精霊武装世界の冒険者たち

柊 匁

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第一章 入団編

第七話 『天才』だけじゃない

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「……私と一緒に修行しませんか?」

 ――想定外だった。なぜなら、てっきりリリアは友達と修行するのだと思っていたからだ。

「理由を聞いてもいい?」
「うん。……あのね――。」


――約1時間前。

 私、リリア・クロウリーは精霊授与の儀式が終わり、友達と一緒に精霊堂からギルドメインセンターに向かってゆっくり歩き始めていた。

「リリアちゃん、その指輪似合ってるね!なんの精霊だったの?」

 私の友達の1人、メグがそう問いかけてきた。

「えっと……『雷神』だったかな?」

 あまり言いたくないが嘘を言ってもなぁと思ったのでちょっと濁した感じで答えた。

「えっ?……ええええ!!」
「ひゃ!どうしたのメグ!そんな大声出して。」

 私の友達グループのリーダーみたいな役割の子である、ジーナがメグの大声に驚きながらメグにそう聞いた。

「ジーナちゃん、リリアちゃんの精霊『雷神』だって!すごくない!?」
「ああ、それね。最初聞いた時は私もビックリしたわ。」
「え?ジーナちゃん知ってたの?」
「知ってるも何も私はリリアの次の出席番号なのよ。精霊鑑定の時に知ったわ。精霊鑑定の時に手を置く石があり得ないくらい光ってたわ。」
「へぇ!やっぱり、すごい精霊なんだ!!」
「ねえ、メグ。あなたもリリアと同じ上位精霊なのだから、あなたもすごい精霊なのよ?」
「へへ。やっぱり?」
「少しは謙遜しなさいよ。」

 ジーナがメグの頭にコツンと優しくチョップをくらわす。続けて、メグがジーナに質問する。

「そういえば、ジーナちゃんも上位精霊?」
「そうね。私も上位精霊だったわ。この中だとこの3人が上位精霊ね。まあ通常精霊でもフィリップ団長みたいに強くなる人はいるわけだし。逆もあり得るってわけだし、上位精霊だからって気を抜かないわ。このグループの誰にも負けないくらい強くなる。」
「リリアにも負けないのー?」
「そうよ。あんたも気を抜かないことよ?メグ、いい?」
「分かってるよー。」
「本当に分かってるかしら。」

 やれやれといった感じの顔をしたジーナ。次にメグからジーナに質問が飛ぶ。

「ねぇ、ジーナちゃんはどこの冒険者団に行くの?」
「そうね……私はコーラルを行こうと思ってるわ。ジャスミン団長は美しいしカッコいいし。ああいう人になりたいわ。メグ、あなたは?」
「私はライムグリーンに行きたい!」
「スプリング団長のあの天真爛漫な感じ、あなたと似合いそうね。」
「そうでしょー?」
「リリア、あなたどの団に行こうとしてるの?」
「……え?」

 ジーナが急に質問を投げかけてきた。

「もしかして、アンバー以外じゃないでしょうね?」
「なんでアンバー確定なのよ。……まあ、正直言っちゃうとアンバーを目指してるよ。」

 友達グループみんなから「おおぉー」と声が上がる。その後、少し険しい顔をしたジーナからこう言われた。

「やっぱりね……いい?リリア、今から私の言う事を聞いてくれる?」
「え?なに?」
「明日から自己強化期間でしょ?私たちと修行するより1人で修行した方がいいわ。」

 ――え?今、なんて?なんて言った?
 予想外の言葉に思考が一瞬固まった。続けて、ジーナが言う。

「私はそうした方が絶対リリアは強くなると思っ――。」
「そんなことない!」

 目を逸らすことなく、食い気味にジーナに言い返した。すぐにジーナが言い返す。

「実際、あなたは『第五の天才』なのよ?すでに私たちより数段階も上の実力なの。さらに『雷神』という強い精霊も手に入れた。それで実力が下の私たちと一緒にいたら、あなたが弱くなってしまうかもしれない。そんなの宝の持ち腐れだわ。」
「いや、でも、私はみんなと一緒に――」
「私だって!」

 ジーナが私の両肩を横からガッと掴む。そして、下向いてこう言った。

「私だって、あなたと離れるのは嫌なの。私たちのグループは冒険者学校の第一学年からの仲なのよ。」
「だったら、なんで……。」
「リリア、あなたのためでもあるし、私のためでもあるの。」
「ジーナ自身のため?」
「そう。私はあなたに憧れてたの、尊敬していたの。『第五の天才』と周りから言われようが、気にせず努力を怠らなかった。いや……気にしているのは知ってる。個室カフェに行ってるくらいだもの。」
「え?なんでその事を――」

 ジーナが私の肩から手を外し、私と目線を合わせて答えた。

「ある時たまたま見てしまったのよ。あなたがそこに入って行く姿を。跡をつけて入ってみたの。そしたら、全席が個室になってるカフェだった。
 最初はなんでこんなところに入ってるの?って思ったわ。けど、考えていくうちに理解した。あっ、『第五の天才』っていうのはやっぱり辛いんだろうなって。周りから期待とか嫉妬とか色んな目線を向けられる。それがプレッシャーになってるのかしらって。私たちは『第五の天才』と呼ばれる前から知り合いだったから、そんなことあまり考えたことなかった。しかも、そんなことに悩んでる様子をリリアは私たちに見せなかった。
 それに全部気づいた時に今まで気づかなかった自分をとても恥じたわ。こういう友達のグループでリーダー的ポジションにいるのにそのグループにいる友達の悩みを見抜けないなんて。
 そして、リリアに憧れや尊敬の感情も芽生えた。今までは『第五の天才』って呼ばれてるしすごいなくらいしか思ってなかった。だけど、リリアは『天才』だけじゃなかった。実力の面はもちろん、友達との付き合いの面でも努力してた。そして、この事をこのグループのリリア以外の全員に言ったわ。リリアはすごいんだって。『天才』だけじゃない、こんなに努力してるんだって。もしかしたら、私たちの知らないところでまだまだ色んな努力をしてるんじゃないかって……」
「それは買い被りすぎだよ……」

 気づいたら、ジーナは涙を流していた。それにつられるように私やメグ、周りのみんなも涙を流していた。涙を流しながらもジーナは続ける。

「だからさ、とりあえずごめんなさい。今まで気づかなくて、こんなに辛い思いをしてるなんて、しかもそれを助けられなかった。」

 ジーナが頭を下げる。

「メグからもごめんなさい。リリアちゃん助けるためにジーナちゃんたちといっぱい話し合いしたんだけど、ダメだった。」

 メグも頭を下げる。
 それに続いて周りのみんなも「ごめん」と言い、頭を下げる。

「みんな、頭上げてよ。私もみんなにSOS出してなかったのが悪いんだよ。こちらこそ、ごめんね。」

 私も頭を下げる。

「リリアは謝らなくていいでしょ!」

 ジーナに無理矢理頭を上げさせられる。するとジーナは涙を流しながらも笑顔になっていた。ジーナが涙を拭い、こう続けた。

「そして、ありがとう。私の憧れで居続けていてくれて。リリアがいたから、卒業まで頑張れたし、これからも頑張れる。そして、さっきも言ったけど、私はこのグループの誰にも負けないわ!リリアもいつか絶対抜かすから!」
「うん。私も負けない!これからはライバルだね!」
「メグもライバルだよー!」
「そうだね。みんなライバルだ!」

 みんないい笑顔になっていた。

「分かった。私、1人で修行頑張ってみるね!」
「ええ、それでこそ私のライバルよ。リリアの実力があれば、1人でも多分問題ないはずだわ。私も1人でとは言わないけど、なるべく少人数で頑張ってみるわ。」


――現在。

「――という理由なんだけど……」

 うんうん。いい話。……え?で、どこから僕と2人という話に――という疑問はすぐに解決する。

「でも、やっぱり1人は不安なんだよね。で、実はさっきからカイを誘おうかなって思ってて、それを今掲示板のところにいるジーナたちに相談したの。そしたら、確かに『秀才』くんならいいんじゃない?って言われたから誘ったという流れで……ダメ……かな?」

 上目遣いで聞いてきたので可愛いという言葉で頭が埋め尽くされるが一瞬でその煩悩を取っ払って答えた。

「いいよ。僕も元々1人だし。」
「ほんとに?ありがとう!」

 実に嬉しそうだった。それだけ1人が不安だったのだろう。
 その後も自己強化期間のことについて話し合い、今日は解散となった。
 寮への帰り道も頭によぎったのはあの上目遣いだった――。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
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柊 匁
2021.09.03 柊 匁

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