ひとつがたり

みつまめ つぼみ

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 春菜たちは少女のあとを追って、神社跡地の境内へと侵入していく。

 和服の少女は軽い足取りで本殿の扉を開き、中へ入っていった。

 カメラの映像を覗いていた孝之助が告げる。

「どうする? 中に入っていったが」

 正明は肉眼で本殿の扉を見つめて応える。

「廃屋に入るのはさすがに危ないんじゃないかな」

 由夏が妙に元気な声で告げる。

「なに言ってんの! 『ここまで来て帰るなんて言うな』って部長が言ったんでしょ?!
 こうなったら、とことん追いかけるわよ!」

 春菜は半分泣きながら告げる。

「私はここに残っちゃダメですか?」

 孝之助が少し考えてから首を横に振った。

「悪いが、倉田さんには最後まで付きあってもらう。
 あの和服の女の子を見失うからな」

「そんなぁ?!」

 正明がため息をついて告げる。

「こうなったら、行くところまで行こう。
 幽霊なのかトリックなのか、確かめないと」

 どうやら三人とも、和服の少女を追いかけるつもりらしい。

 春菜は仕方なくうなずき、おそるおそる先に進んだ。




****

 神社の本殿の扉を開けると、中はかび臭い匂いで満ちていた。

 埃が積もり、あちこちに雨漏りのあともある。

 孝之助が中を見回して告げる。

「倒壊なんてしないだろうなぁ?」

 由夏がのんきに応える。

「大丈夫でしょ、それならすぐに逃げればいいじゃない」

 正明がカメラを覗きながら告げる。

「みろ、先で呼んでるぞ」

 和服の少女は、本殿の脇にある廊下の入り口で手招きをしていた。

 孝之助が少女が立っている場所を睨み付けて告げる。

「奥に来いってか。上等だ」

 スマホを取り出し、懐中電灯代わりに照らし出す。

 転ばないように足元を照らしながら、四人は奥へと歩いて行った。




****

 和服の少女が手招きする方向へ歩いて行と、少し開けた場所に出た。

 家具は残っていないが、気張りの部屋には床の間らしき場所がある。

 春案がゆっくりと和服の少女が立っている場所を指さして告げる。

「……あそこ、何かありますよ」

 孝之助がライトで照らし出すと、そこには色あせてカビた日本人形が座っていた。

 迷いのない足取りで孝之助が近づき、日本人形を拾い上げる。

 それと同時に春菜のカメラの中で、和服の少女が消えていった。

「なんだ? 人形?」

 春菜も近づいて人形を確認する。

 汚れてはいるが、壊れてはいないようだ。

「この服の柄、カメラで映ってた女の子の服と一緒ですよ」

 正明が顎に手を当てながら告げる。

「倉田さん、この神社に来たことは?」

「ありませんよ?! 私は入学して間もないんですよ?!
 家は電車で少しかかりますし、この辺りに縁はないですよ!」

 孝之助が人形の背中を確認しながら告げる。

「血のりが付いてるとかじゃないらしい。
 オカルトでもトリックでもないってことか?」

 由夏が人形を見つめながら告げる。

「もしかして、寂しかったのかもね」

「じゃあどうする? 誰かの家に持って帰るか?」

 春菜が首と手を横に振って一歩退いた。

「私は嫌ですよ?!」

 正明が小さく息をついて告げる。

「僕も遠慮しておきたいね。
 これだけ汚れている物を部屋に入れたくない」

 由夏も人形の汚れ具合を指で確認しながら告げる。

「私もちょっと遠慮したいかなぁ……」

 孝之助が後頭部を手で掻きながら告げる。

「じゃあうちしかないか。仕方ねーな」

 孝之助が鞄の中に人形を入れて告げる。

「じゃあ、これで帰るとするか。
 またあの女の子が見えたら言ってくれ」

 春菜たちがうなずき、来た道へと引き返していった。




****

 学校から帰宅した春菜が、母親に今日起きたことを愚痴っていた。

「――ってことがあったんだけど。お母さん何か知ってる?」

 母親が苦笑しながら応える。

「あの辺りのことは、私もよく知らないのよねぇ。
 不思議な体験をしたのね」

「不思議で済む話じゃないでしょ?!
 本当に怖かったんだから!」

 母親が立ち上がりながら告げる。

「はいはい、わかったから先にお風呂に入ってきちゃいなさい」

「……はーい」

 春菜も立ち上がり、シャワーの準備をするために部屋に戻っていった。




****

「ひぃっ?!」

 部屋に入った春菜は、思わず声を上げていた。

 ベッドの上、枕元に『あの』日本人形が座っていたからだ。

 ――あれは部長が家に持ち帰ったはずじゃないの?!

 おそるおそる、日本人形にカメラを向けてみる。

 カメラの中では、和服の少女が不満げにベッドの上で寝転がっていた。

「……まさか、部長の家が気に入らなかったの?」

 カメラの中の和服の少女が小さくうなずいた。

 春菜は小さくため息をつき、頭を悩ませる。

 IT研究部の連絡先など知らせてもらっていない。

 孝之助たちに連絡を取ろうにも、手段がなかった。

 カメラを下ろした春菜が、じっと日本人形を見つめる。

「……汚れ過ぎだなぁ。ちょっとベッドに置きたくない」

 日本人形が不満げな顔をしたように思えた。

 ため息をついた春菜は、シャワーの準備をしてから日本人形をおそるおそる手にした。

 どうやら襲い掛かってくるような物ではないらしい。

 そのまま春菜は日本人形を抱え、バスルームへと向かっていった。




****

 日本人形の手入れの仕方など知らない春菜は、問答無用で石鹸まみれにしていった。

 お湯で洗い流せば流すほど、黒いお湯が流れていく。

「あなた、どれだけ汚れてるのよ」

 ぶちぶちと文句を言いながら日本人形にシャンプーを施していく。

 汚れをあらかた洗い流し終わると、春菜は自分の髪と体を洗ってからバスルームを出た。




****

 ドライヤーで自分の髪を乾かし終わると、今度は日本人形にドライヤーを向けていく。

 母親がそれを見つけ、顔をしかめながら告げる。

「そんな乱暴な乾かし方をしたら、人形が傷むわよ?
 ――っていうか、あなた日本人形なんて持ってたの?」

「これがさっき話してた『呪いの日本人形』だよ。
 部屋に戻ったら枕元に居たの」

 母親が眉をひそめて日本人形を見つめた。

「……冗談でしょ?」

「じゃあ日本人形を買ってくれた覚えがあるの?
 こういうのって、高いんでしょ?」

 母親が悩むようにうつむきながら日本人形を見下ろした。

「……ちょっと貸しなさい。タオルで水気を拭きとるわ」

 春菜は大人しく母親に日本人形を渡して後を任せた。


 その日は夕食の間も、母親は丹念に日本人形をタオルで拭きとり乾かしていった。

「お母さん、行儀悪いよ?」

「呪われたらたまったもんじゃないわ。今日は特別よ」

 ふと思い立ち、春菜が部屋にスマホを取りに行った。

 ダイニングに戻ってきた春菜が、日本人形をカメラで映す。

 そこには笑顔で母親に体を拭かれる和服の少女が映っていた。

 ――これは言わない方がいいかなぁ。

 少なくとも和服の少女は喜んでいるようだ。

 春菜は黙って母親がやりたいようにやらせていった。


 午後十時になり、春菜が席を立つ。

「じゃ、おやすみ。お母さん」

「――ちょっと待ちなさい!
 この人形はどうするの?!」

「お母さん、まだふき取ってるじゃん。
 人形も喜んでるみたいだし、そのまま一緒に寝ちゃえば?」

「嫌よ、そんなの!
 ちゃんと春菜が自分の部屋に持っていきなさい!}

 タオルごと日本人形を押し付けられ、渋々と春菜は人形を持って部屋に帰った。




****

 部屋で人形にタオルを当てながら、春菜が告げる。

「……私、そろそろ眠りたいんだけど」

 人形は返事をしない。

 生きてはいないのだから当然だ。

 だがまだ人形の服は湿り気を帯びている。

 このままベッドに潜り込まれたとしたら、布団が濡れてしまうだろう。

 ため息をついた春菜はドライヤーを手に取り、強硬手段を選んだ。


 すっかり水気が取れた日本人形を机の上に置き、春菜が告げる。

「いーい? ベッドに入ってこないでよ?」

 電気を消した春菜は、いそいそとベッドに潜り込む。

 目をつぶった春菜のお腹の上に、突然重たいものがのっかる感触がした。

 あわてて目を開けて布団の上を見ると、日本人形が乗っかっている。

 春菜はため息をついてつぶやく。

「入るなって言ってるのに……」

 諦めた春菜は日本人形を枕元に置き、反対側を向いて目をつぶった。




****

「――と、いうわけなんですよ」

 IT研究部の部室で日本人形を見せながら春菜が告げた。

 正明は困惑しながら孝之助に尋ねる。

「おい孝之助、昨日は人形をどうしたんだ?」

 孝之助は頭を掻きながら応える。

「気が付いたら消えてた。
 家の中を探してみたけど、結局見つからなかったんだ。
 まさか倉田さんのところに行ってたとはな」

 由夏が春菜に告げる。

「ねぇ、女の子はどうなったの?」

「あー、忘れてました。
 ちょっと映してみますね」

 春菜がスマホのカメラで日本人形を映すと、そこには機嫌が良さそうな和服の少女が映し出された。

 そのまま春菜が少女に尋ねる。

「ねぇあなた、人形なの?」

 少女が小さくうなずいた。

 正明が眉根を寄せて告げる。

「古い道具は付喪神になる、という民間伝承がある。
 この日本人形もそういう古い道具なのかもしれない」

 春菜が正明に尋ねる。

「それで、この人形はどうするんですか?」

「ひとまず部室に置いておこう。
 また倉田さんの家に現れるかもしれないけど……」

 春菜が眉をひそめて声を上げる。

「なんで私の家なんですか?!」

 孝之助が人形を確かめながら告げる。

「この人形が倉田さんを気に入ってるんだから、仕方ないんじゃねーか?
 トリックらしい仕掛けが施されてる跡もない。
 信じられねーけど、本当に怪奇現象の類らしい」

 春菜はため息をつきながら椅子にへたり込んだ。


 その日から、この日本人形はIT研究部の部室で鎮座している。

 ある時、深刻なバグで孝之助たちが頭を抱えてる時、背後に人形を抱えた春菜が立った。

 その瞬間に脳裏にバグの原因がよぎり、瞬く間にバグが修正されて行く。

 孝之助が驚いて背後に振り返り、春菜と日本人形を見比べていた。

 春菜がカメラで確認しながら和服の少女に尋ねる。

「あなたが手伝ってくれてるの?」

 和服の少女が楽しそうにうなずいた。

 ――デバッガーをする日本人形とか、聞いたことがないんだけど。

 ため息をつきながら、春菜がPCに向かう。

 最先端の技術と付喪神の力で、IT研究部は無事に文化祭の出し物を完成させていた。


 以来、代々IT研究部には日本人形が置かれ続けた。

 『バグ取り人形』とも呼ばれ、長年愛され続けたという。

 その人形もある時、急に姿を消した。

 噂では、春菜が一人暮らしをしている部屋に現れたんじゃないかと言われている。

 春菜が卒業した今、真相を知る者は学校には居ない。
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