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しおりを挟む「アクション!」の言葉と共に糸が切れたマリオネットのようにうなだれる彼
何が始まるのだろう?
ゆっくりと体を起こし、目を開いた彼は先程の青年では無く、とても幼い表情をしていた
とたんに目を見開き、目を泳がせ涙目になる
「………お………おじさんたち……だぁれ……?」
震える声で、ビクつきながらこちらを見ている彼に答える者は居ない
「ママ……パパは……?………ぼ……ぼく………かえりゃなきゃ…………」
こちらから見ていても分かるほど怯え震えている
今演じてるのが『宝』なのだろう
4歳児の泣き虫
「………ここどこぉ……?………ママぁ………」
ついにボロボロと泣き出し、必死に母親を呼ぶ様は、本当に幼い子供に見えてくる
「ママぁ……パパぁ……」
立ち上がりゆっくりと歩き出そうとして、また糸が切れたマリオネットのようにその場に倒れた
息を飲む声が聞こえる
先程足を怪我していると彼の口から聞いた
松葉杖なしに歩こうとして倒れたのか?
しかしストップの声はかからない
ピクリと彼の体が揺れた
「っく……っそ!!痛ってーな!!」
荒々しく起き上がった彼は腕の服で顔を拭った
「……あ?何だテメェら。」
幼い表情とはうってかわって、目に映るものは全て敵だと言わんばかりの目で、審査員を睨みつける
「またあのババァ達に頼まれたのか?前の奴らは3日も俺を拘束できなかったぞ?」
ニタニタ笑う彼だが目だけは睨むのを辞めない
「俺を閉じ込めれると思うなよ。前の奴らみたいにテメェら殺してやるよ。
1人1人ボコボコに殴り殺してやる。
前の奴らの中には命乞いして来た奴らもいたけどなぁ…おかしいと思わねぇ?
自分達は、俺達を殺そうとしてるくせに、自分の命は助けろってさぁ……
人の命の重さは同じって、学校の先生は教えんだろ?
お前達もそう習ったよなぁ?
けどお前達にとって俺達の命は虫けら以下で、早く消してぇんだろ
生きてる場所が普通と違うだけで、普通の生活を送っちゃならねぇっておかしいだろ。
いくら金を積まれたか知んねぇけど、頭が可笑しいのはババァ共だ。
それがわかんねぇテメェらも頭いかれてんだって気づいてっか?」
パイプ椅子を蹴りあげ怒りを顕にする彼に、先程の彼と同一人物なのかと目を疑う
足を怪我をしているはずなのに、普通に歩き椅子を蹴りあげ、まるで元々怪我などしていないかのようなその振る舞いに驚く
「いつまでふんぞり返って座ってんだよ?『彼方』が出てくるのを待ってんのか?
無駄だって、アイツは出てこねーよ。お前達は前の奴らみたいに、下手な催眠術でもかけるか?あんなの意味無いけどな。
そんな事させる前に俺がお前達をあの世に送ってやるよ。………まずはお前から殺してやる。」
殺気の篭った目でゆっくりと舞台監督へと近づいて行く彼が突然ピタリと止まった
「……っやめ……ろ……出て………まだ……俺………」
急に頭を抱え疼くまった彼は、また直ぐに顔をあげた
その顔は少し色気があり、微笑みを浮かべている
「皆さん、裕太がごめんなさい。ビックリしたでしょう?」
優雅に一礼して、先程蹴飛ばしたパイプ椅子を起こしに行き、また真ん中へ置くとそこへ腰掛けた
このエチュード、多重人格を演じているのか……
「こんばんは皆さん、私は姫華です。先程は裕太が失礼な事を言ってごめんなさい」
ゆったりと話す彼は笑みを絶やさず、仕草は女性に思える
「皆さんは前任者の方達と、同じお医者さんや研究者の方かしら?
前任者の方達は、裕太が殺してしまったの…その事…ご存知かしら……?
私達も、初めは話し合って、私達を殺そうとしないでと頼んだんです。
ですが聞く耳を持ってくれなくて……
皆殺しにする程でも無かったと思うんですけどね…ただ……私も裕太と同じ意見なんですよ。
私達は死にたくない。
それに、あんな地下の狭い空間に閉じ込められたら、宝は不安になってあなた達の話なんて聞かずに、ずっと泣いているし、裕太は反発して大暴れするだけです。
あなた達の目的が『彼方』なのはわかっていますが、彼はこの世界を拒否しています。
無理に引っ張りだそうとしても無意味です。」
切なげな表情を浮かべる彼の視線の動かし方や声のトーン、仕草が女性っぽく、全く違和感がない
「私達を地下に閉じ込めても、私達は消えないし、彼方が戻って来るわけじゃないんです。
もう不毛な事はやめませんか?『彼方』のご両親に伝えてください。
この先どれだけ『あなた達の彼方』を求めても、元々そんな者は存在しなかったんです。
存在しない者を求めても、手に入れることなどできません。」
まだ5分を過ぎた所だ
残り半分しかない
もっと彼のエチュードを見ていたい
「ただ……あなた達がご両親に伝えて下さらないなら、前の方達と同じ道を辿ることになってしまいます……」
悲しげな表情が庇護欲を駆り立てる
この時既に、元々中性的な顔立ちだからなのか、雰囲気も柔らかく清楚な女性に見えていた
じっと審査員を見る彼は視線を落とし溜息を吐いた
「やっぱり、あんた達も前任者と同じなんですね。」
低い声に続き、顔を上げた彼は『姫華』でも『裕太』でも『宝』でもなかった
「アイツらもあの地下に僕を放り込んで、姫華の人格も、裕太の人格も、宝の人格も消してしまおうとした。
でもね、できっこ無いんですよ。そんな事。」
『裕太』とは比べ物にならないくらいの殺気を放ち、冷たい瞳で審査員を見ている彼
場の空気が凍り、隣にいるマスコミ達も息を飲み、彼の世界へ既に惹き込まれていた
「だって…そんな人格、元々居ないんですから」
周りの見学者もその言葉に目をむく
「…っハハ………アハハハハハハ!!!」
突然狂ったように笑いだした彼は体を折り手を叩き、とても愉快そうに笑う
しかしその笑い声はこちらの恐怖心を煽る
「アハハッ……あんた達、気づかなかったんですか?」
彼は胸元から何かを取り出した
「僕はね、あの『親』という生き物から常に逃げ出したかった。いや……亡きものにしたかった。
だって僕の人生には必要無い物だもの。けど自分の手で殺せば、僕が捕まっちゃうでしょ。
だから最初は、それなら彼らが僕を必要としなければいいって考えたんだ。」
椅子から立ち上がりゆっくり周りを見渡した
「あの人達はね、僕にマリオネットになって欲しかったんだよ。傾いた会社を立て直し、自分達にとって都合のいい女と結婚させ、甘い蜜だけを吸い取る為の人形にね。
言うことを聞かない僕を、子供の時からずっと暴力で支配しようとした……
だから僕は、他のキャラクターを作り上げた。
最初は『裕太』、暴力を振るわれたらやり返した。
アイツら初めて反抗した時、すごい顔してたよ。傑作だったね!
次に『宝』、『裕太』が暴れないよう鎖で繋がれた時に、鎖を外させる為に作り出したキャラクター。
アイツら『宝』に優しくして、洗脳しようとしてたよ。馬鹿だよねぇ…実際は僕が演じてただけなのに。
その次が『姫華』、『裕太』を抑えれる唯一の人格として、アイツらと対話するだけの為のキャラクター。
でもね、そのお陰でアイツらは、色々な事を話してくれた。だから思いついたんだ、アイツらが自滅する方法を…」
手に持っていたのは小型のナイフだった
彼はナイフの刃をぺろりと舐める
「前任者達の死体の傍にね、アイツらの指紋の着いた、僕の調査書を置いてきたんだ。
既に警察はアイツらをマークしてるよ。
今回はね、ここに連れてこられる前に警察に電話したんだ『両親に殺される!!助けて!!』ってね?
僕にも警察のマークが着いてたからね。
そろそろここに来ちゃうだろうね……
けど残念な事に、今回はアイツらが疑われる証拠品を持って来てないんだ。
だから僕もさっさとここから逃げなきゃいけない。
だからね………あんた達が邪魔なわけ。……死んでくれる?」
目を細め口角を上げた彼は、まるで人を殺す事に戸惑いも、罪悪感も抱いていないような顔をしている
彼は審査員を舐めるように1人づつ見たあと「お前だ」ととても低い声で呟いた
と、音もなく審査員の1人に突っ込んでいく
彼の顔には明確な殺意が現れていた
見学者の中にはこれから起こる事を理解し、顔を背ける者、手で口を覆う者がいた
狙われた審査員のジェイエンスプロダクションの社長は、ガタガタ震えている
誰もが動けなかった
まるでスローモーションのようにも見えた
彼がナイフを振り上げる
殺される!!
「カット!!」
大きな声が張り詰めた空気を切り裂いた
その言葉に、彼はピタリと止まり姿勢を正し1歩後ろへ下がった
「ありがとうございました。」
彼は一礼した
そうだ、これは芝居だ
心臓がバクバクと鳴り、体からは力が抜ける
彼は殺人鬼でもない、ただの俳優だ
ただ、この芝居を見ていた者が惹き込まれ、現実との区別がつかなくなってしまったのだ
誰もが終わった後も動けなかった
松葉杖なしに動き回った彼は、足首を抑えながら床に倒れ込んだ
その時ようやくこのスタジオの時間が動き出したように感じた
すぐさま赤髪の長身の男が彼に駆け寄り、抱き上げ出ていった
スタジオは静寂に包まれていた
それほどまでに、彼のエチュードは衝撃的だったのだ
3役をやる
まさか10分という長いようで短い時間に、エチュードの中でキッチリと3役を演じたのだ
演じる事を演じた
このシナリオを考えたのが彼ならば、役者としての想像力は群を抜いているだろう
「審査に入りましょう」
その声に、先程『カット』をかけたのが、叶響である事に気がついた
叶響は彼の演技に惹き込まれなかったのだろうか?
ゾロゾロと出ていく審査員の中には、顔色を悪くさせている者が多くいた
彼らが部屋を出ていくと、緊張の糸が切れたのかスタジオの中は騒がしくなった
ーーSide 記者Aーー
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