10 / 81
第2章:華麗な舞踏会
10.
しおりを挟む
「アハハ! あなた、あれっぽっちのシードルで二日酔いになったの?!」
サブリナさんの笑い声で死にそうになりながら、私は司書室の机で潰れていた。
「あの、もう少し、声を、小さく……」
楽しそうに笑っているサブリナさんが、笑いを堪えながら私に告げる。
「それなら、いい本があるわよ?」
そういってガサゴソと司書室の隅から、一冊の写本を取り出した。
私の目の前に置かれた本に手を置きながら、サブリナさんが告げる。
「これはね、今のあなたみたいに二日酔いで苦しんだ魔導士が執筆した『ザ・二日酔いマニュアル』よ。
中には二日酔いから回復するための術式が、いくつも記されてるわ。
――まぁ私には、これを使ってあげることはできないんだけど」
「……なんで使えないんですか?
意地悪しないで、楽にしてくださいよ」
クスリと笑みをこぼしたシルビアさんが、私の横で小さく告げる。
「その魔導書にはね、『二日酔いになった人にしか使えない術式』が記されているの。
発動条件に、二日酔いが要求されるのよ。
だから、今この場で術式を使えるのは、ヴィルマ本人だけなの」
なんでそんな縛りを入れるかなぁ?!
私はフラフラになりながら防魔眼鏡をかけて写本を開き、頭痛と吐き気を我慢しながら文章を読んでいく。
そこには、『二日酔いになるなんて、自己管理がなってないからだ』等々、飲み過ぎた人間に対するお説教の羅列が記されていた。
「嫌がらせか!」
私は苛々して、余計な文章を読み飛ばしていき、魔導術式が記されているところだけを読んで術式を発動させた。
スゥっと音がするかのように引いて行く頭痛と吐き気に驚きながら、冷静になった私は術式の上に書いてある注意書きを読んでみる。
……『警告:この術式は一時間後、二日酔いが三倍の辛さで襲ってきます』。
「トラップかっ! なんで巧妙にトラップを仕掛けるのかな?!」
司書室に居たみんなが、楽しそうに笑っていた。
「ハハハ! やっぱり引っかかったな?
だがその写本には、間違いなく二日酔いを癒す術式も載っている。
ま、頑張って探すといい」
カールステンさんの軽妙な笑いも、今日はなんだか殺意が湧く!
なんてやってる場合じゃない。もうじき始業時間だ。その前に二日酔いを退治しないと。
私は写本に記載されている術式を精査していき、中ほどにある十七個目の術式で、ようやく目当ての『二日酔いが治る術式』に辿り着いた。
なんとかその術式を自分にかけて一息ついていると、周囲から拍手が湧いた。
「……え? なんで拍手?」
周囲を見ると、ディララさんもフランツさんたちも、笑顔で私に拍手を向けていた。
フランツさんが、爽やかな笑顔で私に告げる。
「最初のトラップに引っかかりながら、一時間以内に正解の術式に辿り着けた人は、たぶん初めてじゃないかな」
ファビアンさんも笑顔で告げる。
「やはり、読破する速度が普通じゃないな。
専門的な文章だろうが魔導術式だろうが、スイスイと読み進めてるように見える。
その驚異的な速読力が、君の源泉かもしれないね」
そうなのかなぁ? まぁ、読むのが早ければそれだけ多くの本を頭に詰め込めるのは確かだ。
ディララさんが両手を打ち鳴らして告げる。
「さぁさぁ、ヴィルマが心配だったのはわかるけど、もう始業時間よ。
全員、持ち場について頂戴」
各々が返事をして立ち上がる。
私はディララさんから指示を受け、今日はシルビアさんと一緒に行動することになった。
****
シルビアさんが書架に目を配りながら私に告げる。
「本のダメージの見方は、教えなくても大丈夫よね」
私は頷いて応える。
「ええ、どの程度傷んでいるのかはわかります。
ですが修復に割けるリソースを把握してないので、どの程度で修復に回すべきかの判断は付けられませんよ?」
シルビアさんが本を開いて確認しながら、クスリと笑った。
「そんなの簡単よ。あなたが自分で抱え込める範囲なら、抱え込んでしまえばいいの。
午後からはその修復に時間を当てて構わないわ。
だから午前中の内に、修復が必要な本を探し出して頂戴」
なるほどっ! 自分で見つけて自分で修復する!
これなら全部自分の管轄だから、把握しやすい!
つまり、第五図書館の時と全く同じだ。まぁあの時は、お金が足りなくて修繕止まりだったけれど。
「わかりました! それじゃあここの書架から向こうまで、午前中でチェックしていきますね!」
「えっ?! ちょっと待って?! 一緒に回るんじゃ――」
「一緒に回るより、手分けをした方が多くの本を救えますよ!
ノウハウはわかってますから、安心してください!」
そう言い残し、私はさっそく手近な書架の本を全速力でチェックし始めた。
****
まず、外から見てわかるほど、危険な状態の本がないかをチェック!
ついでに本のタイトルと著者名、所蔵位置も記憶!
書架五つ分の本を見終わったら、今度は中身をチェック!
本を傷めないように、かつ最速で中の記述に目を通していく。
ついでに書いてある内容も、頭に詰め込んでいく。
こうやって修復した方が良さそうな箇所をチェック!
書架五つ分の書籍の中身をチェックし終わったところで、頭の中でパズル開始!
今日の私の体調と書籍の傷み具合で綱引きをして、午後の間に修復が終わりそうな範囲に優先度のラインを引く!
それが終わると、≪浮遊≫の術式で空中に浮きあがる小さな浮遊型移動書架台に、目当ての本を詰め込んでいく。
私が手際よく書架から本を抜き取っていく後ろから、シルビアさんが不安気な声をかけてくる。
「ねぇ、ちょっと。そんな片っ端から抜き取って、元の場所に戻せるの?」
私は本を書架から取り出しながら応える。
「大丈夫ですよ。ここにある本は把握しました。
五百冊のうち、修復が必要なのは百五十三冊。
これなら今日中に修復が終わりますよ」
背後から、なんだか無言で呆れている空気が漂ってくる。
だけど私は振り向かずに、本だけを見つめて作業を進めて行った。
目当ての本を全て浮遊型移動書架台に詰め込むと、シルビアさんに振り向いて告げる。
「じゃあ、ちょっと修復室に行ってきますねー!」
私は浮遊型移動書架台を押しながら、修復室のドアを開けた。
****
修復対象の本を修復室に持ち込んだところで、お昼のチャイムが鳴った。
私はふぅと一息ついて、部屋で修復作業をしていたサブリナさんに告げる。
「私、宿舎に食べに戻りますね。
アイリスが朝ごはんをお昼に仕立て直してくれてるはずなので」
「そう? じゃあ今日は残念だけど、別行動ね。
明日は一緒に食堂に行ってみない?」
「んー、みなさんのお邪魔にならないなら、喜んで」
私はサブリナさんに手を振って、修復室を後にした。
宿舎に戻った私は、アイリスにぺこりと頭を下げた。
「朝は見苦しい所を見せてごめん!
それと、介抱してくれてありがとう!」
アイリスは冷めた目でふぅ、と小さく息をついた。
「別に、仕事ですから構いませんよ。
それより食事の支度はできていますから、すぐに持っていきます。
部屋で待っていてください」
私は言われた通り、部屋のソファに座りながら待っていた。
……このソファ、新品だけあってふかふかだなぁ。
ヴォルフガングさんに買ってもらった家具だけど、さすが貴族の審美眼。良いものを見極める目は確かだ。
すぐにアイリスがワゴンで昼食を持ってきて、私たちは一緒にお昼を食べていく。
根菜のスープに、レーズン入りのパン、それとローストした鶏肉なんて、手間がかかってる気がする。
「ねぇアイリス、これって作るの大変じゃない?」
「いえ別に? 料理は好きですし、大した手間じゃないですよ」
くっ! 作り慣れてる人のセリフ?!
私が一生言えないセリフの一つだな?!
そんな悔しい思いと美味しい思いをしながら、私の学院最初のお昼の時間は過ぎて行った。
****
午後になり、サブリナさんの隣の机で、私は持ち込んだ書架から本を取り出し、修復を開始していく。
紙を当てて補強し、掠れた文字はペンを入れて書き直す。
カビや汚れは≪浄化≫の術式で綺麗にし、本全体に≪保管≫の術式を付与して新しい汚れを予防する。
もちろんこれは、魔導書に記された魔術に干渉しないよう、慎重に施していく。
中にはページを差し替えた方が良いような物もあり、それは先日のように手早く差し替え作業を進めた。
書架の中身が半分ほど修復済み書籍タワーを作る頃、隣で修復作業を進めていたサブリナさんが疲れたように声をかけてくる。
「なんだか、私は自分に自信が無くなったわ……」
私は振り向かず、手も止めずに応える。
「どうしたんですか? 藪から棒に」
「だって……私が一ページ進めてる間に、あなた二冊も三冊も進めてるじゃない。
一体全体、なにがどうなってそんなスピードが出せるのよ」
「どうって……魔導術式を併用してるのは、見てわかりますよね?
サブリナさんだって、同じことをすれば同じ速度を出せますよ」
呆れたようなため息とともに、サブリナさんが応える。
「あなたね……魔導書に術式を施すのが、どれだけ難しいかわかって言ってるの?
一冊ごとに異なる中身、いくつもの術式に干渉しないように術式を施すのは、物凄い神経をすり減らすのよ?
それをするくらいなら、手作業で進めていく方が速く進むわ」
「そうなんですか? お父さんは私よりずっと手際よく修復作業をしてましたけど。
あれに比べたら、私の速度はまだまだ未熟ですよ?
それに、慣れちゃえば魔導書ごとに術式を調整するのも簡単に思えますよ。
要は場数です」
サブリナさんがため息をついて、自分の作業に戻ったようだった。
私も今度は黙々と作業を進めて行き、浮遊型移動書架台の中身が空っぽになる頃、閉館間際のベルが鳴らされた。
図書館の閉館――つまり、生徒たちが追い出される時間だ。
本の返却手続きがあるから、十五分前に一度ベルが鳴る。
もう一度ベルが鳴ると、生徒たちは容赦なく図書館から追い出されて行くのだけど、まぁそこまで食い下がって残る生徒は居ないらしい。
私は浮遊型移動書架台に修復済みの本を詰め込んで、本を元ある場所へ戻すために移動した。
サブリナさんの笑い声で死にそうになりながら、私は司書室の机で潰れていた。
「あの、もう少し、声を、小さく……」
楽しそうに笑っているサブリナさんが、笑いを堪えながら私に告げる。
「それなら、いい本があるわよ?」
そういってガサゴソと司書室の隅から、一冊の写本を取り出した。
私の目の前に置かれた本に手を置きながら、サブリナさんが告げる。
「これはね、今のあなたみたいに二日酔いで苦しんだ魔導士が執筆した『ザ・二日酔いマニュアル』よ。
中には二日酔いから回復するための術式が、いくつも記されてるわ。
――まぁ私には、これを使ってあげることはできないんだけど」
「……なんで使えないんですか?
意地悪しないで、楽にしてくださいよ」
クスリと笑みをこぼしたシルビアさんが、私の横で小さく告げる。
「その魔導書にはね、『二日酔いになった人にしか使えない術式』が記されているの。
発動条件に、二日酔いが要求されるのよ。
だから、今この場で術式を使えるのは、ヴィルマ本人だけなの」
なんでそんな縛りを入れるかなぁ?!
私はフラフラになりながら防魔眼鏡をかけて写本を開き、頭痛と吐き気を我慢しながら文章を読んでいく。
そこには、『二日酔いになるなんて、自己管理がなってないからだ』等々、飲み過ぎた人間に対するお説教の羅列が記されていた。
「嫌がらせか!」
私は苛々して、余計な文章を読み飛ばしていき、魔導術式が記されているところだけを読んで術式を発動させた。
スゥっと音がするかのように引いて行く頭痛と吐き気に驚きながら、冷静になった私は術式の上に書いてある注意書きを読んでみる。
……『警告:この術式は一時間後、二日酔いが三倍の辛さで襲ってきます』。
「トラップかっ! なんで巧妙にトラップを仕掛けるのかな?!」
司書室に居たみんなが、楽しそうに笑っていた。
「ハハハ! やっぱり引っかかったな?
だがその写本には、間違いなく二日酔いを癒す術式も載っている。
ま、頑張って探すといい」
カールステンさんの軽妙な笑いも、今日はなんだか殺意が湧く!
なんてやってる場合じゃない。もうじき始業時間だ。その前に二日酔いを退治しないと。
私は写本に記載されている術式を精査していき、中ほどにある十七個目の術式で、ようやく目当ての『二日酔いが治る術式』に辿り着いた。
なんとかその術式を自分にかけて一息ついていると、周囲から拍手が湧いた。
「……え? なんで拍手?」
周囲を見ると、ディララさんもフランツさんたちも、笑顔で私に拍手を向けていた。
フランツさんが、爽やかな笑顔で私に告げる。
「最初のトラップに引っかかりながら、一時間以内に正解の術式に辿り着けた人は、たぶん初めてじゃないかな」
ファビアンさんも笑顔で告げる。
「やはり、読破する速度が普通じゃないな。
専門的な文章だろうが魔導術式だろうが、スイスイと読み進めてるように見える。
その驚異的な速読力が、君の源泉かもしれないね」
そうなのかなぁ? まぁ、読むのが早ければそれだけ多くの本を頭に詰め込めるのは確かだ。
ディララさんが両手を打ち鳴らして告げる。
「さぁさぁ、ヴィルマが心配だったのはわかるけど、もう始業時間よ。
全員、持ち場について頂戴」
各々が返事をして立ち上がる。
私はディララさんから指示を受け、今日はシルビアさんと一緒に行動することになった。
****
シルビアさんが書架に目を配りながら私に告げる。
「本のダメージの見方は、教えなくても大丈夫よね」
私は頷いて応える。
「ええ、どの程度傷んでいるのかはわかります。
ですが修復に割けるリソースを把握してないので、どの程度で修復に回すべきかの判断は付けられませんよ?」
シルビアさんが本を開いて確認しながら、クスリと笑った。
「そんなの簡単よ。あなたが自分で抱え込める範囲なら、抱え込んでしまえばいいの。
午後からはその修復に時間を当てて構わないわ。
だから午前中の内に、修復が必要な本を探し出して頂戴」
なるほどっ! 自分で見つけて自分で修復する!
これなら全部自分の管轄だから、把握しやすい!
つまり、第五図書館の時と全く同じだ。まぁあの時は、お金が足りなくて修繕止まりだったけれど。
「わかりました! それじゃあここの書架から向こうまで、午前中でチェックしていきますね!」
「えっ?! ちょっと待って?! 一緒に回るんじゃ――」
「一緒に回るより、手分けをした方が多くの本を救えますよ!
ノウハウはわかってますから、安心してください!」
そう言い残し、私はさっそく手近な書架の本を全速力でチェックし始めた。
****
まず、外から見てわかるほど、危険な状態の本がないかをチェック!
ついでに本のタイトルと著者名、所蔵位置も記憶!
書架五つ分の本を見終わったら、今度は中身をチェック!
本を傷めないように、かつ最速で中の記述に目を通していく。
ついでに書いてある内容も、頭に詰め込んでいく。
こうやって修復した方が良さそうな箇所をチェック!
書架五つ分の書籍の中身をチェックし終わったところで、頭の中でパズル開始!
今日の私の体調と書籍の傷み具合で綱引きをして、午後の間に修復が終わりそうな範囲に優先度のラインを引く!
それが終わると、≪浮遊≫の術式で空中に浮きあがる小さな浮遊型移動書架台に、目当ての本を詰め込んでいく。
私が手際よく書架から本を抜き取っていく後ろから、シルビアさんが不安気な声をかけてくる。
「ねぇ、ちょっと。そんな片っ端から抜き取って、元の場所に戻せるの?」
私は本を書架から取り出しながら応える。
「大丈夫ですよ。ここにある本は把握しました。
五百冊のうち、修復が必要なのは百五十三冊。
これなら今日中に修復が終わりますよ」
背後から、なんだか無言で呆れている空気が漂ってくる。
だけど私は振り向かずに、本だけを見つめて作業を進めて行った。
目当ての本を全て浮遊型移動書架台に詰め込むと、シルビアさんに振り向いて告げる。
「じゃあ、ちょっと修復室に行ってきますねー!」
私は浮遊型移動書架台を押しながら、修復室のドアを開けた。
****
修復対象の本を修復室に持ち込んだところで、お昼のチャイムが鳴った。
私はふぅと一息ついて、部屋で修復作業をしていたサブリナさんに告げる。
「私、宿舎に食べに戻りますね。
アイリスが朝ごはんをお昼に仕立て直してくれてるはずなので」
「そう? じゃあ今日は残念だけど、別行動ね。
明日は一緒に食堂に行ってみない?」
「んー、みなさんのお邪魔にならないなら、喜んで」
私はサブリナさんに手を振って、修復室を後にした。
宿舎に戻った私は、アイリスにぺこりと頭を下げた。
「朝は見苦しい所を見せてごめん!
それと、介抱してくれてありがとう!」
アイリスは冷めた目でふぅ、と小さく息をついた。
「別に、仕事ですから構いませんよ。
それより食事の支度はできていますから、すぐに持っていきます。
部屋で待っていてください」
私は言われた通り、部屋のソファに座りながら待っていた。
……このソファ、新品だけあってふかふかだなぁ。
ヴォルフガングさんに買ってもらった家具だけど、さすが貴族の審美眼。良いものを見極める目は確かだ。
すぐにアイリスがワゴンで昼食を持ってきて、私たちは一緒にお昼を食べていく。
根菜のスープに、レーズン入りのパン、それとローストした鶏肉なんて、手間がかかってる気がする。
「ねぇアイリス、これって作るの大変じゃない?」
「いえ別に? 料理は好きですし、大した手間じゃないですよ」
くっ! 作り慣れてる人のセリフ?!
私が一生言えないセリフの一つだな?!
そんな悔しい思いと美味しい思いをしながら、私の学院最初のお昼の時間は過ぎて行った。
****
午後になり、サブリナさんの隣の机で、私は持ち込んだ書架から本を取り出し、修復を開始していく。
紙を当てて補強し、掠れた文字はペンを入れて書き直す。
カビや汚れは≪浄化≫の術式で綺麗にし、本全体に≪保管≫の術式を付与して新しい汚れを予防する。
もちろんこれは、魔導書に記された魔術に干渉しないよう、慎重に施していく。
中にはページを差し替えた方が良いような物もあり、それは先日のように手早く差し替え作業を進めた。
書架の中身が半分ほど修復済み書籍タワーを作る頃、隣で修復作業を進めていたサブリナさんが疲れたように声をかけてくる。
「なんだか、私は自分に自信が無くなったわ……」
私は振り向かず、手も止めずに応える。
「どうしたんですか? 藪から棒に」
「だって……私が一ページ進めてる間に、あなた二冊も三冊も進めてるじゃない。
一体全体、なにがどうなってそんなスピードが出せるのよ」
「どうって……魔導術式を併用してるのは、見てわかりますよね?
サブリナさんだって、同じことをすれば同じ速度を出せますよ」
呆れたようなため息とともに、サブリナさんが応える。
「あなたね……魔導書に術式を施すのが、どれだけ難しいかわかって言ってるの?
一冊ごとに異なる中身、いくつもの術式に干渉しないように術式を施すのは、物凄い神経をすり減らすのよ?
それをするくらいなら、手作業で進めていく方が速く進むわ」
「そうなんですか? お父さんは私よりずっと手際よく修復作業をしてましたけど。
あれに比べたら、私の速度はまだまだ未熟ですよ?
それに、慣れちゃえば魔導書ごとに術式を調整するのも簡単に思えますよ。
要は場数です」
サブリナさんがため息をついて、自分の作業に戻ったようだった。
私も今度は黙々と作業を進めて行き、浮遊型移動書架台の中身が空っぽになる頃、閉館間際のベルが鳴らされた。
図書館の閉館――つまり、生徒たちが追い出される時間だ。
本の返却手続きがあるから、十五分前に一度ベルが鳴る。
もう一度ベルが鳴ると、生徒たちは容赦なく図書館から追い出されて行くのだけど、まぁそこまで食い下がって残る生徒は居ないらしい。
私は浮遊型移動書架台に修復済みの本を詰め込んで、本を元ある場所へ戻すために移動した。
560
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる