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ジュリナ
「結局、援助することにしたのね。」
エリアスの言葉を聞いたとき、セリナは少し驚いたものの、すぐにそれが賢明な判断だと感じた。ロブワーク伯爵家にお金を与えても、何も変わらない。それはわかっていた。だからこそ、エリアスは金銭を渡す代わりに、もっと実用的で根本的な援助を提案したのだ。
「物資だけではなく、教育も含めて。エドリックに家督を譲ること条件にしたんだ。」
エドリックに家督を譲る?その一言に、少し驚きが込み上げた。エドリックは、ロブワーク家の中でも特に無駄にプライドだけが高く、何も実務を知らない男だったからだ。しかし、エリアスは彼に学ばせることで、少しでも領地を立て直させるつもりらしい。それは一つの試練だろう。エドリックにとっても、ロブワーク家にとっても。
「それに、領地には食料や種、農業のノウハウを直接送る。まずは根本から変えないと。」
うん、賢い選択だと思う。金で助けることは簡単だけれど、それではいつまでたっても変わらない。土地を豊かにするには、地道な努力が必要だし、その努力をエドリックが学んでいくのが最も効果的だろう。
数ヶ月後、セリナたちが送った援助が実を結んでいることは、エリアスの報告を通じてわかった。しかし、それと同時に、ロブワーク伯爵家の現状も日々伝わってきた。父のグレゴリーは王都でぼろ屋敷に住み、母のユーリナはすっかり老け込んでいるという話だった。
「結局、ロブワーク家はどうしてもプライドが先立つ家族だ。」エリアスが呟いたその言葉には、深い意味が込められていた。
セリナも気づいていた。ロブワーク伯爵家は、すべてが見かけ倒しで、内部が空っぽだった。貴族としての誇りはあっても、それを支えるための実力や基盤はなかった。あんな家が、どうしてこんなに長い間、何の実力もないまま名声だけで生きてこれたのか、今では本当に理解できる。
「セリナ、今でも母さんと父さんは、王都であのボロ屋敷に住んでるんだろうな。」エリアスが言った。
セリナはうなずく。父母の暮らしがどんなものか、よくわかっていた。それでも、セリナが家を出てからの数年間、彼らは一度もセリナを迎えに来ることはなかった。むしろ、セリナがいなくなったことを心の底で喜んでいるかのようだった。
「ジュリナも、あの家でどんな気持ちで過ごしているんだろうか。」
姉のジュリナのことを考えると、心が少し痛んだ。彼女はあの家で、無理にセリナを押し付けてきたあの家族と一緒に過ごしている。そして、今でもプライドだけが高く、何もできないままだろう。
エリアスがセリナを見て、少し微笑んだ。彼の目には、どこか優しさが宿っている。「でも、セリナはもうあの家には戻らない。君の選んだ道は、今までとは違うんだ。」
セリナも深く頷く。そう、セリナはもうあの家には戻らないし、過去のことを引きずって生きるつもりはなかった。エリアスと一緒に作ったこの新しい家と未来が、セリナにとってはすべてだった。
数ヶ月後、再びロブワーク伯爵家を訪れたセリナは、すっかり変わった状況に驚いた。王都のボロ屋敷で過ごすグレゴリーとユーリナ、そして、あの高慢で無能なジュリナ。彼らは見かけの華やかさを保ちつつ、貧しい生活を送っているのだった。
「セリナ、ようやく帰ったのか。」グレゴリーが、セリナを見て言った。その目には、いまだに貴族としての誇りを持ち続けているようだったが、その目の奥に見えるのは、ただの虚しさと後悔だった。
「今の生活に不満でも?」セリナはあえて問いかけた。
グレゴリーはしばらく黙っていた後、ようやく口を開いた。「不満…だと?そんなものはない。だが、あの家をどうにかしてくれと言いたい気持ちもある。エドリックが家を取り戻すのを待っているんだ。」
エドリックが家督を継いだところで、家が変わることはないだろう。それはセリナがよくわかっていた。だが、彼が学んでいるうちは、少しでも改善されるかもしれない。少なくとも、今はセリナたちが送った援助が無駄にならないよう、見守るだけだ。
「ジュリナも変わらないな。」セリナはつぶやいた。
ジュリナは、いまだにセリナを見下ろしてくるような目をしている。それでも、セリナは以前のように彼女に振り回されることはないだろうと確信していた。
ロブワーク伯爵家がこれからどうなるかは、もうセリナには関係のないことだ。セリナは、エリアスとともに、ここから先の未来を築いていくだけだ。そして、今までのように家族の期待に応えたり、プライドに振り回されることは、もう二度とない。
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