司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第2章:華麗な舞踏会

10.

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「アハハ! あなた、あれっぽっちのシードルで二日酔いになったの?!」

 サブリナさんの笑い声で死にそうになりながら、私は司書室の机で潰れていた。

「あの、もう少し、声を、小さく……」

 楽しそうに笑っているサブリナさんが、笑いを堪えながら私に告げる。

「それなら、いい本があるわよ?」

 そういってガサゴソと司書室の隅から、一冊の写本を取り出した。

 私の目の前に置かれた本に手を置きながら、サブリナさんが告げる。

「これはね、今のあなたみたいに二日酔いで苦しんだ魔導士が執筆した『ザ・二日酔いマニュアル』よ。
 中には二日酔いから回復するための術式が、いくつも記されてるわ。
 ――まぁ私には、これを使ってあげることはできないんだけど」

「……なんで使えないんですか?
 意地悪しないで、楽にしてくださいよ」

 クスリと笑みをこぼしたシルビアさんが、私の横で小さく告げる。

「その魔導書にはね、『二日酔いになった人にしか使えない術式』が記されているの。
 発動条件に、二日酔いが要求されるのよ。
 だから、今この場で術式を使えるのは、ヴィルマ本人だけなの」

 なんでそんな縛りを入れるかなぁ?!

 私はフラフラになりながら防魔眼鏡ヴェールをかけて写本を開き、頭痛と吐き気を我慢しながら文章を読んでいく。

 そこには、『二日酔いになるなんて、自己管理がなってないからだ』等々、飲み過ぎた人間に対するお説教の羅列が記されていた。

「嫌がらせか!」

 私は苛々して、余計な文章を読み飛ばしていき、魔導術式が記されているところだけを読んで術式を発動させた。

 スゥっと音がするかのように引いて行く頭痛と吐き気に驚きながら、冷静になった私は術式の上に書いてある注意書きを読んでみる。

 ……『警告:この術式は一時間後、二日酔いが三倍の辛さで襲ってきます』。

「トラップかっ! なんで巧妙にトラップを仕掛けるのかな?!」

 司書室に居たみんなが、楽しそうに笑っていた。

「ハハハ! やっぱり引っかかったな?
 だがその写本には、間違いなく二日酔いを癒す術式も載っている。
 ま、頑張って探すといい」

 カールステンさんの軽妙な笑いも、今日はなんだか殺意が湧く!

 なんてやってる場合じゃない。もうじき始業時間だ。その前に二日酔いを退治しないと。

 私は写本に記載されている術式を精査していき、中ほどにある十七個目の術式で、ようやく目当ての『二日酔いが治る術式』に辿り着いた。

 なんとかその術式を自分にかけて一息ついていると、周囲から拍手が湧いた。

「……え? なんで拍手?」

 周囲を見ると、ディララさんもフランツさんたちも、笑顔で私に拍手を向けていた。

 フランツさんが、爽やかな笑顔で私に告げる。

「最初のトラップに引っかかりながら、一時間以内に正解の術式に辿り着けた人は、たぶん初めてじゃないかな」

 ファビアンさんも笑顔で告げる。

「やはり、読破する速度が普通じゃないな。
 専門的な文章だろうが魔導術式だろうが、スイスイと読み進めてるように見える。
 その驚異的な速読力が、君の源泉かもしれないね」

 そうなのかなぁ? まぁ、読むのが早ければそれだけ多くの本を頭に詰め込めるのは確かだ。

 ディララさんが両手を打ち鳴らして告げる。

「さぁさぁ、ヴィルマが心配だったのはわかるけど、もう始業時間よ。
 全員、持ち場について頂戴」

 各々が返事をして立ち上がる。

 私はディララさんから指示を受け、今日はシルビアさんと一緒に行動することになった。




****

 シルビアさんが書架に目を配りながら私に告げる。

「本のダメージの見方は、教えなくても大丈夫よね」

 私は頷いて応える。

「ええ、どの程度傷んでいるのかはわかります。
 ですが修復に割けるリソースを把握してないので、どの程度で修復に回すべきかの判断は付けられませんよ?」

 シルビアさんが本を開いて確認しながら、クスリと笑った。

「そんなの簡単よ。あなたが自分で抱え込める範囲なら、抱え込んでしまえばいいの。
 午後からはその修復に時間を当てて構わないわ。
 だから午前中の内に、修復が必要な本を探し出して頂戴」

 なるほどっ! 自分で見つけて自分で修復する!

 これなら全部自分の管轄だから、把握しやすい!

 つまり、第五図書館の時と全く同じだ。まぁあの時は、お金が足りなくて修繕止まりだったけれど。

「わかりました! それじゃあここの書架から向こうまで、午前中でチェックしていきますね!」

「えっ?! ちょっと待って?! 一緒に回るんじゃ――」

「一緒に回るより、手分けをした方が多くの本を救えますよ!
 ノウハウはわかってますから、安心してください!」

 そう言い残し、私はさっそく手近な書架の本を全速力でチェックし始めた。




****

 まず、外から見てわかるほど、危険な状態の本がないかをチェック!

 ついでに本のタイトルと著者名、所蔵位置も記憶!

 書架五つ分の本を見終わったら、今度は中身をチェック!

 本を傷めないように、かつ最速で中の記述に目を通していく。

 ついでに書いてある内容も、頭に詰め込んでいく。

 こうやって修復した方が良さそうな箇所をチェック!

 書架五つ分の書籍の中身をチェックし終わったところで、頭の中でパズル開始!

 今日の私の体調と書籍の傷み具合で綱引きをして、午後の間に修復が終わりそうな範囲に優先度のラインを引く!

 それが終わると、≪浮遊≫の術式で空中に浮きあがる小さな浮遊型移動書架台フロートに、目当ての本を詰め込んでいく。

 私が手際よく書架から本を抜き取っていく後ろから、シルビアさんが不安気な声をかけてくる。

「ねぇ、ちょっと。そんな片っ端から抜き取って、元の場所に戻せるの?」

 私は本を書架から取り出しながら応える。

「大丈夫ですよ。ここにある本は把握しました。
 五百冊のうち、修復が必要なのは百五十三冊。
 これなら今日中に修復が終わりますよ」

 背後から、なんだか無言で呆れている空気が漂ってくる。

 だけど私は振り向かずに、本だけを見つめて作業を進めて行った。

 目当ての本を全て浮遊型移動書架台フロートに詰め込むと、シルビアさんに振り向いて告げる。

「じゃあ、ちょっと修復室に行ってきますねー!」

 私は浮遊型移動書架台フロートを押しながら、修復室のドアを開けた。




****

 修復対象の本を修復室に持ち込んだところで、お昼のチャイムが鳴った。

 私はふぅと一息ついて、部屋で修復作業をしていたサブリナさんに告げる。

「私、宿舎に食べに戻りますね。
 アイリスが朝ごはんをお昼に仕立て直してくれてるはずなので」

「そう? じゃあ今日は残念だけど、別行動ね。
 明日は一緒に食堂に行ってみない?」

「んー、みなさんのお邪魔にならないなら、喜んで」

 私はサブリナさんに手を振って、修復室を後にした。


 宿舎に戻った私は、アイリスにぺこりと頭を下げた。

「朝は見苦しい所を見せてごめん!
 それと、介抱してくれてありがとう!」

 アイリスは冷めた目でふぅ、と小さく息をついた。

「別に、仕事ですから構いませんよ。
 それより食事の支度はできていますから、すぐに持っていきます。
 部屋で待っていてください」

 私は言われた通り、部屋のソファに座りながら待っていた。

 ……このソファ、新品だけあってふかふかだなぁ。

 ヴォルフガングさんに買ってもらった家具だけど、さすが貴族の審美眼。良いものを見極める目は確かだ。


 すぐにアイリスがワゴンで昼食を持ってきて、私たちは一緒にお昼を食べていく。

 根菜のスープに、レーズン入りのパン、それとローストした鶏肉なんて、手間がかかってる気がする。

「ねぇアイリス、これって作るの大変じゃない?」

「いえ別に? 料理は好きですし、大した手間じゃないですよ」

 くっ! 作り慣れてる人のセリフ?!

 私が一生言えないセリフの一つだな?!

 そんな悔しい思いと美味しい思いをしながら、私の学院最初のお昼の時間は過ぎて行った。




****

 午後になり、サブリナさんの隣の机で、私は持ち込んだ書架から本を取り出し、修復を開始していく。

 紙を当てて補強し、掠れた文字はペンを入れて書き直す。

 カビや汚れは≪浄化≫の術式で綺麗にし、本全体に≪保管≫の術式を付与して新しい汚れを予防する。

 もちろんこれは、魔導書に記された魔術に干渉しないよう、慎重に施していく。

 中にはページを差し替えた方が良いような物もあり、それは先日のように手早く差し替え作業を進めた。

 書架の中身が半分ほど修復済み書籍タワーを作る頃、隣で修復作業を進めていたサブリナさんが疲れたように声をかけてくる。

「なんだか、私は自分に自信が無くなったわ……」

 私は振り向かず、手も止めずに応える。

「どうしたんですか? 藪から棒に」

「だって……私が一ページ進めてる間に、あなた二冊も三冊も進めてるじゃない。
 一体全体、なにがどうなってそんなスピードが出せるのよ」

「どうって……魔導術式を併用してるのは、見てわかりますよね?
 サブリナさんだって、同じことをすれば同じ速度を出せますよ」

 呆れたようなため息とともに、サブリナさんが応える。

「あなたね……魔導書に術式を施すのが、どれだけ難しいかわかって言ってるの?
 一冊ごとに異なる中身、いくつもの術式に干渉しないように術式を施すのは、物凄い神経をすり減らすのよ?
 それをするくらいなら、手作業で進めていく方が速く進むわ」

「そうなんですか? お父さんは私よりずっと手際よく修復作業をしてましたけど。
 あれに比べたら、私の速度はまだまだ未熟ですよ?
 それに、慣れちゃえば魔導書ごとに術式を調整するのも簡単に思えますよ。
 要は場数です」

 サブリナさんがため息をついて、自分の作業に戻ったようだった。

 私も今度は黙々と作業を進めて行き、浮遊型移動書架台フロートの中身が空っぽになる頃、閉館間際のベルが鳴らされた。

 図書館の閉館――つまり、生徒たちが追い出される時間だ。

 本の返却手続きがあるから、十五分前に一度ベルが鳴る。

 もう一度ベルが鳴ると、生徒たちは容赦なく図書館から追い出されて行くのだけど、まぁそこまで食い下がって残る生徒は居ないらしい。

 私は浮遊型移動書架台フロートに修復済みの本を詰め込んで、本を元ある場所へ戻すために移動した。
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