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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第六章 アストリートの歩む道
77. アストリートの望むもの
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「え? 私の婚約者はいなかったんですか?」
「申し訳ないがそうなる。そして、次の婚約者を見つけるという事もまた難しい」
うーん、なんだか難しそうな話をしている。
どういう意味なんだろう。
『ケウギーヌ。アストリートの結婚相手を見つけることが難しいというのは?』
あ、私が悩んでいたことをお母さんが聞いてくれた。
私も一緒に聞かせてもらおう。
「はい。我が家は公爵家、つまりこの国の貴族の中ではもっとも家格が高い家のひとつとなります。そうなると、その家の娘も嫁ぎ先は家格が高くなければなりません。しかし、家格が高い家の子供ほど幼いうちに結婚相手を決めてしまうもの。いまのアストリートの年頃で釣り合う家の男子はいないのです」
『難しそうな問題ね』
「実際難しいのですよ。我が家の格が低いのでしたら第二夫人などでも済む話ですが、そうもいきません。また、幼い頃から結婚相手が決まっているところに家の力を使って割り込むなどすれば、我が家はいい笑いものになってしまいます。それでなくとも、貴族同士の結婚、特に高位貴族同士の結婚には国王の承認が必要なもの、どんな手段を使うにせよ我が家の面子は潰れてしまいます」
うーん、よくわからないけどアストリート様がお嫁に行くのは難しいってことなのかな?
貴族って結婚するだけでも大変なんだね。
「そうですか、私は貴族女子としてのお役目も果たせない身となっておりましたか」
「そう気を落とすな、アストリート。貴族家の夫人になるだけが道ではない。お前がやりたいことがあるのなら私も力を貸そう。なにかやりたいことはないか?」
「やりたいこと、やりたいこと……」
そうブツブツつぶやきながらアストリート様は考え込んでしまった。
いきなりやりたいことを聞かれても困るんじゃないかな?
だけど、アストリート様は急にひらめいたように顔を上げ、公爵様に自分の希望を告げた。
「お父様。私の希望が叶うのでしたら、私は医師の道を歩みたいです」
「なに? 医師の道だと?」
「はい。立派なお医者様になって病人や怪我人を助けたいのです。ダメでしょうか?」
「いや、ダメとはいわぬ。だが、医者の道は険しいぞ? 病気の患者を診る際に自分が病気にかかる可能性もある。なにより、患者すべてを救えるとも限らぬ。その覚悟がお前にはあるのか?」
「はい。いまはまだありませんが、立派な医師になった際には必ず」
アストリート様は本気みたい。
でも、公爵様は止めたいようなんだよね。
娘が病気に倒れるかもしれないような役目を担おうとしているんだから、反対するのも当然なんだろうか。
アストリート様からすれば応援して送り出してほしいのだろうけど、公爵様としては手放しで応援できない、そんな感じかな?
「わかった。だが、アストリートよ。医学の知識はどうする? お前はこの十年近くの時間を部屋の中で過ごしてきた身だ。文字の読み書きは十分に教えてきたが、医学の知識はどうだ?」
「はい。そちらも大丈夫です。自らの部屋に閉じこもっていた間に読み込んだ本の中には医学や薬草学の本もあります。なので……」
「なるほど。それが余計な自信につながっているのか」
「お父様?」
「いいか、アストリート。医学書や薬草学書に伝わっている知識がすべて正しいとは限らないのだ。実際、この春にお前の弟であるグラシアノが高熱で倒れていた原因も薬草学の本に書かれている内容の誤りから来る処方間違いだった。それを正していくのもこの先の医師の役目となる。お前にはその覚悟はあるか?」
「はい! それも必ずや成し遂げて見せます!」
うわぁ。
アストリート様は本当にお医者様になりたいんだ。
これには公爵様もタジタジだね。
公爵様は「明日まで結論を待ってくれ」と言ってこの場を去っていったし、この先どうするかについて打ち合わせをするんだろう。
アストリート様の希望が叶うといいな。
『アストリート、ちょっといいかしら』
「はい、フラッシュリンクス様。どのようなご用件でしょう?」
公爵様たちがいなくなったあと、お母さんがアストリート様を呼び向かい合った。
なにをしているのかな?
『……ふむ、魔力の質としては問題なさそうね』
「あの、フラッシュリンクス様?」
『ああ、ごめんなさい。こちらの話よ。ところで、医師を目指すという話、本気ね?』
「はい。私は医師を目指したいのです。私のように悲惨な目にあった人たちを少しでも救えるような医者に」
『さすがにあなたレベルの怪我の治療になると、現在の医療技術では不可能なんだけど。まあ、いいわ。あなたが本気だというなら私も協力してあげる。もっとも上手く行けばの話だけど』
「フラッシュリンクス様の協力?」
『上手く行った時を期待していて。私からの話は以上よ。あなたもほかの参加者へあいさつをしなくちゃいけないんでしょう? いってきなさいな』
「は、はい。それでは失礼いたします」
お母さんは謎めいた言葉をかけてアストリート様を送り出した。
私がお母さんにどんな協力をするつもりなのか聞いても教えてくれない。
一体お母さんはなにをするつもりなんだろう?
悪いことじゃなければいいんだけど。
聖獣が悪巧みをすることはないと思いたいけどね。
「申し訳ないがそうなる。そして、次の婚約者を見つけるという事もまた難しい」
うーん、なんだか難しそうな話をしている。
どういう意味なんだろう。
『ケウギーヌ。アストリートの結婚相手を見つけることが難しいというのは?』
あ、私が悩んでいたことをお母さんが聞いてくれた。
私も一緒に聞かせてもらおう。
「はい。我が家は公爵家、つまりこの国の貴族の中ではもっとも家格が高い家のひとつとなります。そうなると、その家の娘も嫁ぎ先は家格が高くなければなりません。しかし、家格が高い家の子供ほど幼いうちに結婚相手を決めてしまうもの。いまのアストリートの年頃で釣り合う家の男子はいないのです」
『難しそうな問題ね』
「実際難しいのですよ。我が家の格が低いのでしたら第二夫人などでも済む話ですが、そうもいきません。また、幼い頃から結婚相手が決まっているところに家の力を使って割り込むなどすれば、我が家はいい笑いものになってしまいます。それでなくとも、貴族同士の結婚、特に高位貴族同士の結婚には国王の承認が必要なもの、どんな手段を使うにせよ我が家の面子は潰れてしまいます」
うーん、よくわからないけどアストリート様がお嫁に行くのは難しいってことなのかな?
貴族って結婚するだけでも大変なんだね。
「そうですか、私は貴族女子としてのお役目も果たせない身となっておりましたか」
「そう気を落とすな、アストリート。貴族家の夫人になるだけが道ではない。お前がやりたいことがあるのなら私も力を貸そう。なにかやりたいことはないか?」
「やりたいこと、やりたいこと……」
そうブツブツつぶやきながらアストリート様は考え込んでしまった。
いきなりやりたいことを聞かれても困るんじゃないかな?
だけど、アストリート様は急にひらめいたように顔を上げ、公爵様に自分の希望を告げた。
「お父様。私の希望が叶うのでしたら、私は医師の道を歩みたいです」
「なに? 医師の道だと?」
「はい。立派なお医者様になって病人や怪我人を助けたいのです。ダメでしょうか?」
「いや、ダメとはいわぬ。だが、医者の道は険しいぞ? 病気の患者を診る際に自分が病気にかかる可能性もある。なにより、患者すべてを救えるとも限らぬ。その覚悟がお前にはあるのか?」
「はい。いまはまだありませんが、立派な医師になった際には必ず」
アストリート様は本気みたい。
でも、公爵様は止めたいようなんだよね。
娘が病気に倒れるかもしれないような役目を担おうとしているんだから、反対するのも当然なんだろうか。
アストリート様からすれば応援して送り出してほしいのだろうけど、公爵様としては手放しで応援できない、そんな感じかな?
「わかった。だが、アストリートよ。医学の知識はどうする? お前はこの十年近くの時間を部屋の中で過ごしてきた身だ。文字の読み書きは十分に教えてきたが、医学の知識はどうだ?」
「はい。そちらも大丈夫です。自らの部屋に閉じこもっていた間に読み込んだ本の中には医学や薬草学の本もあります。なので……」
「なるほど。それが余計な自信につながっているのか」
「お父様?」
「いいか、アストリート。医学書や薬草学書に伝わっている知識がすべて正しいとは限らないのだ。実際、この春にお前の弟であるグラシアノが高熱で倒れていた原因も薬草学の本に書かれている内容の誤りから来る処方間違いだった。それを正していくのもこの先の医師の役目となる。お前にはその覚悟はあるか?」
「はい! それも必ずや成し遂げて見せます!」
うわぁ。
アストリート様は本当にお医者様になりたいんだ。
これには公爵様もタジタジだね。
公爵様は「明日まで結論を待ってくれ」と言ってこの場を去っていったし、この先どうするかについて打ち合わせをするんだろう。
アストリート様の希望が叶うといいな。
『アストリート、ちょっといいかしら』
「はい、フラッシュリンクス様。どのようなご用件でしょう?」
公爵様たちがいなくなったあと、お母さんがアストリート様を呼び向かい合った。
なにをしているのかな?
『……ふむ、魔力の質としては問題なさそうね』
「あの、フラッシュリンクス様?」
『ああ、ごめんなさい。こちらの話よ。ところで、医師を目指すという話、本気ね?』
「はい。私は医師を目指したいのです。私のように悲惨な目にあった人たちを少しでも救えるような医者に」
『さすがにあなたレベルの怪我の治療になると、現在の医療技術では不可能なんだけど。まあ、いいわ。あなたが本気だというなら私も協力してあげる。もっとも上手く行けばの話だけど』
「フラッシュリンクス様の協力?」
『上手く行った時を期待していて。私からの話は以上よ。あなたもほかの参加者へあいさつをしなくちゃいけないんでしょう? いってきなさいな』
「は、はい。それでは失礼いたします」
お母さんは謎めいた言葉をかけてアストリート様を送り出した。
私がお母さんにどんな協力をするつもりなのか聞いても教えてくれない。
一体お母さんはなにをするつもりなんだろう?
悪いことじゃなければいいんだけど。
聖獣が悪巧みをすることはないと思いたいけどね。
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