74 / 99
第二部 医学の知識と若木の令嬢 第六章 アストリートの歩む道
74. ささやかな宴
しおりを挟む
アストリート様の火傷痕がなくなって屋敷はお祭り騒ぎだった。
それだけアストリート様が心配されていたっていうことだね。
公爵様も私とシシ、お母さんに何度もお礼を言い、お母さんは宴を開くから参加していってほしいと懇願された。
お母さんは人の世とあまり関わりたくはないみたいだけど、「娘たちがいるなら」ということで参加していくことを決めたみたい。
ただ、お母さんも野菜や果物しか食べないことを伝えると、大急ぎで厨房へと指示を出していたね。
フラッシュリンクスって肉食獣っぽく見えるから、なにかのお肉を用意しようとしていたのかも。
見た目って大事だよね。
お母さんは呆れていたけど。
「それでは。我が娘、アストリートの治療を行ってくださったフラッシュリンクス様に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
宴は日が落ちる前から始められた。
私とシシ、それからお母さんの前には色とりどりの野菜や果物が並べられている。
見たことがない物もあるから、結構奮発してくれたのかも。
お母さんも人の作る作物は珍しいから味わって食べているしね。
こんなお母さん初めて見るかも。
「おう、ノヴァ。それにフラッシュリンクス様。アストリートの治療をしてくださりありがとうございます」
お母さんと一緒に食事を楽しんでいたらアーテルさんがやってきた。
アーテルさんも今回の治療ではすごく心配していたものね。
『あら、あなたは……確かフルートリオンにいた戦士よね?』
「覚えていてくださり光栄です。俺はアーテル、家を出た身ではありますがアストリートの兄になります」
『そうなの? 魂の輝きはまったく異なる色をしているけれど』
「魂の輝きというのがなにを指すかわかりませんが、アストリートとは腹違い、母親違いの兄妹となります」
『なるほど、それで』
「ええ。ですが、アストリートは俺の妹なのは変わりありません。治療をしてくださり、本当にありがとうございました」
『気にしなくてもいいのよ。聖獣が人の世に深く関わるべきではないのだけど、かわいい娘の我が儘だから付き合ってあげたまで。それに、きれいな色の瞳をしていたしね』
「瞳の色、ですか?」
『ええ。とても曇りのない澄んだ色よ。あのまま濁ることなく暮らしていてもらいたいわね』
「俺にはよくわかりませんが、妹には健やかに暮らしてもらいたいと願っています。いままで苦労していた分、これから幸せであってもらいたい」
『あら。あなたもあの子の兄なのね。私の息子や娘たちがノヴァに言っていたことと同じことを言っているわ』
「それでしたら嬉しいですね」
イチニィたちってばそんなことを言っていたんだ。
私は十分に幸せなのに。
でも、イチニィたちはやっぱり心配なんだろうな。
フルートリオンの衛兵さんが、たまに遠くの空で火の玉のような物が飛んでいるのを見かけたって言ってるもん。
絶対、イチニィたちのうちの誰かだよ。
二年前、大変な事になったからまだ心配なんだね。
ありがたいな。
「おお、フラッシュリンクス様。ごあいさつが遅れました」
『あら、ケウギーヌだったかしら。アストリートはどうしたの?』
「いま部屋で支度をさせている最中でございます。部屋にこもりきりでいたために痩せ細っており、顔も前髪で隠していたため切りそろえねばなりません。身支度にはもう少々お時間をいただければと」
『そう、わかったわ。それにしても、子供の顔を焼き潰すだなんてひどい人もいるものね。ああ、ノヴァも四歳の頃、森の中に捨てられていたところを助けたのだから、身勝手でひどい人間はどこにでもいるのかしら?』
お母さんってば言葉が冷たい。
公爵様も冷や汗を流しているじゃない。
もう少し優しい言葉をかけてあげてもいいと思うんだけどなぁ。
『それにしてもこの街もやはりヒト族の街ね。光り輝く表の顔と影で覆われた闇の顔が混じり合っているわ。それが人のサガなのかしら?』
うん?
どういう意味だろう?
公爵様はもっと顔色を悪くしているしあまりいい意味でもないようだね。
『まあ、いいわ。娘を変なことに巻き込むのでなければ特別なにもしないから』
「変なこと?」
『ノヴァは気にしなくてもいいのよ。あなたにはまだ早い話だから』
むう、お母さんが子供扱いする。
でも、お母さんから見れば私は子供だから仕方がないよね。
お母さんからは急いで大人になってもいいことはないって言われたから急がないけど、やっぱり早く大人になりたいかな。
それだけアストリート様が心配されていたっていうことだね。
公爵様も私とシシ、お母さんに何度もお礼を言い、お母さんは宴を開くから参加していってほしいと懇願された。
お母さんは人の世とあまり関わりたくはないみたいだけど、「娘たちがいるなら」ということで参加していくことを決めたみたい。
ただ、お母さんも野菜や果物しか食べないことを伝えると、大急ぎで厨房へと指示を出していたね。
フラッシュリンクスって肉食獣っぽく見えるから、なにかのお肉を用意しようとしていたのかも。
見た目って大事だよね。
お母さんは呆れていたけど。
「それでは。我が娘、アストリートの治療を行ってくださったフラッシュリンクス様に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
宴は日が落ちる前から始められた。
私とシシ、それからお母さんの前には色とりどりの野菜や果物が並べられている。
見たことがない物もあるから、結構奮発してくれたのかも。
お母さんも人の作る作物は珍しいから味わって食べているしね。
こんなお母さん初めて見るかも。
「おう、ノヴァ。それにフラッシュリンクス様。アストリートの治療をしてくださりありがとうございます」
お母さんと一緒に食事を楽しんでいたらアーテルさんがやってきた。
アーテルさんも今回の治療ではすごく心配していたものね。
『あら、あなたは……確かフルートリオンにいた戦士よね?』
「覚えていてくださり光栄です。俺はアーテル、家を出た身ではありますがアストリートの兄になります」
『そうなの? 魂の輝きはまったく異なる色をしているけれど』
「魂の輝きというのがなにを指すかわかりませんが、アストリートとは腹違い、母親違いの兄妹となります」
『なるほど、それで』
「ええ。ですが、アストリートは俺の妹なのは変わりありません。治療をしてくださり、本当にありがとうございました」
『気にしなくてもいいのよ。聖獣が人の世に深く関わるべきではないのだけど、かわいい娘の我が儘だから付き合ってあげたまで。それに、きれいな色の瞳をしていたしね』
「瞳の色、ですか?」
『ええ。とても曇りのない澄んだ色よ。あのまま濁ることなく暮らしていてもらいたいわね』
「俺にはよくわかりませんが、妹には健やかに暮らしてもらいたいと願っています。いままで苦労していた分、これから幸せであってもらいたい」
『あら。あなたもあの子の兄なのね。私の息子や娘たちがノヴァに言っていたことと同じことを言っているわ』
「それでしたら嬉しいですね」
イチニィたちってばそんなことを言っていたんだ。
私は十分に幸せなのに。
でも、イチニィたちはやっぱり心配なんだろうな。
フルートリオンの衛兵さんが、たまに遠くの空で火の玉のような物が飛んでいるのを見かけたって言ってるもん。
絶対、イチニィたちのうちの誰かだよ。
二年前、大変な事になったからまだ心配なんだね。
ありがたいな。
「おお、フラッシュリンクス様。ごあいさつが遅れました」
『あら、ケウギーヌだったかしら。アストリートはどうしたの?』
「いま部屋で支度をさせている最中でございます。部屋にこもりきりでいたために痩せ細っており、顔も前髪で隠していたため切りそろえねばなりません。身支度にはもう少々お時間をいただければと」
『そう、わかったわ。それにしても、子供の顔を焼き潰すだなんてひどい人もいるものね。ああ、ノヴァも四歳の頃、森の中に捨てられていたところを助けたのだから、身勝手でひどい人間はどこにでもいるのかしら?』
お母さんってば言葉が冷たい。
公爵様も冷や汗を流しているじゃない。
もう少し優しい言葉をかけてあげてもいいと思うんだけどなぁ。
『それにしてもこの街もやはりヒト族の街ね。光り輝く表の顔と影で覆われた闇の顔が混じり合っているわ。それが人のサガなのかしら?』
うん?
どういう意味だろう?
公爵様はもっと顔色を悪くしているしあまりいい意味でもないようだね。
『まあ、いいわ。娘を変なことに巻き込むのでなければ特別なにもしないから』
「変なこと?」
『ノヴァは気にしなくてもいいのよ。あなたにはまだ早い話だから』
むう、お母さんが子供扱いする。
でも、お母さんから見れば私は子供だから仕方がないよね。
お母さんからは急いで大人になってもいいことはないって言われたから急がないけど、やっぱり早く大人になりたいかな。
12
あなたにおすすめの小説
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~
黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!
転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件
きんちゃん
ファンタジー
アイドル、それも国民的人気グループともなれば、毎日楽しく活動して、周りからもチヤホヤされて無敵の日々でしょ?ルックスだけで勝ち組の彼女たちに悩みなんてあるわけがない!
……そんな風に思っていた時期が俺にもありました。いざ内部に入ってみると、結構……いや、かなり大変です。
松島寛太。地味ながらも人のために一生懸命働いてきた彼だけれど、結局それが報われることはなかった。
しかし哀れに思った天使が生まれ変わることを認めてくれるかもしれない?認められた条件は「大人気のアイドルグループのために人生を捧げる」ということだった。……自分自身いまいちピンと来ていない条件だったが……いや、捧げるってのはどういう意味なの?
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~
わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」
現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。
渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。
私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル!
「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」
提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。
家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。
裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。
錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。
主人公無双×のんびり錬金スローライフ!
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる