聖者のミルクが世界を癒す

さちこ。

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 眼前にはずらりと並んだ騎士たち。訓練の為に軽装の防具姿で、磨きあげられた素晴らしい体躯を誇示している。
 いやほんと、めちゃくちゃ良い体してるよなここの人たち。俺の数倍も厚みも重みもある筋肉は種族の違いもあるが、きっと日々の鍛練の結果身に付けたものだろう。俺も見習わないと。
「彰様、彼らにお声を聞かせてやってくださいませんか」
 隣に並ぶのは騎士団総長のノーマン。今日も渋い大人の貫禄を漂わせていて格好いい。
「騎士団の皆さんこんにちは、聖者の須田彰です。今日は皆さんの練習を見学させてもらいに来ました。よろしくお願いします」
 にっこりと笑顔を付け足して頭を下げる。顔を上げると、百人近い騎士が俺を食い入るように見つめていて少しビビってしまう。
「本日我らリハ国騎士団へ聖者様がいらっしゃった。いつも通りの訓練を見たいと彰様はお望みだ。浮き足立つ気持ちは分かるが気を引き締めて、騎士として恥じることのないよう行動しろ。良いな」

 その後ノーマンに促され、俺の腰ぐらいの高さの石垣に囲まれた大きな円形の場所へ連れられた。
「ここは攻撃魔法の訓練所です、幾重にも結界を掛けていますからこの石垣の外へ漏れることはありません。カイルの魔力がどれほど増えたのか試させましょう」
 俺の後ろに控えていた、いつもの軍服と違い他の騎士たちと同じ訓練用の軽装をしているカイルが、ひらりと石垣を越えて中に入っていく。すらりと伸びた長身に鍛え上げられた筋肉を纏うカイルだが、エドガーと違い切れのある細身の体をしている。と言っても俺の数倍も厚みがあるのだが。
「では、参ります」
 凛とした声でカイルが宣言する。短い詠唱を終えると構えた剣先に轟々と燃え盛る炎が現れた。短い裂帛の気合いを発し鋭く剣を降り下ろす。すると剣に纏わりついていた炎が離れ訓練所を嘗め尽くした。結界に当たっては弾かれ、内側でのたうつ炎が収まるまでの時間は長かった。

「・・・凄い」
 あまりの迫力に思わず感嘆の声が零れる。
「これは・・・。カイルの実力は団の中でも突出していたが、ここまでとは」
 ノーマンも声に驚きを滲ませてカイルを見ている。別の場所で訓練をしていた他の騎士たちも、カイルの魔法のあまりの凄まじさに手を止めて食い入るように見ていた。
 その後も次々と攻撃魔法を繰り出すカイル。数十種類の魔法を発動させてようやく、訓練所の石垣を越えて戻ってきた。
「久々に思う存分魔法を使えました。しかし彰様のミルクはとても素晴らしいですね、まだまだ魔力が溢れてきます。これなら何匹でも魔獣を相手にできそうです」
 楽しそうに笑うカイル。今までの生真面目な表情からは想像できなかった笑顔は、とてもカイルに似合っていた。
「凄かったよ、カイル!攻撃魔法を初めて見たけど、あんなに種類がたくさんあるんだね。炎とか氷とか雷とか組み合わせて使ってて凄く格好良い!!!」
 興奮のあまり語彙力が幼児レベルまで低下している俺は、年甲斐もなくひたすらに凄い凄いとはしゃいでいた。だってそうだろう、地球では映画や漫画の中でしかなかった架空の魔法が、ここでは本当に存在しているんだ。興奮しない方がおかしい。
「ありがとうございます、これも全て彰様をお守りするためのもの。更なる力を授けてくださった彰様にはいくら感謝してもしきれません」
 俺の手放しの賛辞に相好を崩すカイル。おお、これもまた珍しい表情を見られたもんだ。

 その後は一対一の剣を使った模擬戦だった。しかしカイルのあまりの強さに、一対一から一対五へと人数が増える。それでもカイルは圧倒的に強かった。
 素手での格闘も同じで、カイルより大きい騎士たちを組み敷き次々と降参させてゆく。
その強さは尋常ではない。ノーマンさんに聞くと元々強かったがここまでではなく、この人数を相手にさせようと思ったこともないとのことだった。
 さすがに俺もちょっと怖くなる。俺の精液の効果でここまで強くなるってどんなドーピング剤なんだよ。それに反動なんかはないんだろうか、強さに見あった分だけ切れた時にダメージが来るなんて。もしそうだったら俺はどうやってカイルに贖えばいいのだろう。
 そんな俺の心の内など知るよしもないカイルが最後の相手を組み伏せ、俺の元に戻ってきた。

「大丈夫?どこか体におかしな所はない?」
 真っ先に口をついて出たのはカイルを心配する言葉だ。
「ええ、なんとも。先ほどの攻撃魔法の時もそうですが、まだまだやれます」
 さすがに少しは疲れたのだろう額に汗をかきつつも、ケロリとしたカイルの様子に毒気が抜かれる。
「カイルの強さは知っていたが、彰様のミルクの効果がこれほどとは。前戦で魔獣と戦うものたちに彰様のミルクが行き渡れば、我が軍は負けることはないでしょう」
 ノーマンの台詞にギョッとする。行き渡るって、どれだけ精液出さなきゃいけないだよ。無理だ、絶対に無理。
「そ、そうだね」
 反射的に引き攣った笑みで答えてしまう。
「もちろん彰様のお体が最優先ですから、ご心配なさらぬよう。我ら騎士団、そうそう魔獣に負けるような鍛え方はしておりません。彰様は今はまだこの国に慣れることで精一杯でしょう、それなのに私を癒し、カイルを強化して下さった。昨日絞られたミルクも重傷者の元へと届けられております。彰様、おん身に宿るメア神の祝福に我ら騎士団全てのものを代表して感謝を」
 そう言うと傅いて俺の手を取り、その指先へ口付けをした。

 その日の残りはあっという間に過ぎた。次の日もその次の日もカイルは騎士団へ行き、飲んだ俺の精液の効果を試している。俺もすることがないので一緒に騎士団へお邪魔しているのだが、そこで見るものは全てが楽しく時間もあっという間に過ぎていく。
 四日目ともなるとやはり効果は薄まってきているのか、発する攻撃魔法も、剣や組手での格闘も初日から考えると威力は落ちている。それでも十分に強いが、終わった後の疲労が大きいようだった。
 いつ完全に精液の効果が切れるのか、その時カイルはどうなるのか、心の片隅にずっと不安は居座っていた。
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