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第3章 試練と天秤
第14話 再会
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放課後のお茶会で、私はリアンたちに事の顛末をかいつまんで伝えていた。
「――とまぁ、そういう約束で婚約を了承したのですわ」
リアンたちは目を輝かせていた。
「もうそれは確定コースなのではなくて?」
「確定では! ありません!」
ステファンが涼しい顔で告げる。
「いや、確定だ。問題ない」
私はジロリと白目をステファンに向けた。
――本当に約束の意味、分かってるのかなぁ?!
リアンがクスクスと笑みをこぼした
「でもメルフィナの啖呵は『もう惚れてます』と仰ってるようにしか聞こえなくてよ?」
私はため息をついて答える。
「ステファンは強引すぎるのですわ。
それに私の心が付いていけないだけですの」
「でも、その力強さがよろしいのでしょう?」
「う゛っ?!」
私は考えすぎて決断力に欠けるタイプだ。
そんな私にとって、考えなしに迷いなく最善手を選択できるステファンは眩しく映った。
『カリナ』と『ハインツ』も同じだったのだろう。
「そして殿下のような方には、きちんと考えて伝えるべきことを伝える女性が傍に居るべきですわ。
つまり、メルフィナのような方ですわね? ――お似合いなのでは?」
「ぐっ……」
私が言葉に詰まっていると、リアンが楽しそうに告げる。
「今夜の婚約披露パーティ、楽しみにしておりますわね!」
そう、今夜は王宮で盛大なパーティが開かれることになっていた。
「今から気が重たいですわ……」
ステファンのご両親はとても良い方々で、あんな無理な契約でも快く頷いてくれた。
『ステファンが選んだ女性であれば』と、私を歓迎してくれたのだ。
両陛下はステファンへの信頼が厚いようだった。
近々、立太子も考えてるらしい。
ほっとくと王太子妃、そして王妃かぁ。
実に気が重たい未来だ。既に急ピッチで教育も進められてるし。
ステファンが拗ねるように告げる。
「最近のメルフィナは『忙しい』と言って、俺と一緒に居てくれないんだ」
「誰のせいだと思ってるのかな?!」
王妃教育に加えて魔導学院の両立、目が回る忙しさだ。
この後も夜会の準備で慌ただしい。
「はぁ……」
ため息も出よう、というものである。
****
ノウマン侯爵家の一室で、サラが一人の男を迎えていた。
「よく来てくれたわね。来てくれないかと思ったけど」
フードを目深にかぶった男が答える。
「いえ、サラ様のためでしたら、いつ何時でも」
サラがフッと笑みをこぼす。
「あなたは変わらないわね。
――ねぇ、一つお願いがあるの。聞いてくれる?」
サラが伝えた言葉に、フードの奥の男の表情が凍った。
「そんなことをしては、サラ様が破滅を免れません!」
「いいのよ、そんなことはもう。
でも殿下の愛をあの女が独り占めするのだけは許せない。
それだけは断固として阻止して見せるわ――だから、協力して?」
フートをかぶった男が苦悩していた。
「……その役目、私に任せてはいただけませんか」
サラがフッと笑って答える。
「駄目ね。これは私の手でやらなくてはならないの。
貴方に譲ってあげられるものではないわ」
「本気、なのですね?」
「ええ、最初からずっと本気よ?」
フートの男がサラの視線を見定めるように見つめた。
「……わかりました。
では会場にいらっしゃれば、私が場を整えます」
サラが微笑みをこぼして答える。
「ありがとう、最後まで貴方には助けられっぱなしね」
フードの男は部屋を辞去していった。
サラは暗い情念に燃える瞳で告げる。
「メルフィナ・フォン・ジルケ……必ず思い知らせてやるわ」
****
婚約披露パーティは案の定、大勢の貴族が集まっていた。
もちろん私とステファンの婚約に、裏で眉をひそめてる人たちもいるだろう。
だけど表向きは和やかに進行していった。
私は苦手ながらも、必死に相手の顔と名前を覚えていった。
『カリナ』の魔法を駆使してでも、必死に記憶に刻み込んでいく。
傍に居るお父様は上機嫌だ。
なんせ私が居止めたのは第一王子。大層ご満悦のようだった。
ステファンが私に耳打ちをしてくる。
「メルフィナ、頬が引きつってるぞ」
「あたりまえでしょ! どんだけ微笑み続けてると思ってるの!」
既に夜会は一時間を超えている。
その間、挨拶に来る貴族の相手に忙殺されていた。
もうしばらくすれば休憩時間として控室に戻れるけれど、もう限界だった。
ステファンにそっと耳打ちをする。
「ねぇ、少しバルコニーに出ない?」
ステファンが微笑みながら、小さくため息をついて答える。
「しょうがないな」
ステファンがその場の挨拶を手短に切り上げてくれて、私をバルコニーまでエスコートしていった。
バルコニーに出る間際でクラウスと出会う。
「メルフィナお嬢様、こちらを」
差し出されたのは、パンに具材を挟んだもの。
パンが載った小皿を受け取り「ありがとう」とその場を後にした。
****
「……ふぅ。つかれた~!」
やっと素に戻れた私は、夜空に向かって吠えていた。
ステファンは微笑みながら「お疲れさん」と労ってくれた。
私は小皿の上のパンを掴んでもぐもぐとかぶりついていく。
ようやく食事をとれて、少しだけ疲れが回復した。
さすがクラウス、相手が欲しいものを見極めて渡してくれる。
シュバイクおじさまの言う通り、優秀な人だ。
パンを食べる私を見たステファンがクスリと笑みをこぼした。
「ほんと、そういうところは小動物みたいだな」
誰が小動物かー!
食べてる最中でしゃべれないので、視線でステファンに抗議を伝える。
ステファンが夜空を見上げて呟く。
「……あの晩もこんな月夜だったな」
ステファンが見上げる先には満月が輝いていた。
あの晩って、どの晩?
私が小首を傾げていると、ステファンが苦笑して告げる。
「初めて会った、あの晩だよ」
ああ、私が初めて襲撃を防いだ夜か。
私は口の中のパンを飲み込んでから答える。
「ちょっと前の話なのに、随分昔に感じるねー」
「不思議なんだが、あの時受けた印象と今のお前、全く変わってないんだ」
おかしい。あの時はきちんと公爵令嬢らしく振る舞っていたはず?
ステファンが微笑みながら告げる。
「言っただろう? 初めて会った気がしないと。
今のお前を、俺はどこかで知っていた気がするんだ」
それはもしかして、『ハインツ』の――。
ステファンがこちらに振り向き、視線が絡み合う。
だけど、ステファンがもしそうだとしたら……。
見つめ合う私たちの間に、バリトンの美声が響き渡る。
「失礼する。ジルケ公爵令嬢はこちらかな?」
声に振り向くと、一人の背の高い男性が立っていた。
二十代前半くらい……かなぁ?
でもそれよりも――その姿には見覚えがあった。
「え――」
長く黒い髪、金色のような琥珀の瞳、震えるほど人間離れした美貌――。
私が手に持っていた小皿が、バルコニーの床に落ちて砕けていた。
「『ゾーン』……なんで、君が……」
私の声が震えていた。
視線を感じたことはある。でも、まさか本当に?
ステファンが青年に向き直って告げる。
「貴方はヴィシュタット帝国のケーニヒ第一皇子ですね?
メルフィナに何の用ですか」
青年――ケーニヒが私に微笑んで告げる。
「『カリナ』――いや、メルフィナ。俺のことはケーニヒと呼ぶがいい。
今の名前だ――お前と同じく、な」
ケーニヒの視界にステファンが入っていない。
彼の視線は直向きに私だけを見つめていた。
あの日の魔王城跡の別れの時のように、ただまっすぐに。
無造作にこちらに近づいてくるケーニヒに、私は微動だにできずにいた。
「――とまぁ、そういう約束で婚約を了承したのですわ」
リアンたちは目を輝かせていた。
「もうそれは確定コースなのではなくて?」
「確定では! ありません!」
ステファンが涼しい顔で告げる。
「いや、確定だ。問題ない」
私はジロリと白目をステファンに向けた。
――本当に約束の意味、分かってるのかなぁ?!
リアンがクスクスと笑みをこぼした
「でもメルフィナの啖呵は『もう惚れてます』と仰ってるようにしか聞こえなくてよ?」
私はため息をついて答える。
「ステファンは強引すぎるのですわ。
それに私の心が付いていけないだけですの」
「でも、その力強さがよろしいのでしょう?」
「う゛っ?!」
私は考えすぎて決断力に欠けるタイプだ。
そんな私にとって、考えなしに迷いなく最善手を選択できるステファンは眩しく映った。
『カリナ』と『ハインツ』も同じだったのだろう。
「そして殿下のような方には、きちんと考えて伝えるべきことを伝える女性が傍に居るべきですわ。
つまり、メルフィナのような方ですわね? ――お似合いなのでは?」
「ぐっ……」
私が言葉に詰まっていると、リアンが楽しそうに告げる。
「今夜の婚約披露パーティ、楽しみにしておりますわね!」
そう、今夜は王宮で盛大なパーティが開かれることになっていた。
「今から気が重たいですわ……」
ステファンのご両親はとても良い方々で、あんな無理な契約でも快く頷いてくれた。
『ステファンが選んだ女性であれば』と、私を歓迎してくれたのだ。
両陛下はステファンへの信頼が厚いようだった。
近々、立太子も考えてるらしい。
ほっとくと王太子妃、そして王妃かぁ。
実に気が重たい未来だ。既に急ピッチで教育も進められてるし。
ステファンが拗ねるように告げる。
「最近のメルフィナは『忙しい』と言って、俺と一緒に居てくれないんだ」
「誰のせいだと思ってるのかな?!」
王妃教育に加えて魔導学院の両立、目が回る忙しさだ。
この後も夜会の準備で慌ただしい。
「はぁ……」
ため息も出よう、というものである。
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ノウマン侯爵家の一室で、サラが一人の男を迎えていた。
「よく来てくれたわね。来てくれないかと思ったけど」
フードを目深にかぶった男が答える。
「いえ、サラ様のためでしたら、いつ何時でも」
サラがフッと笑みをこぼす。
「あなたは変わらないわね。
――ねぇ、一つお願いがあるの。聞いてくれる?」
サラが伝えた言葉に、フードの奥の男の表情が凍った。
「そんなことをしては、サラ様が破滅を免れません!」
「いいのよ、そんなことはもう。
でも殿下の愛をあの女が独り占めするのだけは許せない。
それだけは断固として阻止して見せるわ――だから、協力して?」
フートをかぶった男が苦悩していた。
「……その役目、私に任せてはいただけませんか」
サラがフッと笑って答える。
「駄目ね。これは私の手でやらなくてはならないの。
貴方に譲ってあげられるものではないわ」
「本気、なのですね?」
「ええ、最初からずっと本気よ?」
フートの男がサラの視線を見定めるように見つめた。
「……わかりました。
では会場にいらっしゃれば、私が場を整えます」
サラが微笑みをこぼして答える。
「ありがとう、最後まで貴方には助けられっぱなしね」
フードの男は部屋を辞去していった。
サラは暗い情念に燃える瞳で告げる。
「メルフィナ・フォン・ジルケ……必ず思い知らせてやるわ」
****
婚約披露パーティは案の定、大勢の貴族が集まっていた。
もちろん私とステファンの婚約に、裏で眉をひそめてる人たちもいるだろう。
だけど表向きは和やかに進行していった。
私は苦手ながらも、必死に相手の顔と名前を覚えていった。
『カリナ』の魔法を駆使してでも、必死に記憶に刻み込んでいく。
傍に居るお父様は上機嫌だ。
なんせ私が居止めたのは第一王子。大層ご満悦のようだった。
ステファンが私に耳打ちをしてくる。
「メルフィナ、頬が引きつってるぞ」
「あたりまえでしょ! どんだけ微笑み続けてると思ってるの!」
既に夜会は一時間を超えている。
その間、挨拶に来る貴族の相手に忙殺されていた。
もうしばらくすれば休憩時間として控室に戻れるけれど、もう限界だった。
ステファンにそっと耳打ちをする。
「ねぇ、少しバルコニーに出ない?」
ステファンが微笑みながら、小さくため息をついて答える。
「しょうがないな」
ステファンがその場の挨拶を手短に切り上げてくれて、私をバルコニーまでエスコートしていった。
バルコニーに出る間際でクラウスと出会う。
「メルフィナお嬢様、こちらを」
差し出されたのは、パンに具材を挟んだもの。
パンが載った小皿を受け取り「ありがとう」とその場を後にした。
****
「……ふぅ。つかれた~!」
やっと素に戻れた私は、夜空に向かって吠えていた。
ステファンは微笑みながら「お疲れさん」と労ってくれた。
私は小皿の上のパンを掴んでもぐもぐとかぶりついていく。
ようやく食事をとれて、少しだけ疲れが回復した。
さすがクラウス、相手が欲しいものを見極めて渡してくれる。
シュバイクおじさまの言う通り、優秀な人だ。
パンを食べる私を見たステファンがクスリと笑みをこぼした。
「ほんと、そういうところは小動物みたいだな」
誰が小動物かー!
食べてる最中でしゃべれないので、視線でステファンに抗議を伝える。
ステファンが夜空を見上げて呟く。
「……あの晩もこんな月夜だったな」
ステファンが見上げる先には満月が輝いていた。
あの晩って、どの晩?
私が小首を傾げていると、ステファンが苦笑して告げる。
「初めて会った、あの晩だよ」
ああ、私が初めて襲撃を防いだ夜か。
私は口の中のパンを飲み込んでから答える。
「ちょっと前の話なのに、随分昔に感じるねー」
「不思議なんだが、あの時受けた印象と今のお前、全く変わってないんだ」
おかしい。あの時はきちんと公爵令嬢らしく振る舞っていたはず?
ステファンが微笑みながら告げる。
「言っただろう? 初めて会った気がしないと。
今のお前を、俺はどこかで知っていた気がするんだ」
それはもしかして、『ハインツ』の――。
ステファンがこちらに振り向き、視線が絡み合う。
だけど、ステファンがもしそうだとしたら……。
見つめ合う私たちの間に、バリトンの美声が響き渡る。
「失礼する。ジルケ公爵令嬢はこちらかな?」
声に振り向くと、一人の背の高い男性が立っていた。
二十代前半くらい……かなぁ?
でもそれよりも――その姿には見覚えがあった。
「え――」
長く黒い髪、金色のような琥珀の瞳、震えるほど人間離れした美貌――。
私が手に持っていた小皿が、バルコニーの床に落ちて砕けていた。
「『ゾーン』……なんで、君が……」
私の声が震えていた。
視線を感じたことはある。でも、まさか本当に?
ステファンが青年に向き直って告げる。
「貴方はヴィシュタット帝国のケーニヒ第一皇子ですね?
メルフィナに何の用ですか」
青年――ケーニヒが私に微笑んで告げる。
「『カリナ』――いや、メルフィナ。俺のことはケーニヒと呼ぶがいい。
今の名前だ――お前と同じく、な」
ケーニヒの視界にステファンが入っていない。
彼の視線は直向きに私だけを見つめていた。
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