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第3章:神霊魔術
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お昼になり、みんなが司書室に戻ってくる。
一足早く戻っていた私は、ソファで真っ白に燃え尽きていた。
……結局、自力じゃ針の穴に糸を通せなかった。
サブリナさんが私に告げる。
「どうしたの? 疲れ切っちゃって」
私は顔を上げて応える。
「いや、それがですね――」
私は司書室に居たみんなに大笑いされていた。
「あれだけ精密に写本できるのに、針の穴に糸を通せないって……」
「サブリナさん? 笑いたければ素直に笑っていいですよ?」
私は必死に笑いを堪えていたサブリナさんに、つっけんどんに言い放った。
「……アハハハハ! なんであなたはそう極端なの! どうしてそれであんな綺麗な字が書けるのよ! 本当にこの子ったらしょうがないんだから!」
一度笑い始めたら止まらない。
笑いの堤防は決壊し、サブリナさんはお腹を抱えて転げまわっていた。
「サブリナさん、ご飯行きますよ!」
私は笑い転げるサブリナさんを何とか起こし、背中を押してみんなと食堂に向かった。
****
昼食を食べながら、私は暇潰しについて相談していた。
「どうしたらいいんでしょう? このままだと退屈で死んでしまいそうです」
みんなも頭を悩ませているようだった。
ファビアンさんが顎に手を当てて考えこみながら告げる。
「ヴィルマの場合、読書があっという間に終わってしまうからなぁ。
読んでいる時間より、本を取りに行って戻ってくる時間の方が長くなってしまいそうだ」
シルビアさんもうつむき気味に考えこんでいた。
「魔導の研究をするのも悪くないけれど、あなたは魔導士を目指してはいないものね」
私はため息をついて告げる。
「そうなんですよー。でも『神霊魔術』の写本で、魔導の経験が生かせることがわかりました。
だからヴォルフガングさんから実践経験を積む練習はさせてもらってますけど。
だけどたぶん図書館の中も、勝手に術式を使うのはルール違反なんですよね?」
カールステンさんが苦笑を浮かべて頷いた。
「公的な設備はほとんどがそうだと思って欲しい。
だけど無害な魔導――例えば魔力操作くらいなら、見逃すことはできると思う。
何かそんな鍛錬法が載っている本を探して、実践してみるぐらいは有りじゃないかな」
サブリナさんが困ったように笑った。
「あなたも大変よね。能力が高すぎるのも困りものなんて」
フランツさんが思案しながら告げる。
「たとえばだよ? 生徒のために魔導書を編纂してみるというのも悪くないんじゃないかな。
いくつもの魔導書に散らばっている知識を、一冊の魔導書にまとめてしまうんだ。
『詳しくはこちらの文献を参照』とかにしてね。
その分野の入門的な、とっかかりとなる本を執筆するのは、それなりに時間を潰せるんじゃないかな」
私は眉をひそめて応える。
「魔導書を読めば丸暗記できますけど、中に書いてある理論を理解してるわけじゃないですよ?
そんな私が初心者用の魔導書を編纂するなんて、まず無理だと思いますけど……」
「そうかぁ。実用書ならいけるのかなぁ。うーん、難しいなぁ」
お昼休みの間、みんなで頭を悩ませてくれたけど、それ以上のアイデアが出ることはなかった。
****
午後になり、結局私は魔力鍛錬法を試してみることにして、実用書を集めて行った。
浮遊型移動書架台に実用書を詰め込んでカウンターに持ち込み、ゆっくりと読破していく。
……ほとんど読まれた形跡がない。
この学院の生徒たちにとって、このレベルの実用書は需要がないのかな。
十冊目を読み終えた頃、カウンターの向こうから声をかけられた。
「すいません、探している本があるんですが」
男性の声に顔を上げると、金髪碧眼の男子生徒がカウンターの向こうで戸惑うように立っていた。
私は営業スマイルで受け答えをする。
「はい、どんな本をお探しですか?」
「心霊魔導のジャンルで、降霊術を扱う本なんですが、著者もタイトルも分からなくて……」
「うーん、それだけだと数が多すぎて絞り込めないですね。
何か内容のヒントとかありませんか?」
「内容……動物の魂を降霊術で自分に宿して、戦闘技術に応用する、という本だったと思うんですが、それ以上は思い出せないんです」
私は「ふむ」、と記憶を漁りながら考える。
「それならサーシャ・ハートル著の『実践降霊戦闘技法』かもしれませんね。
降霊術を戦闘技法に応用する魔導書を執筆してるのは、この著者だけですし。
付いてきてもらっても良いですか?」
男子生徒が頷いたのを見て、私はカウンターから出て真っ直ぐ目的の魔導書が置いてある書架へ向かった。
書架から魔導書を抜き取り、該当ページを開いて男子生徒に渡しながら告げる。
「ここに戦闘技術に応用する記述があります。確かめてください」
男子生徒は戸惑いながら魔導書を受け取り、防魔眼鏡をかけて中身を読み始めた。
「……これです! 凄いですね。なんで迷いなくページを開けたんですか?」
私はにっこり微笑んで応える。
「司書なので」
この魔導書は先週、中身をチェックしたばかりの本だ。
偶然、運よくそんな魔導書を引き当てたに過ぎないけど、まぁラッキーということで済ませてしまおう。
「目録も見ないで、真っ直ぐここまで歩いてきましたよね。本の位置を全て覚えてるんですか?」
「んー、私は先週ここに来たばかりなので、全てではないですね」
男子生徒がまごつくようなそぶりを見せ、私から視線を外して口を開く。
「あの……あなた、まだ若いですよね。同年代くらいじゃないんですか? それなのに司書なんですか?」
「司書ですが、何か?」
男子生徒が慌てたように私を見た。
「ああいえ! 文句がある訳じゃなく! ……その、なぜあなたのような人が、生徒ではなく司書なのか、不思議で」
私はニコニコと営業スマイルで受け答えしていく。
「私は平民で魔力は五等級ですから。入学資格がないんですよ」
「……でも、魔導書の写本はできるんですよね?」
「できますよ? 写本をご依頼ですか?」
「いえ! そうではないんですが……魔導書の写本には、高い魔力が必要だと習ったので。
五等級で魔導書の写本なんて、不可能じゃないんですか?」
「でも実際に写本できますから、可能なんじゃないですか?
――それより、その本を借りるなら手続きをするので、カウンターに戻りません?」
「あ、はい。そうですね」
男子生徒が頷いたのを見て、私はカウンターに真っ直ぐ戻っていった。
****
男子生徒は貸出記録に名前を書いている間も、なぜかちらちらと私の顔を見てきた。
そっとカウンターの下で手鏡を使って顔を確認する――汚れてる訳じゃない、よなぁ?
男子生徒は記帳を済ませると「ありがとうございました」と、私の顔を見て告げて去っていった。
……なんだったんだ? なんで私の顔を見てたんだ?
時計を見ると、午後の最初の休み時間だ。
そういえば『生徒たちは休み時間に訪れることがほとんどだ』とは教えられていた。
その時間はなるだけカウンターに居るようにしておこう。
でもなんで、私が写本できることを知ってるんだろう?
知らない顔だけど、舞踏会の参加者だったのかなぁ?
……まぁいいや。鍛錬法の読書を続けるか。
私は十一冊目の本を取り出し、ページを開いた。
一足早く戻っていた私は、ソファで真っ白に燃え尽きていた。
……結局、自力じゃ針の穴に糸を通せなかった。
サブリナさんが私に告げる。
「どうしたの? 疲れ切っちゃって」
私は顔を上げて応える。
「いや、それがですね――」
私は司書室に居たみんなに大笑いされていた。
「あれだけ精密に写本できるのに、針の穴に糸を通せないって……」
「サブリナさん? 笑いたければ素直に笑っていいですよ?」
私は必死に笑いを堪えていたサブリナさんに、つっけんどんに言い放った。
「……アハハハハ! なんであなたはそう極端なの! どうしてそれであんな綺麗な字が書けるのよ! 本当にこの子ったらしょうがないんだから!」
一度笑い始めたら止まらない。
笑いの堤防は決壊し、サブリナさんはお腹を抱えて転げまわっていた。
「サブリナさん、ご飯行きますよ!」
私は笑い転げるサブリナさんを何とか起こし、背中を押してみんなと食堂に向かった。
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昼食を食べながら、私は暇潰しについて相談していた。
「どうしたらいいんでしょう? このままだと退屈で死んでしまいそうです」
みんなも頭を悩ませているようだった。
ファビアンさんが顎に手を当てて考えこみながら告げる。
「ヴィルマの場合、読書があっという間に終わってしまうからなぁ。
読んでいる時間より、本を取りに行って戻ってくる時間の方が長くなってしまいそうだ」
シルビアさんもうつむき気味に考えこんでいた。
「魔導の研究をするのも悪くないけれど、あなたは魔導士を目指してはいないものね」
私はため息をついて告げる。
「そうなんですよー。でも『神霊魔術』の写本で、魔導の経験が生かせることがわかりました。
だからヴォルフガングさんから実践経験を積む練習はさせてもらってますけど。
だけどたぶん図書館の中も、勝手に術式を使うのはルール違反なんですよね?」
カールステンさんが苦笑を浮かべて頷いた。
「公的な設備はほとんどがそうだと思って欲しい。
だけど無害な魔導――例えば魔力操作くらいなら、見逃すことはできると思う。
何かそんな鍛錬法が載っている本を探して、実践してみるぐらいは有りじゃないかな」
サブリナさんが困ったように笑った。
「あなたも大変よね。能力が高すぎるのも困りものなんて」
フランツさんが思案しながら告げる。
「たとえばだよ? 生徒のために魔導書を編纂してみるというのも悪くないんじゃないかな。
いくつもの魔導書に散らばっている知識を、一冊の魔導書にまとめてしまうんだ。
『詳しくはこちらの文献を参照』とかにしてね。
その分野の入門的な、とっかかりとなる本を執筆するのは、それなりに時間を潰せるんじゃないかな」
私は眉をひそめて応える。
「魔導書を読めば丸暗記できますけど、中に書いてある理論を理解してるわけじゃないですよ?
そんな私が初心者用の魔導書を編纂するなんて、まず無理だと思いますけど……」
「そうかぁ。実用書ならいけるのかなぁ。うーん、難しいなぁ」
お昼休みの間、みんなで頭を悩ませてくれたけど、それ以上のアイデアが出ることはなかった。
****
午後になり、結局私は魔力鍛錬法を試してみることにして、実用書を集めて行った。
浮遊型移動書架台に実用書を詰め込んでカウンターに持ち込み、ゆっくりと読破していく。
……ほとんど読まれた形跡がない。
この学院の生徒たちにとって、このレベルの実用書は需要がないのかな。
十冊目を読み終えた頃、カウンターの向こうから声をかけられた。
「すいません、探している本があるんですが」
男性の声に顔を上げると、金髪碧眼の男子生徒がカウンターの向こうで戸惑うように立っていた。
私は営業スマイルで受け答えをする。
「はい、どんな本をお探しですか?」
「心霊魔導のジャンルで、降霊術を扱う本なんですが、著者もタイトルも分からなくて……」
「うーん、それだけだと数が多すぎて絞り込めないですね。
何か内容のヒントとかありませんか?」
「内容……動物の魂を降霊術で自分に宿して、戦闘技術に応用する、という本だったと思うんですが、それ以上は思い出せないんです」
私は「ふむ」、と記憶を漁りながら考える。
「それならサーシャ・ハートル著の『実践降霊戦闘技法』かもしれませんね。
降霊術を戦闘技法に応用する魔導書を執筆してるのは、この著者だけですし。
付いてきてもらっても良いですか?」
男子生徒が頷いたのを見て、私はカウンターから出て真っ直ぐ目的の魔導書が置いてある書架へ向かった。
書架から魔導書を抜き取り、該当ページを開いて男子生徒に渡しながら告げる。
「ここに戦闘技術に応用する記述があります。確かめてください」
男子生徒は戸惑いながら魔導書を受け取り、防魔眼鏡をかけて中身を読み始めた。
「……これです! 凄いですね。なんで迷いなくページを開けたんですか?」
私はにっこり微笑んで応える。
「司書なので」
この魔導書は先週、中身をチェックしたばかりの本だ。
偶然、運よくそんな魔導書を引き当てたに過ぎないけど、まぁラッキーということで済ませてしまおう。
「目録も見ないで、真っ直ぐここまで歩いてきましたよね。本の位置を全て覚えてるんですか?」
「んー、私は先週ここに来たばかりなので、全てではないですね」
男子生徒がまごつくようなそぶりを見せ、私から視線を外して口を開く。
「あの……あなた、まだ若いですよね。同年代くらいじゃないんですか? それなのに司書なんですか?」
「司書ですが、何か?」
男子生徒が慌てたように私を見た。
「ああいえ! 文句がある訳じゃなく! ……その、なぜあなたのような人が、生徒ではなく司書なのか、不思議で」
私はニコニコと営業スマイルで受け答えしていく。
「私は平民で魔力は五等級ですから。入学資格がないんですよ」
「……でも、魔導書の写本はできるんですよね?」
「できますよ? 写本をご依頼ですか?」
「いえ! そうではないんですが……魔導書の写本には、高い魔力が必要だと習ったので。
五等級で魔導書の写本なんて、不可能じゃないんですか?」
「でも実際に写本できますから、可能なんじゃないですか?
――それより、その本を借りるなら手続きをするので、カウンターに戻りません?」
「あ、はい。そうですね」
男子生徒が頷いたのを見て、私はカウンターに真っ直ぐ戻っていった。
****
男子生徒は貸出記録に名前を書いている間も、なぜかちらちらと私の顔を見てきた。
そっとカウンターの下で手鏡を使って顔を確認する――汚れてる訳じゃない、よなぁ?
男子生徒は記帳を済ませると「ありがとうございました」と、私の顔を見て告げて去っていった。
……なんだったんだ? なんで私の顔を見てたんだ?
時計を見ると、午後の最初の休み時間だ。
そういえば『生徒たちは休み時間に訪れることがほとんどだ』とは教えられていた。
その時間はなるだけカウンターに居るようにしておこう。
でもなんで、私が写本できることを知ってるんだろう?
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