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外もぼろぼろ
「寒いよー……」
玄関を出た瞬間、思わず声が漏れた。
家の中がすっかり快適になってしまったせいで、外の冷気がやけに身に染みる。ほんの数歩で耳まで凍りつきそうだ。
家の中はもう新築同然だ。
風呂もトイレも台所も、前の住人が残していった魔道具を修理したらピカピカになった。台所なんか、自動で火を点けるコンロまであったし、洗濯場では水が勝手に流れて布を回転させてくれるから、マール婆さんの腰痛もだいぶ楽になったそうだ。
壁の隙間風も直したから、家の中は春みたいにあったかい。むしろ外に出ると、余計に寒さが堪えるという罠だ。
でも、もう家の中の修理はだいたい終わってしまった。
残っているのは、庭や外壁、倉庫や納屋……つまり、寒さと戦う必要のある場所ばかり。私は深くため息をつき、毛布を肩から羽織ったまま外に出た。
「……あぁ寒い。絶対に風邪ひく……」
庭をぐるりと回ってみる。ところどころ外壁は剥がれ、納屋の屋根は傾いて今にも落ちそうだ。薪小屋に近づくと、積んである薪が心許ない。これでは、もう数日もすれば火を焚けなくなる。
「どうせなら薪からやるか……」
しぶしぶ積み上げた薪をどけていくと、その下から見慣れない魔方陣が現れた。円形の板のような石で、古びているけど細かい線刻がまだ残っている。中央には「木」の文字らしき紋様。
「……これ、もしかして」
恐る恐る薪を一片置いて、指先をちょいと触れる。魔力を流し込むと、光がぱっと走って――
パキン! という音とともに、薪がきれいに真っ二つに割れた。
しかも、刃物で切ったような断面。力も音も要らず、一瞬だった。
「わ、すご……! 薪割り機、魔道具バージョン……!」
思わず顔がほころんだ。これなら薪割りなんて数秒で終わる。
父様に報告すると、目を輝かせて飛び上がらんばかりに喜んだ。
「でかしたぞリナ! これで稽古ができる!」
次の日から父様とカイル兄様は、朝の剣の稽古を再開した。
父様は元騎士で、剣の腕を錆びつかせることを気にしていたらしい。でも薪割りは冬の死活問題だから仕方なく時間を取られていたのだ。それが一瞬で解決するとなれば、そりゃもうご機嫌である。
……いやいや、父様よ。私は薪割りができるようになったからって、寒い中わざわざ庭で剣を振り回す理由にはならないと思うんだけど。
その後も、外回りの修理をちょっとずつ進めた。
ただ外に関しては見た目はボロのままで。
鶏小屋の扉も蝶番が固まっていたけど、触れるだけでギィィ……と滑らかに動くようになった。ニワトリたちもご機嫌で卵を産んでくれる。
「リナのおかげで朝ごはんが豪華になったよ!」
と、カイル兄様が喜んで卵焼きを頬張る姿を見て、私もちょっと鼻が高い。
庭の井戸も古びていたから、ちょっと直してみたら――底に設置されていた魔道具が復活した。どうやら水を自動で汲み上げてくれる仕組みらしい。これでバケツを担ぐ重労働も不要になった。マール婆さんなんて、手を合わせて「ありがたやありがたや」と言う始末だ。
「リナお嬢様、本当に聖女さまのようです」
「……いや、ただの修理魔法なんだけど」
でもまぁ、人の役に立つのは悪くない。
特に家族のみんなが楽になって、笑顔が増えていくのを見ると、胸が温かくなる。
ただ問題は――家の中が快適すぎて、みんな外に出たがらなくなったことだ。
外は壁もボロボロで、風がびゅうびゅう吹きつけてくる。私自身も、外に出ると「寒い寒い」しか言ってない気がする。
でも、こうして少しずつ直していけば、家全体がもっと便利になるんじゃないかと思う。
屋根を直せば雨漏りもしなくなるし、外壁を直せば外の寒さも和らぐはず。
「……やるしかないか」
私はまた毛布をぎゅっと巻き直し、次なる修理対象を探すため、雪のちらつく庭へと足を踏み出した。
それに、修理した魔道具が何をしてくれるのか、ちょっとした宝探しみたいで面白い。
私は心の中で拳を握りしめた。
玄関を出た瞬間、思わず声が漏れた。
家の中がすっかり快適になってしまったせいで、外の冷気がやけに身に染みる。ほんの数歩で耳まで凍りつきそうだ。
家の中はもう新築同然だ。
風呂もトイレも台所も、前の住人が残していった魔道具を修理したらピカピカになった。台所なんか、自動で火を点けるコンロまであったし、洗濯場では水が勝手に流れて布を回転させてくれるから、マール婆さんの腰痛もだいぶ楽になったそうだ。
壁の隙間風も直したから、家の中は春みたいにあったかい。むしろ外に出ると、余計に寒さが堪えるという罠だ。
でも、もう家の中の修理はだいたい終わってしまった。
残っているのは、庭や外壁、倉庫や納屋……つまり、寒さと戦う必要のある場所ばかり。私は深くため息をつき、毛布を肩から羽織ったまま外に出た。
「……あぁ寒い。絶対に風邪ひく……」
庭をぐるりと回ってみる。ところどころ外壁は剥がれ、納屋の屋根は傾いて今にも落ちそうだ。薪小屋に近づくと、積んである薪が心許ない。これでは、もう数日もすれば火を焚けなくなる。
「どうせなら薪からやるか……」
しぶしぶ積み上げた薪をどけていくと、その下から見慣れない魔方陣が現れた。円形の板のような石で、古びているけど細かい線刻がまだ残っている。中央には「木」の文字らしき紋様。
「……これ、もしかして」
恐る恐る薪を一片置いて、指先をちょいと触れる。魔力を流し込むと、光がぱっと走って――
パキン! という音とともに、薪がきれいに真っ二つに割れた。
しかも、刃物で切ったような断面。力も音も要らず、一瞬だった。
「わ、すご……! 薪割り機、魔道具バージョン……!」
思わず顔がほころんだ。これなら薪割りなんて数秒で終わる。
父様に報告すると、目を輝かせて飛び上がらんばかりに喜んだ。
「でかしたぞリナ! これで稽古ができる!」
次の日から父様とカイル兄様は、朝の剣の稽古を再開した。
父様は元騎士で、剣の腕を錆びつかせることを気にしていたらしい。でも薪割りは冬の死活問題だから仕方なく時間を取られていたのだ。それが一瞬で解決するとなれば、そりゃもうご機嫌である。
……いやいや、父様よ。私は薪割りができるようになったからって、寒い中わざわざ庭で剣を振り回す理由にはならないと思うんだけど。
その後も、外回りの修理をちょっとずつ進めた。
ただ外に関しては見た目はボロのままで。
鶏小屋の扉も蝶番が固まっていたけど、触れるだけでギィィ……と滑らかに動くようになった。ニワトリたちもご機嫌で卵を産んでくれる。
「リナのおかげで朝ごはんが豪華になったよ!」
と、カイル兄様が喜んで卵焼きを頬張る姿を見て、私もちょっと鼻が高い。
庭の井戸も古びていたから、ちょっと直してみたら――底に設置されていた魔道具が復活した。どうやら水を自動で汲み上げてくれる仕組みらしい。これでバケツを担ぐ重労働も不要になった。マール婆さんなんて、手を合わせて「ありがたやありがたや」と言う始末だ。
「リナお嬢様、本当に聖女さまのようです」
「……いや、ただの修理魔法なんだけど」
でもまぁ、人の役に立つのは悪くない。
特に家族のみんなが楽になって、笑顔が増えていくのを見ると、胸が温かくなる。
ただ問題は――家の中が快適すぎて、みんな外に出たがらなくなったことだ。
外は壁もボロボロで、風がびゅうびゅう吹きつけてくる。私自身も、外に出ると「寒い寒い」しか言ってない気がする。
でも、こうして少しずつ直していけば、家全体がもっと便利になるんじゃないかと思う。
屋根を直せば雨漏りもしなくなるし、外壁を直せば外の寒さも和らぐはず。
「……やるしかないか」
私はまた毛布をぎゅっと巻き直し、次なる修理対象を探すため、雪のちらつく庭へと足を踏み出した。
それに、修理した魔道具が何をしてくれるのか、ちょっとした宝探しみたいで面白い。
私は心の中で拳を握りしめた。
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