Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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カイルは結婚後にコーウェル侯爵邸にほど近い場所に居を構えた。

「…ただいま」

「おかえりなさいませ」

出迎えたのはカイルの妻ライリー、どんなに遅くなっても出迎えてくれる。いつも通りのライリーにほんの少しだけ気持ちが浮上した。

「遅かったですのね?」

「ああ、父の所に寄っていたんだ」

「お義父様の所へ?」

「早急に渡したい物があってね、そうだ、土産は見たか?」

遅くなることを見越して荷物だけ先に届けておいたのだ。

「ええ、とても珍しい物ばかりで。フランシーヌの喜ぶ顔を久しぶりに見ましたわ」

「それはよかった」

フランシーヌは婚約破棄されてから部屋に閉じこもってばかりだった、少しでも気晴らしになるのなら買ってきてよかったと思えた。

「お仕事はどうでした?」

「そうだな、けっこううまくいったよ」

他愛もない夫婦の会話、静かな幸せの形を得られたことは幸運だったのだろう。

─それを知ってどうする?─

父であるコーウェル侯爵の言葉が頭によぎる。

ミリアーヌのこと、レオノーラのこと。いまさら真実を知った所でどうするのか?

─中途半端な正義感─

そうなのかもしれない、いや、そうなのだろう。

「あなた、どうされました?」

ぼんやりとしたカイルにライリーが声をかける。

「いや、ドルトミルアン国のことを思い出していたよ。懐かしい人にも会えたしね」

「懐かしい人?」

「ああ、相変わらず誰よりも気高くて尊くて美しい人だった」

「そうでしたの」

「もう前だけを向かないといけないと言われたよ」

「あなた?」

自分にしか理解できない内容を話すカイルにライリーは首を傾げる。

「フランシーヌはまだ起きているだろうか?」

そうだ、前を見よう。

「あなたのお土産に興奮していたようでしたから、まだ起きていると思いますわ」

「呼んできてくれるか?これからのことを話し合いたい」

「…あなた」

「いつまでも婚約破棄にこだわってはいられない、そうだろう?」

「そう、ですわね…」

カイルとライリーは結婚適齢期を過ぎてから婚姻を結んだ。だからフランシーヌは二人の年齢がいってから出来た子どもということになる。

遅くに出来た愛娘、いつまでも守ってやりたい。

しかしそれは土台無理な話なのだ。

ならばせめてこれから先に進む道を示すことぐらいは出来るだろう。

カイルは確信を持ってライリーに頷いた。

「呼んでまいります」

ライリーはそう言ってフランシーヌの部屋へと向かった。



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