【完結】ただのADだった僕が俳優になった話

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アメリカでの撮影は順調、いや予定より早く進んでいた

俺が出演するシーンもあと僅かとなったこの日、永からの電話に衝撃を受ける事となった

『彼方が昨日から行方不明だ』

俺はすぐに監督と共演者に頭を下げ少しでも早く日本に帰るべく、出演するスケジュールを前倒しにしてもらった

先に志野に日本に帰ってもらい状況を逐一報告してもらう

しかし日本の警察は事件性がなければなかなか動かない

彼方が見つからないまま日にちだけが過ぎていった

アメリカに滞在していた頼に連絡が取れ事情を話し、撮影を終えた俺はすぐ頼を連れ日本に帰国した

空港を出てすぐに事務所へ向かう

事務所で永に話を聞いたが、捜査は全く進んでおらず、初歩的な捜査さえ行われていない

探す気など、サラサラないような警察に苛立つ

その夜、警察の捜査でやっと彼方が、隣の県に連れていかれた可能性が高い事がわかった

永に怒鳴ってしまったのは悪かった…あいつは社長だけど、社長業以外も事務所の為に動いている
以前の事務所から俺を引き抜いて、事務所を立ち上げたから、最初は嫌がらせやスパイみたいな奴が多くて、永にとって信用できる人間が少ないから、今回も1人で動き回っていたんだろう



すぐに自宅に戻り、後部座席に着替えと毛布、飲み物を投げ入れ車を発進させた

今から行けば明日の朝にはすぐに捜索できるだろう




細井が彼方を連れていったと思われる山の入口には村があり、道の駅も近くにあった為、そこで少し仮眠をとった

人が動き出す時間を見計らって、畑仕事をしている人へ話しかけた


「若い男の子?」

「はい、身長は170くらいで少し長めの黒髪に細い体つきなんですが」

「うーん……1週間くらい前なのよねぇ?」

「はい、こちらの方に来た事までは分かってるんですが…」

やはり分からないか…何とかここまで辿り着いてくれていたらと思ったけど……


「よねさん~おはよぉ~」

「あら、としさんおはよう」

「あらあら、えらくいい男じゃないか、どしたんだい?」

このお婆さんの知り合いらしいお婆さんが、こちらに向かってくる

「何かね、人を探してるらしいんよ」

「こんなとこで人探しかい?」

「はい、1週間くらい前にこちらの山に来ている筈なんですが…20歳位の黒髪の青年なんですが…」

「………それって彼方くんの事かいね?」

「彼方!知ってるんですか!?」

勢い余ってお婆さんの肩を掴むと、お婆さんは驚いた表情をする

「知ってるも何も、うちで預かってるよ」

お婆さんの話によると、彼方を見つけたのは旦那さんで、山の入口にある山菜を取りに出かけた所、倒れている彼方を発見したらしい

彼方は足を怪我していて、風邪をひいたのか高熱が3日続き寝込んでいたのだった

倒れていた所に彼方の荷物はなく、彼方の熱が微熱程度になってから話を聞くと、斜面から転げ落ち、その時に荷物は行方不明、知り合いの連絡先も分からないとの事で、元気になるまで泊まらせてくれていたらしい

お婆さんに連れられ、彼方がお世話になっているお婆さんの家へ急いだ

「爺さ~ん!お客さんだよー!!」

家に着くと大きな声でお爺さんを呼ぶお婆さん

「縁側におるぞ~」と遠くから返事が返ってきた

お婆さんについて行くと、日本庭園がありそこにお爺さんと青年が縁側に座っていた


「………叶さん………?」

驚いた表情の彼方に、生きていた…と体の力が抜けた

お婆さんにやっと熱も引き元気になったと、家に向かっている時、聞いてはいたが、この目で見ない事には安心出来なかった

「彼方……」

彼方はこっちに来ようと縁側を降り走り出そうとした

「うわっ!!」

足を怪我しているのに走り出そうとしたから、体が大きく傾いた


咄嗟に走ってその体を受け止める

これ以上怪我なんてさせられない


受け止めた体は2ヶ月前より細くなっている気がする

「叶さん!!叶さ……っつ……」

縋り付き俺の名前を呼ぶ彼方は泣いていた

ギュッと抱きしめる

「遅くなって悪かった……生きてて良かった………」

縋り付くようにして泣く彼方に、心から安堵した



しばらくそうしていると「ほらほら、中に入りなさい。また熱がぶり返すぞ」と言うお爺さんの言葉に、俺達は頷いた


改めて彼方を助けてくれたお爺さんに挨拶をする

「叶響と申します。この度は、彼方を助けて頂き本当にありがとうございました。」

「おー、良いってことよ。困った時はお互い様だからな。それにしても『響』って女じゃなかったのか」

お爺さんの言葉に首を傾げる

「彼方くん、熱に魘されながら『響さん』ってしきりに呼んでたから、てっきり恋人かと思ってたんだが。」

「……私は彼方の仕事の先輩です。海外で仕事があって、向こうに居る時に彼方が行方不明だと聞かされて…昨日、日本に戻って来て急いでこちらに来ました。」

「先輩か……叶さん、彼方くんは登山に来たわりに軽装だ。登山目的なんかじゃないだろう。何があったか知っているか?彼は詳しい事を話してはくれんのだ。」


一瞬迷った
事実を言えば、この事件が明るみに出る
しかし、彼方が生きていたことにより、今回の件は警察も動いているし、細井が逃走している事から表沙汰になるのは必須である。


「彼方は、事務所のマネージャーに拉致され、山に置いていかれたんだと思います。
詳しくは本人に聞かなければ分かりませんが、当日彼方を車に乗せたマネージャーが警察に事情聴取され、昨日逃走しました。」

「事務所?マネージャーって…あんた達の仕事って…」

「俳優をしています。彼方は数ヶ月前に事務所に在籍したばかりです。」

「ほー…うちはテレビがなくてもっぱらラジオだから俳優さんは全然知らんのだが……なるほど、そりゃ2人とも良い男なわけだ。
警察も動いてるのか。……にしても1週間は長くないか?」


「はい、彼方が行方不明になった次の日に捜査してもらうよう相談しました。実際彼方を探そうと、ちゃんと動いたのは昨日ですが…マネージャーは事務所の最寄り駅の前で降ろしたと言っていましたが、駅の防犯カメラにも彼方の姿はなく、調べるとマネージャーの車は駅に向かわず高速に乗りこちらまで来ていたことが昨日分かりました。」

「叶さんはそれを聞いてこちらに来たと言うことですか。」

「はい。彼方が行方不明になって1週間、下手をしたら生きていないかもしれないと……彼方を助けて下さって本当にありがとうございました」

お爺さんにもう一度頭を下げた

「いやいや、彼方くんを見つけれて良かったよ。あちらに戻っても、暫くは側にいてやって欲しい。
夜になると魘されてるんだ。本人はそれに気づいてないようだが…」

「分かりました。私の家で傷が癒えるまで過ごしてもらいます。」


お婆さんと昼ごはんを作っている彼方を盗み見る

沢山泣いたから目元は赤くなっているが、ニコニコ笑いお婆さんと料理をしている







昼ご飯をご馳走になってから、俺達は帰路に着いた

お礼は改めて事件が解決し、落ち着いてから再度伺うことにした

俺が持ってきていた服に着替えはしたが、サイズが大きいのかダボダボだ…

彼方が元々着ていた服は斜面を転げ落ちた時にあちこち破け、着て帰れる状態じゃなかった

お爺さんの家では、お爺さんの浴衣を借り着ていたらしい

荷物は細井の車の中に置いたまま、車から降ろされた為、連絡も出来なかったらしい



車の助手席に彼方を乗せて念の為毛布をかけ出発した


帰りの車の中で、彼方が行方不明になった後何があったのか彼方に聞かせる

皆が心配してる事や、警察が動いていること、細井が逃走している事…

細井の事を話した時、彼方の顔色が悪くなった

サービスエリアで1度休憩を挟んだ時に彼方の話を聞いた

志野がアメリカへ飛んだ後から、事務所メンバーと話すようになった事は聞いていた

しかし、いじめを受けているとは知らなかった

A~Dランクの役者には、社長からもFランクのアイツらの様子を見ておくよう伝えられていた

しかしそのA~Dランクのメンバーがいない隙をついて、色々やらかしたらしい

何故相談しなかったのかと聞けば、芸能界を生きて行くためには、自分で解決出来るようにならないといけないと思ったと、彼方らしい真面目な返答だった

ただ、マネージャーまでが敵だとは思わなかった、今後誰を信じれば良いか分からないと苦しげな顔をした


彼方がトイレに行っている間に志野に連絡を入れた

彼方が見つかった事、身体中怪我をしている事、いじめの事、細井が彼方を山に置き去りにした事、心が傷つき誰を信用すれば良いか不安になっている事

簡潔に話すと「わかりました。まずは病院に言って、それから事務所に来てください。」と言われた

志野の事だから、永達にはちゃんと話を通してくれることだろう

志野は1聞けば10理解するような男だ

俺が彼方を自宅へ連れ帰るつもりなのもお見通しのようだった




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