悪役令嬢とヤクザさん

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異世界のお嬢様


 さて、組員にもお披露目し終わり、マリアはお風呂に入って寝るだけとなった。

 しかし、問題はここからだった。


「あの…私一度も一人でお風呂に入った事がございませんの。お風呂はどのようにして入ったらよろしいのかしら?」

 マリアの発言に臣も佑馬も固まった。

 ちなみに将と高良は既に自室に帰った後である。

 マリアの部屋が、防犯などの面でまだ用意できてない為、話し合いの末、臣の部屋のベッドをマリアが使い、今日だけ臣がソファーで寝ることになっていた。

「あー……マリアちゃん、それは臣がどうにかしてくれるよ!じゃ、また明日ね!」

 佑馬はそう言って直ぐ様逃げた。

 臣は頭を抱えた。

 そうだった…マリアは公爵令嬢。
 普段は侍女に全て世話をされていたんだったと今さら思い出す。
 この話は、屋敷を案内している時に聞いていたのだ。
 なのにすっかり忘れていた…。

「えっと…マリア、自分で髪や体を洗った事は?」

「ございませんわ。」

「…そうですか……あの…ね、ここには女性がマリアしか居ないから、手伝うとしたら…男になっちゃうんだけど……」

 臣の言葉に、マリアはそうだったと気づく。

「あ…ど……どうしましょう………」

「手伝うとしたら…俺になる…んだけど……流石に初対面の男と風呂は……うん………」

「そっ……そうですわね………臣様でしたら…大丈夫ですわ…」

 って私いったい何を口走って!?と内心マリアはパニクっていた。



「俺なら……いいのか?……勿論、髪を洗う時はバスタオルを巻いてもらうし、体を洗う時は、肌には触れないようにするし、俺が目隠しすれば見えないから!」

 臣もパニクっているのだろう、何故か必死になっている。

「い…いいアイディアですわね!それで参りましょう!」

 2人ともパニクっているせいでドツボに嵌まっていくのであった。

 普段冷静な二人がパニックに陥るとなかなか元に戻らないようだ。

 佑馬が買ってきた下着とパジャマを持って、マリア専用の風呂場(元は来賓用)に来た。

 中にはマリア専用の高級シャンプーとコンディショナー、ボディソープとスポンジが浴室にあり、脱衣場の洗面台にはフワフワのバスタオルとフェイスタオルが棚に仕舞ってあり、チェストの上には化粧品やメイク落とし、洗顔フォーム、化粧水や乳液、パックとあらゆる物が揃っていた。

「えーっと、じゃあまず湯船にお湯を張るね。マリアはこの化粧落としでメイクを落としておいて。
 たぶん、このコットンにこれをつけて拭くんだと思う。」

 臣は化粧落としとコットンを渡してマリアを鏡の前に座らせる

「あ、私の侍女が使っていた物に似てますわ。これならできそう。」

「落とせたら、この洗顔フォームで顔を洗って、しっかり水で泡を落としてね。」

 マリアは侍女がやっていたのを覚えていたのか、すんなり化粧を落とし始めた。

 それを横目に臣は浴室に入り、掃除された浴槽にお湯を溜めていく。

 冷静に…冷静に…と心の中で、お互い唱えているとは夢にも思わない二人は、冷静を装い互いに接している。

第三者が見れば、二人とも緊張などしているようには見えない。

だが考えてみてほしい。
今日会ったばかりの人と理由はどうあれ、お風呂なんぞ入ることはありえない。
だがマリアはお風呂に関しては、二・三歳児と変わらないのだ。



「アクセサリーはこの箱に入れといて。後で部屋に持って帰ろう。」

 浴室から出た臣はテーブルの上にある小さな箱を指差す。

 マリアは頷いて、ブレスレットや指輪、イヤリングを外しそこへ入れる。

「臣様…ネックレスを外すの、手伝っていただける?」

 髪を右側に寄せ背中を向けるマリアに、臣は手を震わせながらネックレスを外してやった。

「えっと…ドレスの下はコルセットっていうのを着けてるのか?」

「あら、よくご存じですわね?そうですわ。下はパニエといって、ドレスをふんわりさせる物を履いてますの。」

「じゃあ、ドレスとコルセットの紐を解くのは手伝うから、後は自分で脱いでその袋に入れて、バスタオルを体に巻いたら浴室に入ってきて。」

 臣はそう言って、ドレスの背中部分にあるボタンを外していき、外し終わったらコルセットの紐をゆっくり緩めながら、一人で脱げるくらいまで解いた。

「じゃあ先に浴室にいるから」

 できるだけマリアを見ないよう、臣は素早く浴室に入っていった。

 マリアはドキドキする胸を押さえながら、言われた通りに脱いだ服を袋に入れて、フワフワのバスタオルを体に巻き付けた。

 こんな格好で、婚約者じゃない男性の前に行くなんて…と思いながらも、ここは異世界だし、短いドレスだと思って乗り切ろう…臣様は気にもしていないみたいだし…臣様からしたら子供に見えてるのだろう…と勝手に考え結論を出し、少し落ち込んだマリアは、気を取り直して浴室に向かう。

 ゆっくりと浴室に入ると、上半身裸になった臣と目が合った。

「おっ…臣様!?何故裸なのです!?」

 顔を真っ赤にしてマリアは狼狽えた。

「え?服が濡れるから脱いだんだけど…流石に下は脱いでないよ?」

 臣も、バスタオル姿のマリアに平然を装いつつドキドキしていた。

「それはそうですが!こちらでは、婚約者以外に肌をお見せするのは問題ないのですか!?」

「え…何それ?そっちでは婚約者以外、例えば恋人とかには見せないの?」

 マリアも驚いているが、臣も驚いている。

「市井の者はそういった事もあるようですが、貴族では互いに純血を重んじておりますので…初夜で初めて…その…」

 もじもじするマリアに、臣はノックアウト寸前だった。顔が赤くなり、タオルで隠れていない真っ白な肌は少しピンク色に変わっている。
 マリアに意識されているのかと思うと心臓が止まりそうな臣だった。

「そ…そうか…こっちでは男の上半身は大抵暑い時はあちらこちらで見られる。
 街中や人が多い所は別だが、運動して汗をかいたら脱いだりしがちだな。」

「…世界が違うとこんなにも常識も違うものなのですね…。」

「まぁ…そうだな。」

 マリアは改めてチラリと臣の体を見てみる。
 実はちょっと気になったのだ。
 父親や兄も、剣の訓練後に汗を拭くため上の服を脱いでいた事を思い出した。
 しかし父親や兄とは全然違う。

 騎士のように大きな腕や胸板ではないが、細いのに筋肉がしっかりとついている。

 父親や兄はここまで筋肉はなかった。

 脂肪?何それ?って感じの体を臣はしている。

「さて、まずは髪から洗おう。ここに座って、頭を少し上に向けて。」

 背もたれがついた普通の椅子に、頭を乗せる場所がついている。

「首の下に、これを敷いておいて。」

 暖かいタオルを渡され、素直に首の下に敷くと、とても気持ちがいい。

 臣が言った姿勢になると、目の上に暖かいタオルが乗せられた。

 これもまた気持ちがよかった。

 顔にかからないようシャワーでしっかり頭皮を洗い、シャンプーの時には頭皮マッサージまでされた。

 あまりの気持ちよさに、マリアはうとうとしてしまう。

 コンディショナーもいつの間にか終わっていて、臣に名前を呼ばれ気がついた。

「大丈夫か?眠い?」


「ごめんなさい、マッサージが気持ちよくて気付いたら寝てしまっていましたわ」

「疲れてるのもあるんだろう。早めに風呂を上がろう。次は体を洗うから、バスタオルを前にだけかけて椅子に座って。座ったら声をかけて、後ろ向いとくから。」


「わかりましたわ。」

 臣が後ろを向くと、マリアは言われた通りバスタオルを前だけに掛けて座り臣を呼んだ。

 臣は直ぐに椅子から背もたれの部分を取り外す。

 この椅子は実は介護用の椅子である。

 裏家業をしていると怪我は日常茶飯事で、怪我人を風呂に入れる事もあるので、臣の屋敷では介護用のベッドや、介護用の椅子が使われている。
 風呂用のベッド型もあるが、流石にそれは今は使わない。

 真っ白な背中に、臣はドギマギした。

 女性の裸を見たことがないわけではない。

 今までだって特に何かを思うこともなかった。

 けど、何故かマリアの体には変に反応してしまう。
 頭を振り、背中にシャワーをかけていく。
 ボディスポンジをアワアワにして、泡で体を洗うように優しく丁寧に洗っていった。
 こんなに丁寧に洗ったことなんて今までになかった。
 一度シャワーで泡を流した。

「あ、悪い。目隠し用のタオルを忘れてきた。ちょっと待ってて。」

 臣は急いでタオルを取りに行こうとしたが、ズボンをマリアが掴んだ。

「あ…の……後ろからなら…見えませんから……」

 恥ずかしそうに、顔を赤らめながらもそんなことを言い出すマリアに、臣はどうして良いかわからない。

「目隠し…見えないと怪我をするかもしれませんから…」

「……わかった。じゃあ上から見えないようバスタオルはそのままで。…バスタオルの下から洗うから動かないで。」

「はい…」

 何とも言えない空気の中、シャワーをバスタオルの下からかけ、お湯が当たってない所が無いか確認しつつお湯をかけていった。

 後ろから抱き締めるように、でも肌は触れさせないよう注意しながら、首から腕、鎖骨と徐々に下へ洗っていく。

 胸元まで来た時、臣はマリアの胸の大きさが分かってしまった。
 触った訳ではない。しかし、トップまでの距離や下乳の厚みで、気にしないようにしても分かってしまったのだ。

 下着を買うために、従姉に採寸させられたが、あの時はマリアがメモリの部分を持って、臣は背中の方が真っ直ぐになっているか確認したりしていただけなので、胸の大きさなんか気にしていなかった。


 息も絶え絶え上半身を洗い、次は前に回って足を洗う。跪きマリアの足を洗ってくれている臣に、マリアは余計ドキドキして、心臓が口から飛び出しそうであった。

 足を立たせられ太ももの内側を洗われた時なんて、際どい所すぎて、マリアはつい目を閉じてしまった。

 臣はひたすら無になろうと、般若心経を唱えながら洗っていた。
 足も洗い終え、シャワーで上半身と足の泡を流し終えた臣は、一仕事終えた気持ちだった。

「後は…デリケートな所だから頑張って自分で洗って。流石に…婚約者じゃないし、スポンジ越しでも触れちゃダメだろうから。洗い終わったらシャワーで流して、シャワーはコックをこの線まで戻したら止まるから。
 あとは湯船に浸かって暖まって。湯船を出る時は声掛けて。体を拭くバスタオルを渡すから。」

「わかりましたわ。ありがとうございます。」

 もう恥ずかしくて顔を見る事もできない。
 けど、臣に婚約者じゃないのにと言われた時、心臓がドキンではなく、ドクンとなった。
 何だか嫌な音に、マリアは内心首をかしげた。


 初めて自分で自分の体を洗う。
 侍女がしてくれていたようにしてみるが、上手くできているかわからない。
 だが臣を待たせ過ぎるのも良くないと思い、湯船に浸かってしばらくしてから臣に声をかけた。

 臣は中に入ってこず、ドアの隙間からバスタオルを差し出した。

 マリアは自分で拭くという、こちらでは当たり前な事が当たり前ではなかったので、体を拭かずに、タオルを体に巻き付けてそのままお風呂を出てしまった。

 これに驚いたのは臣である。

「身体拭かないと風邪引いちゃうよ。」

 暑くなってきたと言えまだ夏前である。

 髪の毛も、先ほどは軽く絞って、下に落ちないようタオルで纏めただけなので、先にそちらから水分を取っていく。
 タオルドライをしてから、濡れた髪につけてから乾かすタイプのオイルをつけ、またタオルで髪を纏めた。

「身体の拭き方わかる?肌を痛めないように、タオルを身体に押し付けるようにして水分をとるんだけど。」

「水分が無くなればよろしいの?」

「まぁ、そういうこと。取りすぎは肌がカサカサになるから、タオルで擦らないようにね」

「それでしたら、風魔法で乾かせますわ。」

 マリアがそう言うとフワッと温かく優しい風が吹いた。

「あ、魔法でそういう事もできるのか。じゃあ髪の毛も?」

「できますわ。」

 タオルを取ると、また温かい風が吹いて髪が乾いていた。

「めっちゃ便利だな」

 臣が笑うと、マリアもフフフッと嬉しそうに笑った。

「じゃあ、後は下着と服ね。こういう形の下着はあった?」

 ナイトブラと普通のブラジャーが書かれた紙を見せる。

「いいえ、初めて見ますわ。向こうでは寝る前までコルセットをつけて、寝る時はなにも着けませんの。」

 興味深げに、臣に渡されたブラジャーの付け方が書かれた紙を見るマリアは、臣が顔を赤らめている事に気づかなかった。

「今日からは夜は夜用の下着をつけて。パジャマは、羽織ってボタンを止めるだけの、ワンピースタイプみたいだから。それから、着替え終わったら化粧を落とした時みたいに、化粧水をコットンにつけて顔を保湿して。そのあと乳液をつけてね。
 歯磨きはここにあるから。
 俺も寝る準備をしてくるよ。
 部屋の場所はわかる?」

 臣は風呂場のバスタオルを回収したりお風呂の栓を抜いたりと動き回りながらマリアに尋ねる。

「ええ、大丈夫ですわ。終わったら部屋に戻るわ。」


「うん、じゃあ後でね。」

 そう言うと、臣は脱衣場を出てダッシュでトイレへ向かった。

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