18 / 32
嘘は言ってない
しおりを挟む
「失礼します。もしかして、肌荒れや吹き出物に効く薬をお探しですか?」
声をかけると、侍女たちが一斉にこちらを振り向いた。視線が鋭い。都会の女は目が強い。こわい。
「……誰? 観光客?」
「田舎の騎士爵家の娘、リナ・アルステッドと申します。家で育てた薬草を加工した化粧水を持っています」
一歩進んでスカートの裾をつまみ、ぺこりとお辞儀。貴族の礼儀はこういう時のためにある。
「そんなもの信用でき――」
「信じるかどうかはお試しになってからで構いません。ちなみにこの薬草から作られるポーションは王国騎士団の方々にもご贔屓にしていただいております」
「まあ、騎士団に?」
嘘は言っていない。
贔屓にしているのはギルバート様ひとりだけだが、それは事実である。
多少の誇張は田舎者の処世術だ。
私は小瓶を取り出し、こっそりリペアの魔法を少しだけ多めにかけておく。
効き目マシマシ。リナスペシャル。
「ただの薬草じゃないですよ。育て方と配合が違います。もしお嬢様の肌に効けば、それはもう『田舎の奇跡』ってことで」
侍女たちが互いに生唾を飲み込む音がした。
ひとりが、ぽつりと漏らす。
「……お嬢様、もうすぐご結婚されるのに、肌に異変が出てしまって……。婚約者様ともお会いできずに、屋敷の雰囲気も悪く……。肌荒れ程度では聖環にお願いすることもできませんし。でも、怪しい薬で悪化したら……」
なるほど。
貴族にとって「顔」は資産そのものだ。
失敗は許されない。
「ま、信じないなら仕方ありません。王都の高級薬だけに頼るのも、貴族様の特権ですしね」
私が肩をすくめると、侍女たちは一瞬だけ顔を見合わせた。
「……っ、わかりました。その化粧水……お嬢様に試してみます。もし効いたら、報酬は?」
「効いたらでいいです。セデル村、という名前だけ覚えていただければ」
にこり、と笑って小瓶を渡す。
背を向けた瞬間、父様とカイル兄様の口が ぽかーん と開いていた。
「……え、無料で渡したの? 売るんじゃなかったの?」
「タダより高いものはないって言うでしょ。『田舎の薬草が上級貴族の令嬢を救った』って噂が広まった方が、何よりの宣伝になるんです」
「というか、それ化粧水っていうかポーションだよな?ほんとに肌に効くのか?」
「もちろんです!何にでもちょっと効く、便利ポーションなんだから。それにさっきのは特別リナスペシャルだから効果はばっちりです」
「さすがリナ。じゃあ化粧水として売るときは、全部にリナスペシャルかけんの?」
「しませんよ。ご令嬢は、たぶん色々やり過ぎて肌が弱ってただけ。だから最初にガッと効かせて調子が戻れば、あとは普通のポーションでもいい状態をキープできると思います。うちのは優しいしね」
「なるほど……」
「それでね、もし『普通のポーションでも治らないほど深刻な人』がいたら、その人は絶対うちに連絡してくるでしょ? その人にはリナスペシャルを売ればいいのです。高額で」
「…………お前、商売人だったのか?」
「さすが私の娘だ……!」
「なんか最近、たくましくなった気がする……」
二人の視線がやたら温かくて小っ恥ずかしい。
*
――そして、その翌日、
外で、大きな車輪の止まる音。
それから、ひそひそとしたざわめき。
「ねえ、カイル兄様……あの馬車、金ピカだよ……」
「いや、あれは普通に高いやつだ。間違いない」
宿の主人すら慌てて出ていくほどの、とんでもなく上等な馬車が玄関前に止まった。
扉が開き――
降りてきたのは、絹のドレスに身を包んだ、気品ある少女。
昨日侍女が言っていた、
“婚約破棄寸前で肌荒れに悩む令嬢”。
その人本人だった。
「――アルステッド家の方に、お会いしたく参りました」
そう言って頭を下げた少女の肌は。
――すでに、うっすらと光を宿していた。
リナスペシャル、効きすぎ。
声をかけると、侍女たちが一斉にこちらを振り向いた。視線が鋭い。都会の女は目が強い。こわい。
「……誰? 観光客?」
「田舎の騎士爵家の娘、リナ・アルステッドと申します。家で育てた薬草を加工した化粧水を持っています」
一歩進んでスカートの裾をつまみ、ぺこりとお辞儀。貴族の礼儀はこういう時のためにある。
「そんなもの信用でき――」
「信じるかどうかはお試しになってからで構いません。ちなみにこの薬草から作られるポーションは王国騎士団の方々にもご贔屓にしていただいております」
「まあ、騎士団に?」
嘘は言っていない。
贔屓にしているのはギルバート様ひとりだけだが、それは事実である。
多少の誇張は田舎者の処世術だ。
私は小瓶を取り出し、こっそりリペアの魔法を少しだけ多めにかけておく。
効き目マシマシ。リナスペシャル。
「ただの薬草じゃないですよ。育て方と配合が違います。もしお嬢様の肌に効けば、それはもう『田舎の奇跡』ってことで」
侍女たちが互いに生唾を飲み込む音がした。
ひとりが、ぽつりと漏らす。
「……お嬢様、もうすぐご結婚されるのに、肌に異変が出てしまって……。婚約者様ともお会いできずに、屋敷の雰囲気も悪く……。肌荒れ程度では聖環にお願いすることもできませんし。でも、怪しい薬で悪化したら……」
なるほど。
貴族にとって「顔」は資産そのものだ。
失敗は許されない。
「ま、信じないなら仕方ありません。王都の高級薬だけに頼るのも、貴族様の特権ですしね」
私が肩をすくめると、侍女たちは一瞬だけ顔を見合わせた。
「……っ、わかりました。その化粧水……お嬢様に試してみます。もし効いたら、報酬は?」
「効いたらでいいです。セデル村、という名前だけ覚えていただければ」
にこり、と笑って小瓶を渡す。
背を向けた瞬間、父様とカイル兄様の口が ぽかーん と開いていた。
「……え、無料で渡したの? 売るんじゃなかったの?」
「タダより高いものはないって言うでしょ。『田舎の薬草が上級貴族の令嬢を救った』って噂が広まった方が、何よりの宣伝になるんです」
「というか、それ化粧水っていうかポーションだよな?ほんとに肌に効くのか?」
「もちろんです!何にでもちょっと効く、便利ポーションなんだから。それにさっきのは特別リナスペシャルだから効果はばっちりです」
「さすがリナ。じゃあ化粧水として売るときは、全部にリナスペシャルかけんの?」
「しませんよ。ご令嬢は、たぶん色々やり過ぎて肌が弱ってただけ。だから最初にガッと効かせて調子が戻れば、あとは普通のポーションでもいい状態をキープできると思います。うちのは優しいしね」
「なるほど……」
「それでね、もし『普通のポーションでも治らないほど深刻な人』がいたら、その人は絶対うちに連絡してくるでしょ? その人にはリナスペシャルを売ればいいのです。高額で」
「…………お前、商売人だったのか?」
「さすが私の娘だ……!」
「なんか最近、たくましくなった気がする……」
二人の視線がやたら温かくて小っ恥ずかしい。
*
――そして、その翌日、
外で、大きな車輪の止まる音。
それから、ひそひそとしたざわめき。
「ねえ、カイル兄様……あの馬車、金ピカだよ……」
「いや、あれは普通に高いやつだ。間違いない」
宿の主人すら慌てて出ていくほどの、とんでもなく上等な馬車が玄関前に止まった。
扉が開き――
降りてきたのは、絹のドレスに身を包んだ、気品ある少女。
昨日侍女が言っていた、
“婚約破棄寸前で肌荒れに悩む令嬢”。
その人本人だった。
「――アルステッド家の方に、お会いしたく参りました」
そう言って頭を下げた少女の肌は。
――すでに、うっすらと光を宿していた。
リナスペシャル、効きすぎ。
377
あなたにおすすめの小説
おばさん冒険者、職場復帰する
神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。
子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。
ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。
さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。
生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。
-----
剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。
一話ごとで一区切りの、連作短編。
リーナ視点が主です。
-----
また続けるかもしれませんが、一旦完結です。
※小説家になろう様にも掲載中。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】何でも欲しがる妹?お姉様が飽き性なだけですよね?
水江 蓮
ファンタジー
「あれは…妹が…アンリが欲しがったから…渡すしかなかったんです…。お父様、新しいドレスをお願いします。ドレスも宝石も欲しいと言われたら…姉として渡すしかなくて…」
お姉様は泣きながらお父様に伝えております。
いえ…私1つも欲しいなんて言ってませんよね?
全てはお姉様が要らなくなっただけですよね?
他サイトにも公開中。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。
桜城恋詠
ファンタジー
聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。
異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。
彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。
迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。
「絶対、誰にも渡さない」
「君を深く愛している」
「あなたは私の、最愛の娘よ」
公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。
そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?
命乞いをしたって、もう遅い。
あなたたちは絶対に、許さないんだから!
☆ ☆ ☆
★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。
こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。
※9/28 誤字修正
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる