Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

文字の大きさ
21 / 30

21

しおりを挟む
ヤルシュ王国領事館、旧カージリアン公爵邸の一部を開放して設けられた公園は憩いの場として老若男女に親しまれている。

特に今日は国で一番の祝日『建国記念日』、どこに行ってもお祭り騒ぎだ。

「パパ!あの黄色いお花すごくキレイ!」
「走ると危ないぞ?」
「へーき!」

かつては特権階級だけが独占できた物が、こうして共有されていく。

カイルがここに足を向けたのは何時ぶりだろうか?馬車で横を通る時も意識して視界に入れないようにしていたのだ。

美しい思い出をそのままにしておきたかった。

ドルトミルアン国に行ってから、レオノーラと会ってから、父と話してから、カイルは現実を突きつけられた。

そしてそれを受け入れる覚悟を持たなくてはならなくなった。

記憶を探りながら歩いているとその通りの場所に東屋を見つけた。

「まだあったんだな…」

つい感想が口に出てしまう。吸い寄せられるようにそこに腰を下ろし、しばし庭園を見渡す。

─カイル様!今日はいいお天気で良かったです!─

ふと、そんな声が聞こえた。

それが誰の声なのか、ミリアーヌだろうか?

─あなたはミリアーヌの声を覚えていますか?─

レオノーラの強烈な一言も聞こえてくる。

「覚えて、いないんだよ…」

ここで何を話したか、は覚えているのに…。記憶の中にミリアーヌの声は残っていないのだ。

両手で目を塞いで耳を澄ませても思い出せない、それほど遠い過去になったのか。しかもそれに気づいていなかった愚かさに目眩がする。

しばらくそのままでいると、

「…カイル?」

聞き慣れた声がした。

「ナキス、兄さん…」

思いもよらない人物の登場に戸惑う。

「どうしてここに…?」

「散歩でよく来るんだ、カイルこそどうしてここに?」

言いながらナキスはカイルの向かいに腰を下ろす。

「…考えたいことがあって、ここに来れば落ち着いて考えられるかと思って」

「そう、か。それで少しは落ち着いたか?」

「うん、だいぶね」

「お前も色々あったからな、よかったな」

色々あった・・・・・、ナキスが言うそれとカイルが思うそれは違うものだろうが。

「ところで父上から聞いたが、レオノーラ嬢と会ったそうだな?元気そうだったか?」

「うん、ドルトミルアン国に馴染んでたよ」

「そうか、よかった…」

ナキスはそう言うとどこか遠くに目線を向けた、カイルがそちらに目線を向けると、鮮やかな青色の小花が咲き誇っていた。

「ここは相変わらず美しいな、どんな形でも残ってくれてよかったと思うよ」

目線をそらさずナキスはポツリと呟いた。

「僕はミリアーヌとの思い出が他人に踏み荒らされているようで許せなかったんだ。どうせならなくしてほしかったよ」

そうすれば、もしかしたら、もっと早くに過去のものに出来たかもしれない、知ろうともしなかったかもしれない、そうすれば知ることもなかった。

こんな本音をポロリと言えるようになったのも過去のものに出来たからだろうか。

「カイル、なにかあったのか?」

ナキスの心配そうな声にカイルはボンヤリと俯いたまま何も答えられない。

「カイル、近くに俺が経営しているカフェがあるんだが、そちらで話せないか?」

いつもと違うカイルの様子に何かを感じたのか、ナキスは場所を変える提案をしてきた。

「…ああ、いいよ」

特に断る理由もないカイルは短い言葉で応じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)

水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」  無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。  ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。  だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。 「———えぇ、いいわよ」 たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、

《完結》雪の女王を追って消えた、あんたは私と婚約してない!

さんけい
ファンタジー
「雪の女王」を追って村から消えたエイナル。 「君は僕の足かせだ?」ふざけんな、私はあんたの婚約者じゃない!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

妹に婚約者を奪われたので差し上げました。ですが、檻に入ったのはあの子のほうでした

鍛高譚
恋愛
公爵家にも劣らぬ名門フォルディア伯爵家の長女セレナは、侯爵令息ルシアンの婚約者として、家の内外を支え続けてきた。 けれどある夜会で、妹ミレイユが涙ながらに“可哀想な妹”を演じ、セレナの婚約者を奪ってしまう。 婚約を失い、居場所まで奪われた――はずだった。 しかし、静かに伯爵家を離れたセレナは、これまで自分がどれほど多くのものを背負わされていたのかを知っていく。 一方で、すべてを手に入れたつもりの妹は、少しずつ思い通りにならない現実へ追い詰められていき……。 これは、奪われた令嬢が復讐に縛られることなく、自分の人生を取り戻していく物語。 そして、他人のものを奪い続けた妹が、自ら選んだ道の先で転落していく物語。 「妹に婚約者を奪われたので差し上げました。ですが、檻に入ったのはあの子のほうでした」 静かに手放したはずの婚約の先で、本当に自由を手に入れるのは――。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...