Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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「トルトメスタン王国もウエズ王国もヤルシュ王国の一部となり国名すら残らなかった。どうしてうちだけが国を残せたと思う?」

ナキスからの突然の問いにカイルは戸惑う。

「そこまで考えてないか、お前は目の前のことだけで精一杯だったんだろうな」

どこか馬鹿にされたような気がして、カイルはムッとしてしまう。

「ヤルシュ王国との交渉でザダ王国の存続を願った人がいた。敗戦国である我々の話など聞いてもらえるはずがない、しかしその人がいることで対等に交渉が出来た。いるんだよ、国を残すことを条件に己の身を犠牲にした人が」

誰だ、国の犠牲になる程の有益な人物。対等に交渉が出来る人物。思い浮かぶのは処刑された王族の面々。

いや、彼らは戦争を主導した立場だ、対等な立場ではない、交渉など出来るはずがない。だとしたら?

つまり、ヤルシュ王国とザダ王国の二国に関係があり、戦争に関わっていない人物、ということは?

ハッと顔を上げたカイルは視線の先にいるナキスを見た。

「分かったか?」

声を出す変わりにコクリと頷く。

「レオノーラ嬢はヤルシュ王国の王位継承権を保持していた、王族だったんだ。ヤルシュ王国側の交渉人は文官だった。戦勝国とはいえ自国の王族の言葉を無下には出来ないだろうと踏んだんだろうな」

どうして?レオノーラだってザダ王国の王族として処刑されるかもしれなかったのに。

「新たな国王としてヤルシュ王国の第四王子を招いたのもレオノーラ嬢の力があってこそだろう。どんな交渉をしたのかは想像するしかないが、余程の対価を差し出したのだと思う」

それはそうだろう、敗戦国なのだから一方的に併合出来る。そうならなかったのはレオノーラが奮闘してくれたということだ。

「レオノーラ嬢が何を思って国を残したかったのか、それは分からない。だが残してもらえた恩を忘れることはない。ほんの一部しか知らない真実だろう、だからそれを知っている我々だけでも恩に報いなければならないんだ」

戦後のナキスは誰よりも早く動いた。それにカイルは「さすがだな」という感想しか抱いていなかった。そんな単純なことではなかったのに。

飄々とした態度の裏でどれだけ切羽詰まっていたか、ようやく知ったのだ。

「レオノーラ嬢がザダ王国を去ったのは戦後復興に道筋が見えてからだった、彼女は「これから茨の道になることでしょうが、皆さんでがんばってください」とだけ言っていた」

「レオノーラらしいですね…」

「そうだな、だからこれ以上、彼女に何も望むな」

ナキスの言葉にカイルは頭にガツンと衝撃をもたらした。

「お前のことだ、あわよくばフランシーヌの家庭教師にでもなってもらおうとか考えてただろ?」

「まあ、ね」

ナキスにはお見通しだったのだろう、今更取り繕う必要もないので素直に頷く。

「彼女はザダ王国に全てを置いていったような気がするな、思い出も名前も」

レオノーラ・カージリアンはザダ王国でしか存在していない。そういうことなのだ。
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