3 / 3
3.
しおりを挟む
春菜たちは少女のあとを追って、神社跡地の境内へと侵入していく。
和服の少女は軽い足取りで本殿の扉を開き、中へ入っていった。
カメラの映像を覗いていた孝之助が告げる。
「どうする? 中に入っていったが」
正明は肉眼で本殿の扉を見つめて応える。
「廃屋に入るのはさすがに危ないんじゃないかな」
由夏が妙に元気な声で告げる。
「なに言ってんの! 『ここまで来て帰るなんて言うな』って部長が言ったんでしょ?!
こうなったら、とことん追いかけるわよ!」
春菜は半分泣きながら告げる。
「私はここに残っちゃダメですか?」
孝之助が少し考えてから首を横に振った。
「悪いが、倉田さんには最後まで付きあってもらう。
あの和服の女の子を見失うからな」
「そんなぁ?!」
正明がため息をついて告げる。
「こうなったら、行くところまで行こう。
幽霊なのかトリックなのか、確かめないと」
どうやら三人とも、和服の少女を追いかけるつもりらしい。
春菜は仕方なくうなずき、おそるおそる先に進んだ。
****
神社の本殿の扉を開けると、中はかび臭い匂いで満ちていた。
埃が積もり、あちこちに雨漏りのあともある。
孝之助が中を見回して告げる。
「倒壊なんてしないだろうなぁ?」
由夏がのんきに応える。
「大丈夫でしょ、それならすぐに逃げればいいじゃない」
正明がカメラを覗きながら告げる。
「みろ、先で呼んでるぞ」
和服の少女は、本殿の脇にある廊下の入り口で手招きをしていた。
孝之助が少女が立っている場所を睨み付けて告げる。
「奥に来いってか。上等だ」
スマホを取り出し、懐中電灯代わりに照らし出す。
転ばないように足元を照らしながら、四人は奥へと歩いて行った。
****
和服の少女が手招きする方向へ歩いて行と、少し開けた場所に出た。
家具は残っていないが、気張りの部屋には床の間らしき場所がある。
春案がゆっくりと和服の少女が立っている場所を指さして告げる。
「……あそこ、何かありますよ」
孝之助がライトで照らし出すと、そこには色あせてカビた日本人形が座っていた。
迷いのない足取りで孝之助が近づき、日本人形を拾い上げる。
それと同時に春菜のカメラの中で、和服の少女が消えていった。
「なんだ? 人形?」
春菜も近づいて人形を確認する。
汚れてはいるが、壊れてはいないようだ。
「この服の柄、カメラで映ってた女の子の服と一緒ですよ」
正明が顎に手を当てながら告げる。
「倉田さん、この神社に来たことは?」
「ありませんよ?! 私は入学して間もないんですよ?!
家は電車で少しかかりますし、この辺りに縁はないですよ!」
孝之助が人形の背中を確認しながら告げる。
「血のりが付いてるとかじゃないらしい。
オカルトでもトリックでもないってことか?」
由夏が人形を見つめながら告げる。
「もしかして、寂しかったのかもね」
「じゃあどうする? 誰かの家に持って帰るか?」
春菜が首と手を横に振って一歩退いた。
「私は嫌ですよ?!」
正明が小さく息をついて告げる。
「僕も遠慮しておきたいね。
これだけ汚れている物を部屋に入れたくない」
由夏も人形の汚れ具合を指で確認しながら告げる。
「私もちょっと遠慮したいかなぁ……」
孝之助が後頭部を手で掻きながら告げる。
「じゃあうちしかないか。仕方ねーな」
孝之助が鞄の中に人形を入れて告げる。
「じゃあ、これで帰るとするか。
またあの女の子が見えたら言ってくれ」
春菜たちがうなずき、来た道へと引き返していった。
****
学校から帰宅した春菜が、母親に今日起きたことを愚痴っていた。
「――ってことがあったんだけど。お母さん何か知ってる?」
母親が苦笑しながら応える。
「あの辺りのことは、私もよく知らないのよねぇ。
不思議な体験をしたのね」
「不思議で済む話じゃないでしょ?!
本当に怖かったんだから!」
母親が立ち上がりながら告げる。
「はいはい、わかったから先にお風呂に入ってきちゃいなさい」
「……はーい」
春菜も立ち上がり、シャワーの準備をするために部屋に戻っていった。
****
「ひぃっ?!」
部屋に入った春菜は、思わず声を上げていた。
ベッドの上、枕元に『あの』日本人形が座っていたからだ。
――あれは部長が家に持ち帰ったはずじゃないの?!
おそるおそる、日本人形にカメラを向けてみる。
カメラの中では、和服の少女が不満げにベッドの上で寝転がっていた。
「……まさか、部長の家が気に入らなかったの?」
カメラの中の和服の少女が小さくうなずいた。
春菜は小さくため息をつき、頭を悩ませる。
IT研究部の連絡先など知らせてもらっていない。
孝之助たちに連絡を取ろうにも、手段がなかった。
カメラを下ろした春菜が、じっと日本人形を見つめる。
「……汚れ過ぎだなぁ。ちょっとベッドに置きたくない」
日本人形が不満げな顔をしたように思えた。
ため息をついた春菜は、シャワーの準備をしてから日本人形をおそるおそる手にした。
どうやら襲い掛かってくるような物ではないらしい。
そのまま春菜は日本人形を抱え、バスルームへと向かっていった。
****
日本人形の手入れの仕方など知らない春菜は、問答無用で石鹸まみれにしていった。
お湯で洗い流せば流すほど、黒いお湯が流れていく。
「あなた、どれだけ汚れてるのよ」
ぶちぶちと文句を言いながら日本人形にシャンプーを施していく。
汚れをあらかた洗い流し終わると、春菜は自分の髪と体を洗ってからバスルームを出た。
****
ドライヤーで自分の髪を乾かし終わると、今度は日本人形にドライヤーを向けていく。
母親がそれを見つけ、顔をしかめながら告げる。
「そんな乱暴な乾かし方をしたら、人形が傷むわよ?
――っていうか、あなた日本人形なんて持ってたの?」
「これがさっき話してた『呪いの日本人形』だよ。
部屋に戻ったら枕元に居たの」
母親が眉をひそめて日本人形を見つめた。
「……冗談でしょ?」
「じゃあ日本人形を買ってくれた覚えがあるの?
こういうのって、高いんでしょ?」
母親が悩むようにうつむきながら日本人形を見下ろした。
「……ちょっと貸しなさい。タオルで水気を拭きとるわ」
春菜は大人しく母親に日本人形を渡して後を任せた。
その日は夕食の間も、母親は丹念に日本人形をタオルで拭きとり乾かしていった。
「お母さん、行儀悪いよ?」
「呪われたらたまったもんじゃないわ。今日は特別よ」
ふと思い立ち、春菜が部屋にスマホを取りに行った。
ダイニングに戻ってきた春菜が、日本人形をカメラで映す。
そこには笑顔で母親に体を拭かれる和服の少女が映っていた。
――これは言わない方がいいかなぁ。
少なくとも和服の少女は喜んでいるようだ。
春菜は黙って母親がやりたいようにやらせていった。
午後十時になり、春菜が席を立つ。
「じゃ、おやすみ。お母さん」
「――ちょっと待ちなさい!
この人形はどうするの?!」
「お母さん、まだふき取ってるじゃん。
人形も喜んでるみたいだし、そのまま一緒に寝ちゃえば?」
「嫌よ、そんなの!
ちゃんと春菜が自分の部屋に持っていきなさい!}
タオルごと日本人形を押し付けられ、渋々と春菜は人形を持って部屋に帰った。
****
部屋で人形にタオルを当てながら、春菜が告げる。
「……私、そろそろ眠りたいんだけど」
人形は返事をしない。
生きてはいないのだから当然だ。
だがまだ人形の服は湿り気を帯びている。
このままベッドに潜り込まれたとしたら、布団が濡れてしまうだろう。
ため息をついた春菜はドライヤーを手に取り、強硬手段を選んだ。
すっかり水気が取れた日本人形を机の上に置き、春菜が告げる。
「いーい? ベッドに入ってこないでよ?」
電気を消した春菜は、いそいそとベッドに潜り込む。
目をつぶった春菜のお腹の上に、突然重たいものがのっかる感触がした。
あわてて目を開けて布団の上を見ると、日本人形が乗っかっている。
春菜はため息をついてつぶやく。
「入るなって言ってるのに……」
諦めた春菜は日本人形を枕元に置き、反対側を向いて目をつぶった。
****
「――と、いうわけなんですよ」
IT研究部の部室で日本人形を見せながら春菜が告げた。
正明は困惑しながら孝之助に尋ねる。
「おい孝之助、昨日は人形をどうしたんだ?」
孝之助は頭を掻きながら応える。
「気が付いたら消えてた。
家の中を探してみたけど、結局見つからなかったんだ。
まさか倉田さんのところに行ってたとはな」
由夏が春菜に告げる。
「ねぇ、女の子はどうなったの?」
「あー、忘れてました。
ちょっと映してみますね」
春菜がスマホのカメラで日本人形を映すと、そこには機嫌が良さそうな和服の少女が映し出された。
そのまま春菜が少女に尋ねる。
「ねぇあなた、人形なの?」
少女が小さくうなずいた。
正明が眉根を寄せて告げる。
「古い道具は付喪神になる、という民間伝承がある。
この日本人形もそういう古い道具なのかもしれない」
春菜が正明に尋ねる。
「それで、この人形はどうするんですか?」
「ひとまず部室に置いておこう。
また倉田さんの家に現れるかもしれないけど……」
春菜が眉をひそめて声を上げる。
「なんで私の家なんですか?!」
孝之助が人形を確かめながら告げる。
「この人形が倉田さんを気に入ってるんだから、仕方ないんじゃねーか?
トリックらしい仕掛けが施されてる跡もない。
信じられねーけど、本当に怪奇現象の類らしい」
春菜はため息をつきながら椅子にへたり込んだ。
その日から、この日本人形はIT研究部の部室で鎮座している。
ある時、深刻なバグで孝之助たちが頭を抱えてる時、背後に人形を抱えた春菜が立った。
その瞬間に脳裏にバグの原因がよぎり、瞬く間にバグが修正されて行く。
孝之助が驚いて背後に振り返り、春菜と日本人形を見比べていた。
春菜がカメラで確認しながら和服の少女に尋ねる。
「あなたが手伝ってくれてるの?」
和服の少女が楽しそうにうなずいた。
――デバッガーをする日本人形とか、聞いたことがないんだけど。
ため息をつきながら、春菜がPCに向かう。
最先端の技術と付喪神の力で、IT研究部は無事に文化祭の出し物を完成させていた。
以来、代々IT研究部には日本人形が置かれ続けた。
『バグ取り人形』とも呼ばれ、長年愛され続けたという。
その人形もある時、急に姿を消した。
噂では、春菜が一人暮らしをしている部屋に現れたんじゃないかと言われている。
春菜が卒業した今、真相を知る者は学校には居ない。
和服の少女は軽い足取りで本殿の扉を開き、中へ入っていった。
カメラの映像を覗いていた孝之助が告げる。
「どうする? 中に入っていったが」
正明は肉眼で本殿の扉を見つめて応える。
「廃屋に入るのはさすがに危ないんじゃないかな」
由夏が妙に元気な声で告げる。
「なに言ってんの! 『ここまで来て帰るなんて言うな』って部長が言ったんでしょ?!
こうなったら、とことん追いかけるわよ!」
春菜は半分泣きながら告げる。
「私はここに残っちゃダメですか?」
孝之助が少し考えてから首を横に振った。
「悪いが、倉田さんには最後まで付きあってもらう。
あの和服の女の子を見失うからな」
「そんなぁ?!」
正明がため息をついて告げる。
「こうなったら、行くところまで行こう。
幽霊なのかトリックなのか、確かめないと」
どうやら三人とも、和服の少女を追いかけるつもりらしい。
春菜は仕方なくうなずき、おそるおそる先に進んだ。
****
神社の本殿の扉を開けると、中はかび臭い匂いで満ちていた。
埃が積もり、あちこちに雨漏りのあともある。
孝之助が中を見回して告げる。
「倒壊なんてしないだろうなぁ?」
由夏がのんきに応える。
「大丈夫でしょ、それならすぐに逃げればいいじゃない」
正明がカメラを覗きながら告げる。
「みろ、先で呼んでるぞ」
和服の少女は、本殿の脇にある廊下の入り口で手招きをしていた。
孝之助が少女が立っている場所を睨み付けて告げる。
「奥に来いってか。上等だ」
スマホを取り出し、懐中電灯代わりに照らし出す。
転ばないように足元を照らしながら、四人は奥へと歩いて行った。
****
和服の少女が手招きする方向へ歩いて行と、少し開けた場所に出た。
家具は残っていないが、気張りの部屋には床の間らしき場所がある。
春案がゆっくりと和服の少女が立っている場所を指さして告げる。
「……あそこ、何かありますよ」
孝之助がライトで照らし出すと、そこには色あせてカビた日本人形が座っていた。
迷いのない足取りで孝之助が近づき、日本人形を拾い上げる。
それと同時に春菜のカメラの中で、和服の少女が消えていった。
「なんだ? 人形?」
春菜も近づいて人形を確認する。
汚れてはいるが、壊れてはいないようだ。
「この服の柄、カメラで映ってた女の子の服と一緒ですよ」
正明が顎に手を当てながら告げる。
「倉田さん、この神社に来たことは?」
「ありませんよ?! 私は入学して間もないんですよ?!
家は電車で少しかかりますし、この辺りに縁はないですよ!」
孝之助が人形の背中を確認しながら告げる。
「血のりが付いてるとかじゃないらしい。
オカルトでもトリックでもないってことか?」
由夏が人形を見つめながら告げる。
「もしかして、寂しかったのかもね」
「じゃあどうする? 誰かの家に持って帰るか?」
春菜が首と手を横に振って一歩退いた。
「私は嫌ですよ?!」
正明が小さく息をついて告げる。
「僕も遠慮しておきたいね。
これだけ汚れている物を部屋に入れたくない」
由夏も人形の汚れ具合を指で確認しながら告げる。
「私もちょっと遠慮したいかなぁ……」
孝之助が後頭部を手で掻きながら告げる。
「じゃあうちしかないか。仕方ねーな」
孝之助が鞄の中に人形を入れて告げる。
「じゃあ、これで帰るとするか。
またあの女の子が見えたら言ってくれ」
春菜たちがうなずき、来た道へと引き返していった。
****
学校から帰宅した春菜が、母親に今日起きたことを愚痴っていた。
「――ってことがあったんだけど。お母さん何か知ってる?」
母親が苦笑しながら応える。
「あの辺りのことは、私もよく知らないのよねぇ。
不思議な体験をしたのね」
「不思議で済む話じゃないでしょ?!
本当に怖かったんだから!」
母親が立ち上がりながら告げる。
「はいはい、わかったから先にお風呂に入ってきちゃいなさい」
「……はーい」
春菜も立ち上がり、シャワーの準備をするために部屋に戻っていった。
****
「ひぃっ?!」
部屋に入った春菜は、思わず声を上げていた。
ベッドの上、枕元に『あの』日本人形が座っていたからだ。
――あれは部長が家に持ち帰ったはずじゃないの?!
おそるおそる、日本人形にカメラを向けてみる。
カメラの中では、和服の少女が不満げにベッドの上で寝転がっていた。
「……まさか、部長の家が気に入らなかったの?」
カメラの中の和服の少女が小さくうなずいた。
春菜は小さくため息をつき、頭を悩ませる。
IT研究部の連絡先など知らせてもらっていない。
孝之助たちに連絡を取ろうにも、手段がなかった。
カメラを下ろした春菜が、じっと日本人形を見つめる。
「……汚れ過ぎだなぁ。ちょっとベッドに置きたくない」
日本人形が不満げな顔をしたように思えた。
ため息をついた春菜は、シャワーの準備をしてから日本人形をおそるおそる手にした。
どうやら襲い掛かってくるような物ではないらしい。
そのまま春菜は日本人形を抱え、バスルームへと向かっていった。
****
日本人形の手入れの仕方など知らない春菜は、問答無用で石鹸まみれにしていった。
お湯で洗い流せば流すほど、黒いお湯が流れていく。
「あなた、どれだけ汚れてるのよ」
ぶちぶちと文句を言いながら日本人形にシャンプーを施していく。
汚れをあらかた洗い流し終わると、春菜は自分の髪と体を洗ってからバスルームを出た。
****
ドライヤーで自分の髪を乾かし終わると、今度は日本人形にドライヤーを向けていく。
母親がそれを見つけ、顔をしかめながら告げる。
「そんな乱暴な乾かし方をしたら、人形が傷むわよ?
――っていうか、あなた日本人形なんて持ってたの?」
「これがさっき話してた『呪いの日本人形』だよ。
部屋に戻ったら枕元に居たの」
母親が眉をひそめて日本人形を見つめた。
「……冗談でしょ?」
「じゃあ日本人形を買ってくれた覚えがあるの?
こういうのって、高いんでしょ?」
母親が悩むようにうつむきながら日本人形を見下ろした。
「……ちょっと貸しなさい。タオルで水気を拭きとるわ」
春菜は大人しく母親に日本人形を渡して後を任せた。
その日は夕食の間も、母親は丹念に日本人形をタオルで拭きとり乾かしていった。
「お母さん、行儀悪いよ?」
「呪われたらたまったもんじゃないわ。今日は特別よ」
ふと思い立ち、春菜が部屋にスマホを取りに行った。
ダイニングに戻ってきた春菜が、日本人形をカメラで映す。
そこには笑顔で母親に体を拭かれる和服の少女が映っていた。
――これは言わない方がいいかなぁ。
少なくとも和服の少女は喜んでいるようだ。
春菜は黙って母親がやりたいようにやらせていった。
午後十時になり、春菜が席を立つ。
「じゃ、おやすみ。お母さん」
「――ちょっと待ちなさい!
この人形はどうするの?!」
「お母さん、まだふき取ってるじゃん。
人形も喜んでるみたいだし、そのまま一緒に寝ちゃえば?」
「嫌よ、そんなの!
ちゃんと春菜が自分の部屋に持っていきなさい!}
タオルごと日本人形を押し付けられ、渋々と春菜は人形を持って部屋に帰った。
****
部屋で人形にタオルを当てながら、春菜が告げる。
「……私、そろそろ眠りたいんだけど」
人形は返事をしない。
生きてはいないのだから当然だ。
だがまだ人形の服は湿り気を帯びている。
このままベッドに潜り込まれたとしたら、布団が濡れてしまうだろう。
ため息をついた春菜はドライヤーを手に取り、強硬手段を選んだ。
すっかり水気が取れた日本人形を机の上に置き、春菜が告げる。
「いーい? ベッドに入ってこないでよ?」
電気を消した春菜は、いそいそとベッドに潜り込む。
目をつぶった春菜のお腹の上に、突然重たいものがのっかる感触がした。
あわてて目を開けて布団の上を見ると、日本人形が乗っかっている。
春菜はため息をついてつぶやく。
「入るなって言ってるのに……」
諦めた春菜は日本人形を枕元に置き、反対側を向いて目をつぶった。
****
「――と、いうわけなんですよ」
IT研究部の部室で日本人形を見せながら春菜が告げた。
正明は困惑しながら孝之助に尋ねる。
「おい孝之助、昨日は人形をどうしたんだ?」
孝之助は頭を掻きながら応える。
「気が付いたら消えてた。
家の中を探してみたけど、結局見つからなかったんだ。
まさか倉田さんのところに行ってたとはな」
由夏が春菜に告げる。
「ねぇ、女の子はどうなったの?」
「あー、忘れてました。
ちょっと映してみますね」
春菜がスマホのカメラで日本人形を映すと、そこには機嫌が良さそうな和服の少女が映し出された。
そのまま春菜が少女に尋ねる。
「ねぇあなた、人形なの?」
少女が小さくうなずいた。
正明が眉根を寄せて告げる。
「古い道具は付喪神になる、という民間伝承がある。
この日本人形もそういう古い道具なのかもしれない」
春菜が正明に尋ねる。
「それで、この人形はどうするんですか?」
「ひとまず部室に置いておこう。
また倉田さんの家に現れるかもしれないけど……」
春菜が眉をひそめて声を上げる。
「なんで私の家なんですか?!」
孝之助が人形を確かめながら告げる。
「この人形が倉田さんを気に入ってるんだから、仕方ないんじゃねーか?
トリックらしい仕掛けが施されてる跡もない。
信じられねーけど、本当に怪奇現象の類らしい」
春菜はため息をつきながら椅子にへたり込んだ。
その日から、この日本人形はIT研究部の部室で鎮座している。
ある時、深刻なバグで孝之助たちが頭を抱えてる時、背後に人形を抱えた春菜が立った。
その瞬間に脳裏にバグの原因がよぎり、瞬く間にバグが修正されて行く。
孝之助が驚いて背後に振り返り、春菜と日本人形を見比べていた。
春菜がカメラで確認しながら和服の少女に尋ねる。
「あなたが手伝ってくれてるの?」
和服の少女が楽しそうにうなずいた。
――デバッガーをする日本人形とか、聞いたことがないんだけど。
ため息をつきながら、春菜がPCに向かう。
最先端の技術と付喪神の力で、IT研究部は無事に文化祭の出し物を完成させていた。
以来、代々IT研究部には日本人形が置かれ続けた。
『バグ取り人形』とも呼ばれ、長年愛され続けたという。
その人形もある時、急に姿を消した。
噂では、春菜が一人暮らしをしている部屋に現れたんじゃないかと言われている。
春菜が卒業した今、真相を知る者は学校には居ない。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる