」
「だったらどうして?どうして言わなかったんですか!父上なら進言できたでしょう?」
「……」
「どうしてレオノーラはスパイじゃないと言わなかったんですか?そうすれば彼女があんな目に合うこともなかったかもしれないのにっ…」
「……」
無言になったコーウェル侯爵は静かな目でカイルを見つめている。
「どうして何も言わないんですか?」
「お前はそれを聞いてどうするんだ?」
「は?どうするって?」
「時は戻せない、今さら彼女を助けることはできないんだ。それとも謝罪しろとでも?レオノーラ嬢はそんなことを望んでいるのか?」
「そ、それは…」
「お前の的外れな正義感で終わったことを蒸し返すな」
「終わった、こと?」
「そうだ、何年経ってると思ってるんだ?みんな新たな人生を歩んでるだろう。お前だって家庭を持ち幸せを得た。それでいいじゃないか?」
「……」
「過去のことだ、我々には後ろを振り向いている暇はない。お前だって分かっているのだろう?」
カイルは頭のどこかで分かっていた、もうどうしようもないことを。
「忘れろとは言わない、だが過去のものとして割り切ることが必要だ」
今カイルの前にいるのは父親ではなくコーウェル侯爵だ、戦前から残る数少ない貴族としての姿。
「もう遅い、残りの報告は後日聞くことにしよう」
「はい…、失礼します」
外はすっかり暗くなっていた、フラフラと立ち上がったカイルはそのまま扉へと歩みを進める、が、ノブに手をかける前に再度口を開く。
「父上は…、スパイが誰だったかご存知ですか?」
「さあ、儂は知らないな」
コーウェル侯爵はカイルを見ることもなく言った。
レオノーラに託された手紙を早く渡したいということもあったが、彼女が言っていた「全て知っている」という言葉を確かめたかったこともある。
帰路の列車でいくら考えても出てこない答えを手っ取り早く解決したかった。
「カイル、よく来たな。ドルトミルアン国はどうだった?」
朗らかなコーウェル侯爵は手元の書類から顔を上げて、カイルを出迎えた。
「シガーの新たな販路を開拓できそうです、それといくらでもいいから岩塩を売って欲しいと頼まれました」
「ほお、岩塩は希少性をウリにしているからな、しっかり相談してから決めよう」
それから始まった末息子の土産話をコーウェル侯爵は目尻を下げて聞いている。
それが一段落してから、カイルは本題を切り出した。
「…レオノーラに会いました」
「レオノーラ?」
コーウェル侯爵は記憶をさぐるように目線を彷徨わせた、少しして何かに気づいた様子で、
「ああ、もしかして今はサイナリィ・マグドロスと名乗っているあのレオノーラ嬢か?」
と納得した。
「彼女と会ったのか…、息災にしていたか?」
「杖をついていましたがそれ以外は元気そうでした」
「そう、か…。そうだったな。彼女は足を悪くしたんだったな」
「彼女から手紙を預かってます」
そう言ってカイルはコーウェル侯爵に渡した。
「……?」
なぜ?おそらくコーウェル侯爵はそう思っていることだろう。それはカイルも知りたいことだった。
手紙を読み進めるコーウェル侯爵の眉間が徐々に険しくなっていく、こんな風に表情が変わっていくコーウェル侯爵を久しく見ていないカイルは、余程の内容だったのだろうかと予想する。
「…カイル、儂に何か聞きたいことがあるのか?」
核心を突いてきたコーウェル侯爵は、まっすぐカイルを見つめた。
ゴクリとつばを飲み込んでからカイルは口を開く。
「レオノーラがカージリアン家で冷遇されていたことをご存知でしたか?」
「知っていた」
「っ!ミリアーヌがよく着けていたネックレスはレオノーラの母親の物だということは?」
「黒い宝石のネックレスのことか?あれはヤルシュ王国でしか採れない貴重な物だからな、大方そうだろうとは思っていた」
「レオノーラが幽閉されていた時、満足な食事も与えられていなかったことは?」
「知っていた」
「王太子妃に階段から突き落とされたことは?」
「ああ、知っている。なんせその場にいたからな」
「なっ!どうしてレオノーラを助けなかったんですか!?」
「医者の手配はした」
「満足に治療をしなかったからレオノーラは杖を使うようになったんですよ?」
「落ち着けカイル。あの時はあれ以上何も出来なかった。スパイの疑いがある彼女が治療を受けられただけでも良かっただろう?」
駄々っ子を諭すような物言いがカイルを余計に逆上させた。
「レオノーラの状況を考えても彼女がスパイであるはずがなかった、父上はそれもご存知だったのではないですか?」
「まあ、そうだろうな。彼女には常に見張りがついていたし、信用できる使用人もいなかったからな」
「だったらどうして?どうして言わなかったんですか!父上なら進言できたでしょう?」
「……」
「どうしてレオノーラはスパイじゃないと言わなかったんですか?そうすれば彼女があんな目に合うこともなかったかもしれないのにっ…」
「……」
無言になったコーウェル侯爵は静かな目でカイルを見つめている。
「どうして何も言わないんですか?」
「お前はそれを聞いてどうするんだ?」
「は?どうするって?」
「時は戻せない、今さら彼女を助けることはできないんだ。それとも謝罪しろとでも?レオノーラ嬢はそんなことを望んでいるのか?」
「そ、それは…」
「お前の的外れな正義感で終わったことを蒸し返すな」
「終わった、こと?」
「そうだ、何年経ってると思ってるんだ?みんな新たな人生を歩んでるだろう。お前だって家庭を持ち幸せを得た。それでいいじゃないか?」
「……」
「過去のことだ、我々には後ろを振り向いている暇はない。お前だって分かっているのだろう?」
カイルは頭のどこかで分かっていた、もうどうしようもないことを。
「忘れろとは言わない、だが過去のものとして割り切ることが必要だ」
今カイルの前にいるのは父親ではなくコーウェル侯爵だ、戦前から残る数少ない貴族としての姿。
「もう遅い、残りの報告は後日聞くことにしよう」
「はい…、失礼します」
外はすっかり暗くなっていた、フラフラと立ち上がったカイルはそのまま扉へと歩みを進める、が、ノブに手をかける前に再度口を開く。
「父上は…、スパイが誰だったかご存知ですか?」
「さあ、儂は知らないな」
コーウェル侯爵はカイルを見ることもなく言った。
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