Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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カイルにはなんの音も聞こえない、ただじっとナキスを見ているだけだ。

ナイスも表情を変えずカイルを見ていた。

「なぜそう考えたんだ?」

先に口を開いたのはナキス、いつも以上に飄々とした口調になっている。

「うちは代々財務大臣を任されていて、ナキス兄さんは王太子殿下の遊学にも付き添うほどの側近だった、戦争にだって間接的に関わっていると言っていい。それなのにどうしてうちは大して責任を問われなかったのか?」

カイルはコクリと唾を飲み続ける。

「それはヤルシュ王国の勝利に貢献したから問われなかったから」

そうだ、だからカイルとミリアーヌの婚約も早くになくなっていることに出来たのだ。

そこで再びカイルは気づく。

代々外務大臣を務める侯爵家、建国以来の由緒ある伯爵家、どちらも戦後家門を残した名家、どちらの子息も王太子の側近として遊学に付き添っていた覚えがある。

それだけの家門が残ったのも不可解、おそらく両家もスパイだったのだ。次々と広がっていく現実、回答を求める必要もないだろう。

「どう、して?どうして裏切ったの?」

「戦争が始まってしまったなら少しでも早く終わらせたかったから。どうせ負けるのだから被害を小さくしたかった」

カイルに考える暇も与えず、さらりとナキスが言う。

「戦争で一番被害を受けるのは女性と子どもだ、男は徴兵されるからな。もし戦死したらどうなる?残された家族は?お前達が『勝利した!』と浮かれてパーティーしているその下ではどれくらいの涙が流れていたと思う?」

国民は皆喜んでいたと思っていた。

「平民は国のために死ねるのだから感謝すべきだ、なんて言ってる奴もいたな」

そんな話をしている中に当時の自分もいた。

「あんな奴らが国を治める?笑わせるな。民を大事にしない主君に誰が仕えると思う?」

あんな奴らでもカイルにとっては主君だった。

「だから裏切った。いや、自分の正義を貫いたと言うべきかな」

正義、という言葉の響きに胸がズキリと痛む。

「でも、そのせいで…。みんななくなってしまった」

そのせいでカイルは多くの友を亡くし、最愛だったミリアーヌも亡くしたのだ。たとえ結果は変わらなくとも、

「そうか?残ったものの方が多いだろう」

「え?」

「国は残った、それに君主制という形も残った。我が家門は残り領地だってほとんど取られなかった」

ナキスは年を押すように同じ言葉を繰り返す。

「残っただろう?」

と。
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