司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第3章:神霊魔術

34.

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 昼休みになり、食堂で殿下に助けられたことをみんなに報告した。

 フランツさんが悔しそうに呟く。

「すまない、私が傍に居れば、なんとか対応してやれたのに」

 ファビアンさんも深刻な顔で眉をひそめていた。

「そこまで悪質な生徒が居たのか。
 殿下が見初めた以上、手は出されないと踏んでいたんだが」

 カールステンさんは明るい声で告げる。

「だが殿下が動いたなら、校内に広く告知されるだろう。
 もうヴィルマが手出しされることはないだろうさ」

 シルビアさんが私の肩に手を置いて告げる。

「ごめんなさいヴィルマ。怖かったでしょう?」

「あーいえ、それほどでもなかったんですけど。
 ああいう時ってどう対応したら正解なんですかねぇ?」

 サブリナさんがため息をついた。

「私たち貴族子女と違って、あなたは平民だものね。
 どうやっても逆らえば問題になってしまう。
 ……こうなったら、ヴォルフガング様から護身術を習うべきかしら」

 私はきょとんとしてサブリナさんを見て告げる。

「問題にならない護身術なんて、あるんですか?」

「んー、私には思いつかないけど、ヴォルフガング様ならもしかしたら知ってるかも」

 そっかー、あの人なんでも知ってる気がするしなー。

 みんなも同じイメージってことか。

「じゃあ、ヴォルフガングさんに伝えてくれますか?
 私は自分から伝えに行けないので」

 みんなが一斉に頷いた――え? まさか全員で行くつもり?


 昼食を手早く済ませた男性陣、続いて女性陣がすぐに席を立ち、本当にさかさかとどこかへ消えてしまった。

 ……えー、みんなで相談に行ったの? さすがに迷惑にならないかな?




****

 司書室で午後の業務開始を待っていると、ドアが開いてヴォルフガングさんが姿を見せた。

 いつもの優しい微笑みを浮かべたヴォルフガングさんが告げる。

「すまないね、待ったかな?」

 私は唖然としながら応える。

「……いえ、待ってはいませんけど。どうしたんですか? こんな時間に」

 ヴォルフガングさんが懐から何かを取り出し、私の手に握らせた――指輪?

「なんですか? これ」

「相手を即死させる魔導具だよ」

 物騒すぎるー?!

 私は慌てて指輪を押し返して声を上げる。

「ちょっとヴォルフガングさん! なにを考えてるんですか!
 そんなもの、持ってるだけで大問題ですよ?!」

 ヴォルフガングさんがニコリと微笑んだ。

「そうかい? ヴィルマは優しいね。
 何かあっても、私が問題を揉み消してあげるというのに」

「いやいやいや! そういう問題じゃないですから!」

 ヴォルフガングさんが懐から別の物を取り出し、私の手に握らせた――別の指輪?

 私はおそるおそる尋ねる。

「……これは、なんですか?」

 ヴォルフガングさんがニコリと微笑んで応える。

「これは≪誘眠≫の魔導具だ。相手を一瞬で眠らせることが出来る。
 床に倒れ込んだくらいじゃ起きないから、何かあったら使いなさい」

 眠るだけかー。それくらいなら、護身具として持っててもいいか。

「どうやって使うんですか?」

「魔力を通すだけで大丈夫だ。眠らせたい対象を意識しながら魔力を通せば、それで相手は眠るだろう」

「……ちなみに、何分ぐらい眠るんですか?」

 ヴォルフガングさんがニコリと微笑んだ。

「三日三晩眠るね」

 厄介だなー?! それも問題になりそうだぞ?!

 だけど、いざという時の切り札として持っておくには、ギリギリセーフかなぁ?

「うぅ~、わかりました。ありがたく受け取ります」

「ああ、そうして欲しい。大丈夫、問題になるようなら私や殿下が必ず揉み消してみせるとも」

「もーみーけーすーよーうーなーこーとーをーしーたーくーなーいー!」

「ハハハ! 大丈夫、安心なさい」

「安心! できない!」

 午後の始業ベルが鳴り、ファビアンさんが手を打ち鳴らした。

「ともかく、その指輪で午後は対処してもらおう。
 殿下が対応しているはずだが、油断はしないように。
 我々もなるだけ、ヴィルマに注意を向けておく」

 みんなが声を上げて、持ち場に散っていった。

 ヴォルフガングさんはニコニコと微笑みながら佇んでいる。

「……戻らないんですか?」

「午後は講義がないからね。
 私が図書館の中で見張っておいてあげよう」

 なんで厳重ガード?!


 私は謎の疲労感を感じつつ、カウンターへと向かった。




****

 私は読破した魔力鍛錬法を思い出しながら、自分の魔力を図書館中に張り巡らせた。

 ……魔力を遠くに伸ばすのも、思ったより簡単なんだな。

 ディララさんは『普通は頑張っても数十メートル』って前に言ってたけど、まだまだ私には余裕がある。

 これなら百メートル以上は伸ばせそうな気がする。

「こらこら、図書館の中で警戒魔術を使うのは止めなさい」

 ヴォルフガングさん?

 声に振り向くと、ヴォルフガングさんが優しく微笑んでカウンターの前に居た。

「あのー、これって魔術なんですか?」

「そうだよ? 一番シンプルな警戒魔術の一つだ。
 魔力の網を張り巡らせ、網に引っかかった物の情報を得る。
 ――自分の魔力を遮られれば、それがわかるだろう?」

 ああ、そういうことか。確かにそれなら警戒網にできる。

「じゃあ『とんち』みたいな話ですけど、網じゃなければセーフですかね?」

「そうだね、魔力を数本伸ばすくらいなら、警戒魔術とはみなされないね」

 いったん魔力を全部身体に戻して、今度は一本だけを図書館の反対側の壁に届かせた。

 ……簡単すぎて、鍛錬にならないな。

 魔力を細く引き伸ばす鍛錬法もあったっけ。

 今度は絹糸より細い魔力の糸を、同じように図書館の反対側の壁に貼り付けた。

 ……これで鍛錬になるのぉ~?

 私はヴォルフガングさんを見て告げる。

「ねぇヴォルフガングさん、魔導書にある鍛錬法じゃ、鍛錬できてる気がしないんですけど」

「ハハハ! ヴィルマは既に、そんなステージに居ないからね!
 それほど魔力を制御できる人間は、そもそもそんな鍛錬を遥かに通り越している。やる必要がないね」

「やっぱりそうか~」

 私はがっくりと肩を落として、浮遊型移動書架台フロートに入った魔導書を所定位置に戻していった。




****

 私は読む本が無くなり、ぼんやりとカウンターの中で佇んでいた。

 ……平和だなぁ。生徒が誰も来ない。

 アルフレッド殿下が告知するだろうって話、ホントなのかもなぁ。

 ……暇、だなぁ。

 あれほど憧れた『大量の魔導書に囲まれる生活』だというのに、どうして読もうと思えないんだろう?

 私は司書で、魔導士じゃないから?

 うーん、半分当たりで、半分間違ってるような気がする。

 そもそも、どうしてそんな生活に憧れてたんだっけ?

 初心忘るべからず――最初に魔導書を好きになった『きっかけ』って、なんだったっけ。

 思いだそうとすると、ふわりと魔導書の匂いが鼻をくすぐった気がした。

 それと共にお父さんの笑顔が思い出されて――ああ、そうか。お父さんと過ごした幼い日々。あの日の象徴に魔導書があったんだ。

 魔導書を読んでると、お父さんが傍に居てくれるような気がして、お父さんみたいな司書になりたくて。

 六年前に居なくなっちゃった、お父さんとお母さん。長いようでいて、六年は短い。

 まだ私は、両親が居なくなった傷から立ち直れてないのかな?

 だからお父さんとの繋がりである魔導書や、司書という仕事に拘るんだろうか。

 ……お父さんは、なんだかすごい魔導士だったみたい。そんなそぶり、全然見せなかったんだけどね。

 そんなお父さんみたいな司書になるなら、魔導書はもっといっぱい読まないといけないのかな。


 そんなことをいろいろ考えていたら、閉館直前を知らせるベルが鳴った。

 ……結局、午後は生徒が一人も来なかったな。

 私は小さくため息をつくと、ゆっくりと司書室に戻っていった。
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