ひとつがたり

みつまめ つぼみ

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 春田たちが一斉にドアの方向に目を向けた。

 室内には四人だけで、ドアの前には誰もいない。

 春菜が困惑しながらつぶやく。

「誰もいませんよね……」

 由夏がうなずいた後、春菜のスマホに目を落とす。

「でも、ドアの前に女の子が映ってるのよね……誰かしら、これ」

 孝之助も横からスマホを覗き込み、眉をひそめた。

「和服姿の子供か。
 幽霊ってか? ありえねーな。
 心霊写真なんてアナログ時代のトリックだ」

 背丈からして、十歳かそこらの少女。

 高校の中に居る訳がない。

 正明が眼鏡を直しながらスマホを確認する。

「……だがどう見ても『そこに居る』ように映りこんでる。
 これは写真を加工できないアプリのはずだけど」

 春菜がハッとして写真を投稿していた。

「なんだかわからないけど、二分経っちゃう」

 由夏が苦笑しながら告げる。

「あなた、案外神経が太いわね」

「そうですか?」

 孝之助が顎に手を当てて黙り込んだ後、春菜に告げる。

「なぁ、今までこういうことはあったのか?」

「ありませんよ。今日が初めてです」

「じゃあ、普通にカメラでドアを映して見てくれ」

「ええ?! まだ居たら怖いじゃないですか!」

 孝之助が立ち上がって応える。

「見えない幽霊がそばにいる方が怖いだろ?
 正体を掴んでみようぜ」

 正明もどうやら同じ意見のようで、黙って春菜を見つめていた。

 春菜は渋々カメラを起動し、おそるおそるドアに向ける。

 ――そこには、まだ微笑んでたたずんでいる和服の少女が映りこんでいた。

 春菜が思わずスマホを手放したのを孝之助がキャッチした。

「――ぶねぇ、落とすなよ精密機械を。
 それより、まだ居るのか」

 孝之助がカメラをドアに向ける――。

「あれ? 映ってねぇな。もう居なくなったのか?」

 春菜もスマホを覗き込んで、誰もいない部室を確認する。

 孝之助からスマホを返された春菜が、何気なくまたドアにカメラを向けた。

「――まだ居るじゃないですか?!」

 カメラの中に映る和服の少女は、楽しそうにコロコロと笑っていた。

 眉をひそめた孝之助が「ちょっと貸してくれ」とスマホの位置を変えずに受け取る。

 春菜がスマホから手を離した瞬間、和服の少女はスッと消えていった。

 正明が少し考えるようにしてから告げる。

「これは……倉田さんが持ってないと映りこまない?」

 由夏や正明も試してみたが、和服の少女は確認できなかった。

 春菜が持った時だけ、ドアの付近に和服の少女が現れる。

「なんなんですか、これ」

 涙目で告げる春菜の方を、孝之助が叩いた。

「安心しろ。幽霊なんてこの世に居る訳ねーんだから。
 ――誰かわからねーけど、悪戯するのはその辺にしとけよ?!」

 孝之助の声に、カメラに映る和服の少女が反応した。

 ニヤリと笑った和服の少女が、春菜に向かって手招きした。

「……こっちに来いってことですか?」

 由夏がうなずいて応える。

「そうみたいね。
 ちょっと部長、あの子に近づいてみて」

 孝之助が目を見開いて応える。

「俺かよ?!」

「『幽霊なんて居ない』んでしょ?」

 由夏の言葉に、孝之助が唇を尖らせた。

「はいはい、いけばいいんだろ?!」

 孝之助が力強い足取りでドアまで近づくと、カメラの中の和服の少女が横に避けた。

「なんもないぞー!」

 辺りを見回す孝之助の横で、少女が楽しそうに笑って足を出す。

 孝之助がこちらに引き返そうとして、見事に少女の足でつまずいた。

「――うわぁ?!」

 大きな音を立てて転んだ孝之助を、正明は冷静な目で眺めていた。

「……なるほど、見えないだけで存在はしてるんですね」

「分析する前に、転んだ俺を心配ぐらいしろ!」

 ぶちぶちと文句とつぶやきながら孝之助が立ち上がった。

 その脇をすり抜けるように少女がドアを開けて外に出る。

 ――肉眼で見るドアは、閉まったままでピクリとも動いていなかった。

 春菜が呆然としたまま告げる。

「なんでカメラの中と現実で、ドアの動きが違うんですか……」

 正明がドアを見つめながら応える。

「……たぶんだけど、カメラの中の姿が本来の姿なんだ。
 肉眼で見えているものは、きっと何かの方法で誤魔化されてる」

 由夏が楽し気に微笑んでカメラを覗いていた。

「あ、女の子が出ていっちゃった。
 ――部長! このまま放っておくの?!」

「んなわけがねーだろ?!
 転ばされた借りをきっちり返してもらう!
 ――おい倉田さん! カメラもってこっちに来てくれ!」

「ええ?! 嫌ですよ!」

「いいから来い! 部長命令だ!」

 ――部活動と関係ないじゃん?!

 困惑する春菜の背中を正明が押した。

「いいから、行ってみよう。
 呼んでるってことは、伝えたいことがあるのかもしれない」

「篠原先輩までそんなことを言うんですか?!」

「このままだと、あの子に怯えたまま学校に通うことになるよ」

 春菜が眉根を寄せて一瞬悩んだ。

 せっかくの高校生活を、幽霊か何かに邪魔されたくはない。

 小さくうなずいた春菜は、カメラをドアに向けたまま歩いて行く。

 孝之助がニヤリと笑い、ドアを開いて外に出た。

 そのあとを、春菜と正明、由夏が続いて廊下に出ていった。




****

「おい倉田、あいつはどっちに行った?」

 春菜が廊下の両側をカメラで映す――居た。

「あっちです。まだ手招きしてます」

「よし行こう」

 孝之助たちに背中を押され、春菜はおずおずと少女のあとをついて行く。

 春菜たちが近づくと、鬼ごっこをしてるかのように少女は歩きだした。

 そして一定距離が離れると、春菜に振り向いて手招きをする。

 そんな鬼ごっこを続けて校内を歩き、階段を降りていくと、ついには昇降口に出た。

 カメラの中の少女は、外に出て手招きしている。

「外に来いってこと?」

 孝之助がうなずいて応える。

「みたいだな……よし、由夏はここに残れ。
 俺と正明は荷物を取ってくる」

 由夏が明るい笑顔で応える。

「はーい。
 早めに戻って来てあげてよ?」

 うなずいた孝之助と正明が、駆け足で階段を駆け上がっていった。

 春菜はカメラを見つめながらつぶやく。

「……どうするんですか?」

「決まってるじゃない。とことん追いかけるのよ」

 春菜は泣きたい気分で、自分を手招きする少女を見つめていた。




****

 孝之助たちが戻ると、今度は春菜と由夏が荷物を取りに行った。

 昇降口に再び戻った春菜のカメラには、変わらず和服の少女が映っている。

「本当に追いかけるんですか?」

 孝之助が楽しそうに頷いた。

「この現象の正体を暴くまで追いかける! 行くぞ!」

 四人が外履きに履き替え、春菜のカメラを頼りに少女を追いかける。

 少女は真っ直ぐ校門へ向けて歩いて行った。


 少女が手招きする方向へ春菜たちは追跡を続けていく。

 学校から離れ、大通りを一本外れた裏通りを少女は歩いて行った。

 そして古びた神社の跡地の中に、少女は消えていく。

「……中に入っちゃいましたね」

 正明が眼鏡を手で直しながら告げる。

「ここは僕が知る限り、昔から廃屋だった神社だけど。
 本当に入るのか?」

 孝之助が少しためらうように神社の入り口を見つめ、うなずいた。

「ここまで来て、『帰る』なんて選択肢はないだろ。
 みんな、行くぞ!」

 ――本当に中に入るの?!

 春菜は涙目になりながら、カメラを構えて少女を追いかけた。
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