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第5章 私の選択
第35話 天衣無縫の公爵令嬢
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「おはよー、みんな!」
翌朝の教室には、ケーニヒの姿も、ステファンの姿もまだなかった。
着席すると、耳聡いリアンが私の席に駆け寄ってくる。
「メルフィナ! ステファン殿下と婚約解消されたって、本当ですの?!」
「うん、そうだよー」
「どういう状況でして?!」
私は微笑んで答える。
「無理やりだった婚約を、一度生産したんだ。
今度はちゃんと、友達から時間を積み重ねていきたいって言ってた」
「……それで?
メルフィナはどちらを選ばれますの?」
リアンの目が輝いていた。
「んー、今は……だいぶケーニヒがリードしてる、かなぁ?
でも、まだあからないかも?」
私は机の上で、左手の黒い指輪をそっと撫でている。
いつかは、金の指輪を撫でる日が来るのかな。
そこはステファンの頑張り次第、かもしれない。
……でも、『対の指輪を嵌める資格』って、どういう意味だろう?
リアンが私の左手を見て尋ねる。
「そういえば、昨日から小指にも指輪をしてらっしゃいますのね?」
「これはねー、ステファンが新しくくれた、お守りの指輪だよ」
「まぁ、ステファン殿下もお守りをくださったのですね。
……ところで、メルフィナ?
素に戻ってますわよ?」
私はニッコリと微笑んで答える。
「私は、私らしく生きてみようかなーって、最近思い始めてるんだー。
だから、私に似合わない言葉遣いは、もうやめちゃうかも!」
リアンが口元に手を当てた。
「あら……じゃあお茶会とか夜会はどうされますの?」
「こんな公爵令嬢でよければ、いつでも呼んで! 遊びに行くよ!」
リアンが顔を近づけてきて、そっと尋ねてくる。
「……その時は、どちらを連れてきますの?」
「二人とも連れていくよー!」
「メルフィナ? あまり男性を弄び過ぎると、そのうち刺されますわよ?
私は眉をひそめて微笑んだ。
「あー、それは嫌かな……でも、二人とも大切な友達だから!」
リアンの視線が私の背後に向かい、何かに気づいたようにニコリと微笑む。
「では後程!」
彼女は明るい笑顔で軽やかに席に戻っていった。
背後からケーニヒの声が響く。
「――お前は、お前を選択する気になったのか」
私は振り向いて答える。
「そうだね! なんだか婚約解消で気持ちがすっきりしたし!
私も新しい一歩を踏み出してみようかなって!
ステファンに負けてられないからね!」
ケーニヒが楽しそうに不敵な笑みを作る。
「だが言ったはずだ。
『お前がお前を選ぶ時、その相手は必ず俺だ』と。
忘れたわけではあるまい?」
「……そうだね。なんとなく今は、私もそんな気がしてる。
いつもケーニヒが傍に居てくれるから、私も『新しい一歩を踏みだす勇気』を持てたのかなー、とか」
「お前が必要とするならば、俺はいつでも傍に居る。
忘れるな、『俺はお前だけの味方』だ」
私はケーニヒに微笑んだ。
「じゃあ私は、『君だけの味方』にならないと、ズルいよね!
守ってもらってばかりじゃ、いけないと思うし!」
「いいのか? そんなことを言ってるとステファンが泣くぞ?」
「ステファンが本気なら、きっとそんな私でも振り向かせてくれるんじゃないかな?」
魔王退治を成し遂げた『ハインツ』の生まれ変わりの男の子。
そんな彼が、今度は元・魔王の息子を退治する決意をして立ち上がった。
きっとケーニヒも油断はできないと思うんだよね。
ケーニヒがフッと笑みをこぼした。
「――まぁそうだな。それくらいできないようでは、話にならんからな。
せいぜいあの男の頑張りに期待しておこう。
だが、あまりいじめ過ぎるなよ?」
「はーい」
私たちが笑い合ってると、教室に明るいステファンの声が響く。
「おはよう、諸君!」
爽やかな笑顔でステファンが自分の席に着く。
「ようメルフィナ! おはよう!」
「おはよーステファン!」
その日も、ケーニヒを中心に騒がしい学院生活が始まった。
****
ベッドの中、今日も月光が降り注いでいる。
私はゆっくりと左手を月明かりにかざした。
黒い指輪と金の指輪。私の大切なお守り。
お守りはキラキラと月光を反射して輝いていた。
私はそっと目をつぶる。
『カリナ』の想いは、婚約指輪と一緒に私から離れていった気がした。
あの時見たステファンの笑顔は、『ハインツ』の面影じゃなかった。
ただ、ステファン自身の笑顔が眩しかったから。
――うん。私はちゃんと、ステファンが見えていた。
だから今度はきっと、私の心で応えを出せると思う。
目を開けると、そこには黒い指輪。
ケーニヒの瞳のような金色の琥珀が、月明かりを浴びていた。
まるでケーニヒに見つめられているかのような錯覚を覚えるそれを、優しく右手で撫でる。
この指輪があれば、私はどこにでも歩いていける気がした。
左手を下ろし、胸元に抱え込む。
「おやすみ、ケーニヒ」
指輪から声が返ってこなくても、今は大丈夫。
私はゆっくり、夢の世界へ落ちていった。
****
学院の廊下を歩いてゆく。
窓の外から、春の日差しが降り注いでいた。
私の足音と重なるように、ケーニヒの足音が聞こえる。
貴賓室のドアを開けると、中ではステファンがソファに座って待っていた。
今、私の目の前には二人の男の子が座っている。
私は一度、目をつぶる。
自分の心と向き合って、一つの答えを確認する。
私の右手は、左手から一つの指輪を引き抜いた。
私はそっと、その指輪を彼の前に置く。
「これが、私の答えだよ」
彼といくつかの言葉を交わす。
私は立ち上がり、貴賓室を後にした。
****
廊下を歩く。私の足音の後ろから、遅れてもう一つの足音が付いてくる。
ふと足を止めて、彼と並ぶ。
こうして並んでいることに、私は幸せを感じていた。
左手をお日様にかざす――そこに在るのは、指輪が一つだけ。
私はその黒い指輪を、優しく撫でる。
「じゃ、いこうか! ケーニヒ!」
「ああ、行こう」
今度は並んで、廊下を歩いていく。
この先がどんな道だとしても、この指輪があれば大丈夫。
あの日を最後に、この指輪に語りかけてはいない。
だけど、手の中にこの指輪があるだけで、言葉は要らなかった。
月明かりの中でその指輪に見つめられれば、それだけで満たされた。
「今度は、私が帝国に遊びに行ってみよっかなー」
「そうか。ならば客人としてもてなそう」
「お嫁さんじゃなくていいの?」
私は彼の横顔を見上げる。
「お前が望むならば、そうしよう」
私はニッコリ笑って答える。
「んー、『ケーニヒが望むなら』私はそうするよ。
ケーニヒはどうしたい?」
ケーニヒと私の視線が交わる。
彼は足を止め、少し考えていた。
「俺がしたいこと、か。
……答えを出すのは存外、難しいものだな」
いつも私のことしか考えてないケーニヒに、少しずつ自分の幸福を考えるように促す。
これが私の最近の楽しみだ。
「じゃあ、また一緒に考えよう!」
私はそっと彼の頬を撫でながら告げる。
「『私は君だけの味方』だからね!」
「――ああ、そして『俺はお前だけの味方』だ」
最近気が付いたのだけど、私がこの言葉を使うと、彼の頬が少し暖かくなる。
よく観察すると、耳も少し赤いのがわかる。
「君は『愛されること』に慣れてないのかな?」
「――そうだな。『お前から愛される』というのが、これほど刺激的な体験だとは想像していなかった」
私はニッコリと微笑む。
「まだまだ! 今までもらった分を返しきれてないんだから!
覚悟しておくよーに!」
「では俺は、今まで以上にお前を愛そう」
「これ以上重たくなるのーっ?!」
「お前が望まぬなら、それはすまい」
私は明るい笑い声を上げた。
「ケーニヒがしたいなら、それが私の望みだよ」
「そうか……この場合、俺はどうしたらいいんだ?」
「じゃあ、それも一緒に考えよー!」
私たちは歩いていく。
私たちなりの歩き方で、先を決めないまま歩きだす。
それがどんな道だとしても、彼と二人ならば、きっと楽しいことだろう。
翌朝の教室には、ケーニヒの姿も、ステファンの姿もまだなかった。
着席すると、耳聡いリアンが私の席に駆け寄ってくる。
「メルフィナ! ステファン殿下と婚約解消されたって、本当ですの?!」
「うん、そうだよー」
「どういう状況でして?!」
私は微笑んで答える。
「無理やりだった婚約を、一度生産したんだ。
今度はちゃんと、友達から時間を積み重ねていきたいって言ってた」
「……それで?
メルフィナはどちらを選ばれますの?」
リアンの目が輝いていた。
「んー、今は……だいぶケーニヒがリードしてる、かなぁ?
でも、まだあからないかも?」
私は机の上で、左手の黒い指輪をそっと撫でている。
いつかは、金の指輪を撫でる日が来るのかな。
そこはステファンの頑張り次第、かもしれない。
……でも、『対の指輪を嵌める資格』って、どういう意味だろう?
リアンが私の左手を見て尋ねる。
「そういえば、昨日から小指にも指輪をしてらっしゃいますのね?」
「これはねー、ステファンが新しくくれた、お守りの指輪だよ」
「まぁ、ステファン殿下もお守りをくださったのですね。
……ところで、メルフィナ?
素に戻ってますわよ?」
私はニッコリと微笑んで答える。
「私は、私らしく生きてみようかなーって、最近思い始めてるんだー。
だから、私に似合わない言葉遣いは、もうやめちゃうかも!」
リアンが口元に手を当てた。
「あら……じゃあお茶会とか夜会はどうされますの?」
「こんな公爵令嬢でよければ、いつでも呼んで! 遊びに行くよ!」
リアンが顔を近づけてきて、そっと尋ねてくる。
「……その時は、どちらを連れてきますの?」
「二人とも連れていくよー!」
「メルフィナ? あまり男性を弄び過ぎると、そのうち刺されますわよ?
私は眉をひそめて微笑んだ。
「あー、それは嫌かな……でも、二人とも大切な友達だから!」
リアンの視線が私の背後に向かい、何かに気づいたようにニコリと微笑む。
「では後程!」
彼女は明るい笑顔で軽やかに席に戻っていった。
背後からケーニヒの声が響く。
「――お前は、お前を選択する気になったのか」
私は振り向いて答える。
「そうだね! なんだか婚約解消で気持ちがすっきりしたし!
私も新しい一歩を踏み出してみようかなって!
ステファンに負けてられないからね!」
ケーニヒが楽しそうに不敵な笑みを作る。
「だが言ったはずだ。
『お前がお前を選ぶ時、その相手は必ず俺だ』と。
忘れたわけではあるまい?」
「……そうだね。なんとなく今は、私もそんな気がしてる。
いつもケーニヒが傍に居てくれるから、私も『新しい一歩を踏みだす勇気』を持てたのかなー、とか」
「お前が必要とするならば、俺はいつでも傍に居る。
忘れるな、『俺はお前だけの味方』だ」
私はケーニヒに微笑んだ。
「じゃあ私は、『君だけの味方』にならないと、ズルいよね!
守ってもらってばかりじゃ、いけないと思うし!」
「いいのか? そんなことを言ってるとステファンが泣くぞ?」
「ステファンが本気なら、きっとそんな私でも振り向かせてくれるんじゃないかな?」
魔王退治を成し遂げた『ハインツ』の生まれ変わりの男の子。
そんな彼が、今度は元・魔王の息子を退治する決意をして立ち上がった。
きっとケーニヒも油断はできないと思うんだよね。
ケーニヒがフッと笑みをこぼした。
「――まぁそうだな。それくらいできないようでは、話にならんからな。
せいぜいあの男の頑張りに期待しておこう。
だが、あまりいじめ過ぎるなよ?」
「はーい」
私たちが笑い合ってると、教室に明るいステファンの声が響く。
「おはよう、諸君!」
爽やかな笑顔でステファンが自分の席に着く。
「ようメルフィナ! おはよう!」
「おはよーステファン!」
その日も、ケーニヒを中心に騒がしい学院生活が始まった。
****
ベッドの中、今日も月光が降り注いでいる。
私はゆっくりと左手を月明かりにかざした。
黒い指輪と金の指輪。私の大切なお守り。
お守りはキラキラと月光を反射して輝いていた。
私はそっと目をつぶる。
『カリナ』の想いは、婚約指輪と一緒に私から離れていった気がした。
あの時見たステファンの笑顔は、『ハインツ』の面影じゃなかった。
ただ、ステファン自身の笑顔が眩しかったから。
――うん。私はちゃんと、ステファンが見えていた。
だから今度はきっと、私の心で応えを出せると思う。
目を開けると、そこには黒い指輪。
ケーニヒの瞳のような金色の琥珀が、月明かりを浴びていた。
まるでケーニヒに見つめられているかのような錯覚を覚えるそれを、優しく右手で撫でる。
この指輪があれば、私はどこにでも歩いていける気がした。
左手を下ろし、胸元に抱え込む。
「おやすみ、ケーニヒ」
指輪から声が返ってこなくても、今は大丈夫。
私はゆっくり、夢の世界へ落ちていった。
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学院の廊下を歩いてゆく。
窓の外から、春の日差しが降り注いでいた。
私の足音と重なるように、ケーニヒの足音が聞こえる。
貴賓室のドアを開けると、中ではステファンがソファに座って待っていた。
今、私の目の前には二人の男の子が座っている。
私は一度、目をつぶる。
自分の心と向き合って、一つの答えを確認する。
私の右手は、左手から一つの指輪を引き抜いた。
私はそっと、その指輪を彼の前に置く。
「これが、私の答えだよ」
彼といくつかの言葉を交わす。
私は立ち上がり、貴賓室を後にした。
****
廊下を歩く。私の足音の後ろから、遅れてもう一つの足音が付いてくる。
ふと足を止めて、彼と並ぶ。
こうして並んでいることに、私は幸せを感じていた。
左手をお日様にかざす――そこに在るのは、指輪が一つだけ。
私はその黒い指輪を、優しく撫でる。
「じゃ、いこうか! ケーニヒ!」
「ああ、行こう」
今度は並んで、廊下を歩いていく。
この先がどんな道だとしても、この指輪があれば大丈夫。
あの日を最後に、この指輪に語りかけてはいない。
だけど、手の中にこの指輪があるだけで、言葉は要らなかった。
月明かりの中でその指輪に見つめられれば、それだけで満たされた。
「今度は、私が帝国に遊びに行ってみよっかなー」
「そうか。ならば客人としてもてなそう」
「お嫁さんじゃなくていいの?」
私は彼の横顔を見上げる。
「お前が望むならば、そうしよう」
私はニッコリ笑って答える。
「んー、『ケーニヒが望むなら』私はそうするよ。
ケーニヒはどうしたい?」
ケーニヒと私の視線が交わる。
彼は足を止め、少し考えていた。
「俺がしたいこと、か。
……答えを出すのは存外、難しいものだな」
いつも私のことしか考えてないケーニヒに、少しずつ自分の幸福を考えるように促す。
これが私の最近の楽しみだ。
「じゃあ、また一緒に考えよう!」
私はそっと彼の頬を撫でながら告げる。
「『私は君だけの味方』だからね!」
「――ああ、そして『俺はお前だけの味方』だ」
最近気が付いたのだけど、私がこの言葉を使うと、彼の頬が少し暖かくなる。
よく観察すると、耳も少し赤いのがわかる。
「君は『愛されること』に慣れてないのかな?」
「――そうだな。『お前から愛される』というのが、これほど刺激的な体験だとは想像していなかった」
私はニッコリと微笑む。
「まだまだ! 今までもらった分を返しきれてないんだから!
覚悟しておくよーに!」
「では俺は、今まで以上にお前を愛そう」
「これ以上重たくなるのーっ?!」
「お前が望まぬなら、それはすまい」
私は明るい笑い声を上げた。
「ケーニヒがしたいなら、それが私の望みだよ」
「そうか……この場合、俺はどうしたらいいんだ?」
「じゃあ、それも一緒に考えよー!」
私たちは歩いていく。
私たちなりの歩き方で、先を決めないまま歩きだす。
それがどんな道だとしても、彼と二人ならば、きっと楽しいことだろう。
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