新約・精霊眼の少女外伝~蒼玉の愛~

みつまめ つぼみ

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116.品評会

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 午後になり、男子たちは≪身体強化≫を封印して、剣術のみでじゃれ合っていた。

 女子たちはそんな男子たちを遠目に見やりながら、別の話題に興じ始める。


 ララが悔しそうに告げる。

「アム兄様が、あんなに低順位だなんて……。
 あれでも、周囲では同年代で負け知らずなのよ?」

 レナがそれに応える。

「ザフィーアのレベルが高すぎるんだよ。
 みんな高位貴族ばかりで魔力も強いし。
 特に年少組で年長組と同じ動きができるアラン様とヴァルター様が変態なんだよ」

 サニーが興味本位で話を振ってくる。

「アストリッド様が納得する順位を、直感で弾き出したマリーはさすがよね。
 ……ねぇ、あの男子八人に、あなたの好みを点数付けしたらどうなるの?」

「えぇっ?! サニーまでそんなことを言うの?!」

 ララもニマニマと笑みを浮かべて乗っかってきた。

「楽しそうね? ぜひ教えて頂戴!」

 三人の『笑み』の圧力がすごかった。

 私が逃れる術が見つからない。

 うーん、女子って本当にこういう話題が好きだよなぁ。

 年頃の女子、定番の話題と言えばそれまでだけど。

 私は小さく息をついて応える。

「んー、そうねぇ……直感判定だと、こんな感じかしら」

 私は地面に枝で名前を書いていった。


 サイ兄様が五十点。

 アミン様が四十点。

 ヴァルター様が三十五点。

 アラン様が三十五点。

 マーセル殿下が三十点。

 スウェード様がニ十点。

 オリヴァー殿下が五点。


 これを見た三人が、大きく声を上げた。

「シビア過ぎない?!」

「これ、五十点満点?!」

「オリヴァー殿下が果てしなく低いわね?!」

 私はむくれながら応える。

「そんなことを言われても、基準がないとわかりづらいじゃない?
 だからサイ兄様を真ん中の五十点にしたのよ。
 それに直感だから、文句を言われても、私だって困るわ!」

「このブラコン!」

 三人の女子が声をそろえて突っ込んできた。

 ごもっともです。

 『男性の好み順位』でトップが実兄だ。

 さすがに自分でも『これはさすがに……』と思ってしまった。

 だけど理屈じゃないので、自分でもどうしようもない。

 ララはお兄さんが比較的高得点なので、まぁまぁ満足のようだ。

「アム兄様の評価が高めなのはいいでしょう。
 でも、ヴァルター様の評価がやたら高いわね?」

 私も眉をひそめて順位表を見つめた。

「なんでなのかしらね……。
 確かにアストリッド様譲りで顔立ちは整ってるし、美形の類だとは思うけど。
 あんな気弱な男子は、好みじゃないはずなんだけどなぁ」

 レナは別のところが気になってるみたいだ。

「オリヴァー殿下が異常なほど点数が低いのが不思議なのよね。
 あの方、既に社交界でも人気の方よ?」

 まぁそうだろうなぁ。

 なにせ婚約者が居ない第一王子だ。

 見目麗しく、剣の腕も立つ。

 王族教育で頭脳も明晰だ。

 物腰も柔らかい王子様だし。

 気店らしい欠点が見つからないと思うんだけど。

「でもなんかね、あの方は『胡散臭い』のよ。
 私の直感が『あいつには近寄るな』って告げてるの」

「あーなんとなくわかるかも」

「第一王子が腰が低いって、ちょっと意外だよね。
 マーセル殿下みたいなのが普通のはずだし」

「あの態度が演技だとしたら、結構な食わせ物ね」

 女子三人が同意し始めた。

 やっぱり何か、感じる部分があったらしい。

 レナはメモをしながら、笑って告げる。

「スウェード兄様は、勝ち目が無さそうね」

 私はきょとんとしてレナを見つめた。

「なんでメモを取るの?」

「え? 面白そうだから記録を付けようかと」

 私で遊ぶ気だな?




****

 大人たちのうち、男性陣は夕方で帰宅した。

 クラウディア様たち女性陣は、一泊することになっていた。

 つまり、大人たちの女子会だ。

 夕食も庭でテーブルを囲み、大人席からは楽し気な声が聞こえてくる。

「今夜は! 二十年振りの! ヒルダとの! お泊り会!」

「はいはい」

「どーどー」

「静かにしないと、また縛り付けるわよ?」

「あはは……」

 などという感じで、とても楽し気な雰囲気が子供席に届いていた。

 噂通り、クラウディア様の暴走振りが激しい。

 オリヴァー殿下とマーセル殿下は、どこか恥ずかしそうだ。

 ララがぽつりとつぶやく。

「……ほんと、クラウディア様とサニーって同類なのね」

 サニーは他人事のように夕食を口に運んでいた。

 アラン様が意外そうな顔で尋ねてくる。

「えっ?! サンドラ嬢もあんな感じなんですか?!」

 レナが深くうなずいていた。

「いつも『おはようからおやすみまで、マリーと一緒』が口癖の子よ?」

 そこにサニーが冷静に突っ込みを入れていく。

「そんな『温い』ことを、私が言うはずないでしょう?
 『おはようからおやすみまで』を通り越し、『おはようからおはようまで、お休み中もずっと一緒』よ」

 私はげんなりしながら告げる。

「サニーはいつも泊りに来ると、私を抱き枕にするのよ……」

 それを聞いた男子たちが、熱い視線をサニーに向けた。

「羨ましい……」

「なんだその同性特権。ずるいぞ!」

「その役、変わってくれないか?」

「おいスウェード、あとで木剣を持ってあっちに行こう。
 根性を叩き直してやる」

 それぞれが口に想いを乗せる中、サニーが胸を張って高笑いを始めた。

「ほほほ! 悔しかったら女に生まれ変わって出直してくることね!
 マリーの隣は私の居場所よ!
 今までも! そしてこの先もね!」

 アラン様がぼそりと「あ、本当に同類だ」とつぶやいていた。




****

 翌朝、朝食を済ませたクラウディア様たちは、自宅へと戻っていった。

 お母様はみんなに自由時間を言い付け、書斎に戻った。

 午前は領主としての執務時間に充てるらしい。

 本番の魔術授業は、午後からだ。


 マーセル殿下がぼやく。

「午後まで自由時間と言われても、やることがないな」

 私はマーセル殿下に尋ねる。

「昨日みたいに、木剣で遊べばいいんじゃないですか?」

「それは昨日、さんざんやった。
 今日はそんな気分でもないからな」

 オリヴァー殿下がサイ兄様に尋ねる。

「サイモン、この辺りで暇をつぶせる場所はないのですか」

 サイ兄様は、困ったように眉をひそめた。

「そう言われてもなぁ……森の探検ぐらいしかないぞ?」


 エドラウス侯爵邸は、町から少し離れた小高い丘の上にある。

 周囲は森で囲まれ、小川も流れていた。

 夏になれば釣りも楽しめるけど、今はまだ一月で、水も凍ってる。

 この季節になれば、森には飢えた灰色狼の群れも出る。

 大人でも、うかつに近寄ることはない。


 そんな説明を聞いたマーセル殿下が、俄然やる気を出してきた。

「森の探検、面白そうじゃないか!
 ザフィーア結成後、初めての集団行動だ。
 行ってみよう!」

 女子たちは『灰色狼』と聞いて、腰が引けている。

 成体になれば全長二メートル前後になる害獣だ。

 私もわざわざ、そんな危ない橋を渡る気はしない。

「この季節じゃ花が咲いてる訳でもないし。
 私たちが行っても、楽しい場所じゃないわ」

 サイ兄様も反対した。

「灰色狼を侮るなよ?
 奴らは群れで獲物を襲う。
 子供なんて、ひとたまりもないぞ」

 だけどマーセル殿下は、それでもめげなかった。

「これだけの人数だぞ?
 昨日、あれだけ実力を見せあっただろう?
 それに必ず襲われると決まったわけじゃないし、そんなに怖がることじゃないさ」

 オリヴァー殿下がサイ兄様の肩を叩いた。

「サイモン。すまないが、マーセルは言い出したら聞かない奴です。
 ちょっと森の中に入って、すぐ帰って来ればいいでしょう」

 サイ兄様はオリヴァー殿下を見つめ、うつむいて深いため息をついた。

「……昼までに戻ってこれなければ、母上から大目玉だからな?
 それだけは忘れるなよ?」


 ……え? 本当に森に行くの? 子供だけで?

 大丈夫かなぁ?
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