【完結】ただのADだった僕が俳優になった話

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熱が下がり、保護してくれたお爺ちゃんと縁側で日向ぼっこをしていると、お婆ちゃんの元気な声が聞こえた

姿を現したお婆ちゃんの隣には、幻覚でも見ているのか、叶さんの姿があった

信じられなくて名前を呼べば、僕の名前を呼んでくれた

名前を呼ばれただけなのに、心の中で色んな感情が爆発して、足に激痛が走った

無意識に叶さんの元へ走り出そうとしていたようだ

驚くと同時に体が傾く

斜めに傾く視界の中見えたのは、叶さんが焦った表情で走り出し、手を伸ばすところ

まるでスローモーションのようだった

地面にぶつかると思ったのに、僕は暖かなものに包まれた

叶さんだ……撮影の時に知った叶さんの温もりと匂いに包まれて安心した

安心したら涙が止まらなくなって、縋るように叶さんにしがみついた

お爺ちゃんに促されるまで、叶さんは僕をずっと抱きしめていてくれた


お爺ちゃん家の帰り道、叶さんから僕がいなくなった後の話を聞いた

警察が動いていることも、志野さんが先に帰ってきてくれてたことも、叶さんが急いで仕事を終わらして探しに来てくれた事にも驚いた

そしてあのマネージャーが逃走した事も……

途端に不安が押し寄せてきた

前からいじめはあった

理由だってだいたいわかっているから、物を取った犯人もわかっている
けどマネージャーは?あの人に山に置き去りにされる程憎まれていたのか?
送り迎えも、Fランクの人の仕事やオーディションがあればそちらを優先してもらい、自分はタクシーを使っていた
稽古中も僕を待ってた訳じゃない
自分が受け持つ人達をサポートしていた
殆ど関わりがなかったのに……
僕は気づかない内に恨みを買う様なことをしたのだろうか?



帰れば事務所に顔を出さないといけないだろう
あのマネージャーのように、心の中では僕を疎ましく思っている人がいるかもしれない
今回みたいに突然身の危険を感じるような事になれば今の僕では対処出来ない
誰が信用できるのか……

チラリと叶さんを見る

この人は信頼出来る
だって、わざわざ向こうの仕事を急いで終わらせて戻ってきてくれた
撮影スケジュールがあるんだ、きっと頭を下げて無理して戻ってきてくれたんだと思う
戻ってきて直ぐに僕を探しに来てくれた

それに志野さんも…
海外は危険があるから、必ず叶さんに付いているって言ってたのに叶さんを置いて戻ってきてくれた
警察とのパイプ役をして僕を探してくれてた

社長は…まだ分からない………
心配してくれてるっては聞いたけど…
叶さんも志野さんも、僕を他の人より特別扱いしてくれてるのが分かるから…事務所的にはあまり宜しくないって思ってるかもしれない
マネージャーのような事はしないだろうけど、社長という立場だ、事務所や事務所の人を守る為に不利益だと判断されれば何があるかは分からない……

他の人は…
稽古中色々アドバイスをくれたA~Fランクの人や講師の人…
稽古でしか顔を合わせてないけど、彼らの事を僕は何も知らない…
同じ事務所だけどライバルな訳だし、親切にしてくれても心の奥では何を考えてるか分からない

そうだ、親戚でさえそうだった

自分の親であるお爺さんの面倒を見たがらず、お婆さんの遺産が手に入るとなったら手の平を返した
お婆さんが資産家で、お爺さんは婿養子だったらしいけど、その遺産は結構なもので、僕が受け取る筈だった遺産もかなりの額だった

血が繋がった人でさえ、金がなきゃ動かないようなもんなんだ

他人の心なんて何を考えてるかわかったもんじゃない……

僕は疑心暗鬼になっていた





サービスエリアで叶さんに今までの事を全て話した
トイレ休憩をした後、叶さんが「よく頑張ったな」とご当地ソフトクリームを買ってくれた

それを食べながらまずは病院で足を診てもらって、その後事務所に向かう事を聞いた

それから安全を考えて、暫くは叶さんの家に泊まるようにと告げられた

「いや、さすがにそこまでお世話になるのは…」

僕がそう言うと悲しげな表情をされる

「彼方、俺はアメリカから帰れなかった時、どれほど心配だったか分かるか?まだ細井の消息が分からない、1人自宅に戻して彼方に何かあれば……」

「心配をかけてごめんなさい……でも僕が居たんじゃあ、叶さんがゆっくりできないでしょう?」

「大丈夫。元々家は寝るために帰っていた様なものだから、気にしなくていい。それに仕事も今年は事務所主催の舞台と雑誌やテレビの取材が入ってるだけだから、そこまで忙しくないしね。」

ニッコリ笑う叶さんに、どう断ればいいか分からない

「それに、志野が既に準備してるはずだよ」

「…志野さんが?」

「俺の家の合鍵を志野には渡してあるから、彼方用の日用品や食材を買って住めるように準備してるはずだよ。
俺の家、本当に寝るだけの家だから冷蔵庫には水とか酒とかしかないし、人を泊めたこともないから布団も歯ブラシとかの予備もなんも無いんだ」

「いやいや、それなのにわざわざ用意して貰うなんて悪いですよ!!」

「でもその足じゃ生活するのも不便だろ?」

確かに…骨は折れてないけど、大分酷く捻ったようで歩くのも、ちょっと体重をかけるだけで激痛が走る

お爺ちゃんの家では、家具が多かったからそれに掴まって歩いていた

「無理をしたら、稽古に出るのも遅くなる。ずっと付きっきりという訳にはいかないけど、俺も志野も日本に帰ってきた。
俺達を頼っていいんだよ。1人でなんでもしなきゃいけない事はない。」

頭を撫でられ優しく微笑まれた

「………ありがとうございます。お世話になります。」

僕がそう言うと、叶さんは綺麗に笑った







 
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