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第1章:神を拾った竜殺し
第15話 検問
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話がひと段落したところで、ニアがノヴァに尋ねる。
「ねぇ、ここでアイリーンちゃんの再調整をしたら、少し日程に余裕が出るわよ?」
ノヴァがアイリーンに顔を向けて尋ねる。
『アイリーンは、ここで再調整に応じられるか?』
アイリーンが部屋を見回す――窓の外には向かいの窓が見えている。
カーテンを閉めればいいのだが、心理的抵抗は否定できない。
『うーん、ここではやりたくないけど、それでもみんなが助かるなら我慢するわ。
でもできるだけ、夜になってから部屋を暗くしてほしいかな……』
アイリーンの望み通り、その日の晩、明かりを最小限にして再調整が行われた。
リストリットは部屋の外で待機させ、ノヴァが小さな照明魔法で再調整を進めていく。
『目覚めてから四日でこの歪みか。
補佐魔法も再調整して精度を限界まで上げておくか。
これでしばらく様子見だな』
その晩は無事に再調整を終え、四人は眠りに就いた。
****
リストリットたち一行は翌朝、ピークスを出発した。
ピークスから二日目の静かな夜――道から外れた林の中で、焚火を囲んで四人は寝ていた。
リストリットが横になったまま、身じろぎせずに小さく声をかける。
「――ニア、起きてるか」
「……囲まれてるわね。野盗かしら」
寝ているノヴァから小声で反応があった。
『なんだお前たち、起きたのか。
人間の大人が五人だ。木陰に隠れているな』
アイリーンも寝ている状態で小声で告げる。
『あら、みんな起きたのね。
リストリットさん、どうするの?』
「こういうときはいつも、俺が適当に片付けている。
――だがお前らも起きるとは思わなかったな」
全員が身じろぎせずに、小さな声で言葉を交わす。
ノヴァが小声で告げる。
『ならばアイリーン以外が適当に片付けるとしよう。
アイリーンはこの場所で、怪我をしないようにしていればいい』
『あら、私だけ仲間外れなのね』
『お前の体はまだ再調整が必要だ。無理をする必要はない』
『はーい』
横になったまま、ニアとノヴァが捕縛魔法を展開していく。
捕縛魔法はたちまち木陰に潜む男たちを捕らえ、周囲から悲鳴のように驚く声が上がった。
それを契機にリストリットが手元にあった長剣を手に持ち、気配のあった場所へ駆け出す。
リストリットが一人目を切り捨てていると、背後で炎が炸裂する音が聞こえた。
驚いて振り向いたリストリットの目に、ノヴァが野盗の一人を燃やしている姿が入ってくる。
「おいおい、林の中だぞ?! 周りに燃え移らせるなよ?!」
ノヴァに伝えながらも、リストリットは手近な気配へ向かい、再び野盗を切り捨てる。
ニアもまた、一人の野盗に魔力の矢を浴びせて仕留めていた。
最後の一人はノヴァが破裂魔法で周囲に臓腑を飛び散らせて終わらせた。
平然な顔で血まみれになった自分に浄化魔法をかけているノヴァの元へ、リストリットとニアが集まった。
『なんだ? なぜそのような顔をしている?
燃え移ることのないように対処したつもりだが』
リストリットがげんなりとしながら答える。
「……やり方がエグイんだよ。辺りが血まみれ肉まみれじゃねーか。
ここまで酷い殺し方は、そうないぞ?」
ニアが頷きながら告げる。
「そうよね。人間の体を破裂させると後始末が大変だもの。
普通はやろうとしないわね」
「視点が違うな?! なんだおい、魔導士ってのは人の心がないのか?!
もっと穏便に殺してやれないのか?!」
ノヴァが浄化を終えてリストリットに告げる。
『命を奪う行為に、穏便もなにもあるまい。
尊厳を踏みにじるような殺し方ではないと思うが、問題があったか?
奴は痛みどころか、恐怖を感じる暇もなく死んだぞ?』
リストリットが疲労感を覚えながら答える。
「……苦しまずに死んだなら、仕方ねーか。
だが家族が居たら死体くらい残してやったほうがいい。
あまりこういう殺し方はするな」
『家族は居ないようだったから、何の問題もないな。
死体の有無も、感傷に過ぎん。
俺たちを襲う罪人に情けを与える必要は感じぬな』
「お前、古竜の時とはえらい温度差だな……。
まぁいい。片付いたんだ。寝なおすぞ」
リストリットたちは焚火の周りに戻り、再び朝まで眠りに就いた。
****
ピークスから十日目の朝――悪天候も潜り抜け、リストリットたちは王都エルンストに到着していた。
近日中に調整すればアイリーンに問題は出ない。
王都に入れば魔力装填薬の在庫も、再調整の場所でも困ることはない。
ノヴァを含め、四人とも安堵で胸を撫でおろしていた。
特にアイリーンは、野外で全裸になることを回避できたので涙目になるほどだった。
王都の入り口では検問が行われており、四人はその列に並んでいた。
リストリットが頭を掻いて悩んでいた。
「検問かー。近いうちにお偉いさんが訪問するのかね。早速、素性の問題が出て来たな。
――なぁニア、どうする?」
「どうしようかしら? 『ピークスで保護した異国の子供』ということにしておく?
『貧民街で保護した孤児』でもいいと思うけど」
リストリットが眉をひそめながら答える。
「んー、異国だと後で知られたら面倒だし、孤児ということにしておこうか」
ノヴァが平然とした顔で告げる。
『なんだ、俺たちの存在を知られたくないのか?
ならば魔法で隠れればいいではないか』
ニアがノヴァに答える。
「王都の検問は、そんなに甘いものじゃないわ。
魔法で隠れていても、それを検知する魔法結界が張られているもの。
貴方たちなら、見ればわかるでしょう?」
『その魔法結界の程度の低さを見てから言っている。
この程度の結界をごまかすぐらい、俺とアイリーンには簡単なことだ』
アイリーンが頷いて答える。
『私たちの存在を物質界から隠すわ。
それでこの魔法結界は検知できなくなる』
リストリットが頷いた。
「わかった、じゃあお前たちはそうやって隠れていてくれ。
俺たちはお前たちを信じて、『居ないもの』として振る舞う。それでいいか?」
ノヴァが頷いて答える。
『任せておけ。ではこれからしばらく、お前たちも俺たちを認識することはできなくなる。
間違って振り落とすなよ?』
ノヴァとアイリーンが隠れて魔法を発動させ、すぐに二人の姿が馬上から掻き消えた。
幸い、周囲は雑談に夢中で気が付いた人間は居ないらしい。
リストリットにはアイリーンの体重を感じることもできない。
ニアもどうやら、同じようだ。
「すげぇな……物質界から隠すって、どういうことなんだ?」
「私にもさっぱりわからないわ。
でも間違いないのは、『二人が変わらず私たちの馬に乗っている』ということね。
振り落とさないよう、注意しましょう』
そのままリストリットとニアはすんなりと検問に入る。
いつも通り『冒険者リスナー』と『冒険者アンジェーリカ』の冒険者登録証を見せて通過していく。
リストリットたちはそのまま馬をクランの館に向けた。
****
クラン『金の翼』――リストリットが開設した冒険者クランだ。
王都に在るクランの拠点、その館にリストリットたちの馬が入って行く。
馬屋に入るとリストリットが付近の気配を探ってから告げる。
「……辺りに人は居ないな。もう出てきても大丈夫だぞ」
その声と共に、ノヴァとアイリーンの姿が馬上に戻ってくる。
アイリーンが胸を撫で下ろしていた。
『リストリットさんたら、私のことを忘れて馬を操ってなかった?
何度か落っこちそうになったわ』
「すまん、まったく存在が分からないから、勝手がつかめないんだ。
――それより、ここが俺のクランだ。中に入ったらしばらくは黙っていてくれ」
リストリットとニアはノヴァとアイリーンを馬上から降ろし、馬をつないだ。
四人は館の裏口から中に入って行った。
「ねぇ、ここでアイリーンちゃんの再調整をしたら、少し日程に余裕が出るわよ?」
ノヴァがアイリーンに顔を向けて尋ねる。
『アイリーンは、ここで再調整に応じられるか?』
アイリーンが部屋を見回す――窓の外には向かいの窓が見えている。
カーテンを閉めればいいのだが、心理的抵抗は否定できない。
『うーん、ここではやりたくないけど、それでもみんなが助かるなら我慢するわ。
でもできるだけ、夜になってから部屋を暗くしてほしいかな……』
アイリーンの望み通り、その日の晩、明かりを最小限にして再調整が行われた。
リストリットは部屋の外で待機させ、ノヴァが小さな照明魔法で再調整を進めていく。
『目覚めてから四日でこの歪みか。
補佐魔法も再調整して精度を限界まで上げておくか。
これでしばらく様子見だな』
その晩は無事に再調整を終え、四人は眠りに就いた。
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リストリットたち一行は翌朝、ピークスを出発した。
ピークスから二日目の静かな夜――道から外れた林の中で、焚火を囲んで四人は寝ていた。
リストリットが横になったまま、身じろぎせずに小さく声をかける。
「――ニア、起きてるか」
「……囲まれてるわね。野盗かしら」
寝ているノヴァから小声で反応があった。
『なんだお前たち、起きたのか。
人間の大人が五人だ。木陰に隠れているな』
アイリーンも寝ている状態で小声で告げる。
『あら、みんな起きたのね。
リストリットさん、どうするの?』
「こういうときはいつも、俺が適当に片付けている。
――だがお前らも起きるとは思わなかったな」
全員が身じろぎせずに、小さな声で言葉を交わす。
ノヴァが小声で告げる。
『ならばアイリーン以外が適当に片付けるとしよう。
アイリーンはこの場所で、怪我をしないようにしていればいい』
『あら、私だけ仲間外れなのね』
『お前の体はまだ再調整が必要だ。無理をする必要はない』
『はーい』
横になったまま、ニアとノヴァが捕縛魔法を展開していく。
捕縛魔法はたちまち木陰に潜む男たちを捕らえ、周囲から悲鳴のように驚く声が上がった。
それを契機にリストリットが手元にあった長剣を手に持ち、気配のあった場所へ駆け出す。
リストリットが一人目を切り捨てていると、背後で炎が炸裂する音が聞こえた。
驚いて振り向いたリストリットの目に、ノヴァが野盗の一人を燃やしている姿が入ってくる。
「おいおい、林の中だぞ?! 周りに燃え移らせるなよ?!」
ノヴァに伝えながらも、リストリットは手近な気配へ向かい、再び野盗を切り捨てる。
ニアもまた、一人の野盗に魔力の矢を浴びせて仕留めていた。
最後の一人はノヴァが破裂魔法で周囲に臓腑を飛び散らせて終わらせた。
平然な顔で血まみれになった自分に浄化魔法をかけているノヴァの元へ、リストリットとニアが集まった。
『なんだ? なぜそのような顔をしている?
燃え移ることのないように対処したつもりだが』
リストリットがげんなりとしながら答える。
「……やり方がエグイんだよ。辺りが血まみれ肉まみれじゃねーか。
ここまで酷い殺し方は、そうないぞ?」
ニアが頷きながら告げる。
「そうよね。人間の体を破裂させると後始末が大変だもの。
普通はやろうとしないわね」
「視点が違うな?! なんだおい、魔導士ってのは人の心がないのか?!
もっと穏便に殺してやれないのか?!」
ノヴァが浄化を終えてリストリットに告げる。
『命を奪う行為に、穏便もなにもあるまい。
尊厳を踏みにじるような殺し方ではないと思うが、問題があったか?
奴は痛みどころか、恐怖を感じる暇もなく死んだぞ?』
リストリットが疲労感を覚えながら答える。
「……苦しまずに死んだなら、仕方ねーか。
だが家族が居たら死体くらい残してやったほうがいい。
あまりこういう殺し方はするな」
『家族は居ないようだったから、何の問題もないな。
死体の有無も、感傷に過ぎん。
俺たちを襲う罪人に情けを与える必要は感じぬな』
「お前、古竜の時とはえらい温度差だな……。
まぁいい。片付いたんだ。寝なおすぞ」
リストリットたちは焚火の周りに戻り、再び朝まで眠りに就いた。
****
ピークスから十日目の朝――悪天候も潜り抜け、リストリットたちは王都エルンストに到着していた。
近日中に調整すればアイリーンに問題は出ない。
王都に入れば魔力装填薬の在庫も、再調整の場所でも困ることはない。
ノヴァを含め、四人とも安堵で胸を撫でおろしていた。
特にアイリーンは、野外で全裸になることを回避できたので涙目になるほどだった。
王都の入り口では検問が行われており、四人はその列に並んでいた。
リストリットが頭を掻いて悩んでいた。
「検問かー。近いうちにお偉いさんが訪問するのかね。早速、素性の問題が出て来たな。
――なぁニア、どうする?」
「どうしようかしら? 『ピークスで保護した異国の子供』ということにしておく?
『貧民街で保護した孤児』でもいいと思うけど」
リストリットが眉をひそめながら答える。
「んー、異国だと後で知られたら面倒だし、孤児ということにしておこうか」
ノヴァが平然とした顔で告げる。
『なんだ、俺たちの存在を知られたくないのか?
ならば魔法で隠れればいいではないか』
ニアがノヴァに答える。
「王都の検問は、そんなに甘いものじゃないわ。
魔法で隠れていても、それを検知する魔法結界が張られているもの。
貴方たちなら、見ればわかるでしょう?」
『その魔法結界の程度の低さを見てから言っている。
この程度の結界をごまかすぐらい、俺とアイリーンには簡単なことだ』
アイリーンが頷いて答える。
『私たちの存在を物質界から隠すわ。
それでこの魔法結界は検知できなくなる』
リストリットが頷いた。
「わかった、じゃあお前たちはそうやって隠れていてくれ。
俺たちはお前たちを信じて、『居ないもの』として振る舞う。それでいいか?」
ノヴァが頷いて答える。
『任せておけ。ではこれからしばらく、お前たちも俺たちを認識することはできなくなる。
間違って振り落とすなよ?』
ノヴァとアイリーンが隠れて魔法を発動させ、すぐに二人の姿が馬上から掻き消えた。
幸い、周囲は雑談に夢中で気が付いた人間は居ないらしい。
リストリットにはアイリーンの体重を感じることもできない。
ニアもどうやら、同じようだ。
「すげぇな……物質界から隠すって、どういうことなんだ?」
「私にもさっぱりわからないわ。
でも間違いないのは、『二人が変わらず私たちの馬に乗っている』ということね。
振り落とさないよう、注意しましょう』
そのままリストリットとニアはすんなりと検問に入る。
いつも通り『冒険者リスナー』と『冒険者アンジェーリカ』の冒険者登録証を見せて通過していく。
リストリットたちはそのまま馬をクランの館に向けた。
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クラン『金の翼』――リストリットが開設した冒険者クランだ。
王都に在るクランの拠点、その館にリストリットたちの馬が入って行く。
馬屋に入るとリストリットが付近の気配を探ってから告げる。
「……辺りに人は居ないな。もう出てきても大丈夫だぞ」
その声と共に、ノヴァとアイリーンの姿が馬上に戻ってくる。
アイリーンが胸を撫で下ろしていた。
『リストリットさんたら、私のことを忘れて馬を操ってなかった?
何度か落っこちそうになったわ』
「すまん、まったく存在が分からないから、勝手がつかめないんだ。
――それより、ここが俺のクランだ。中に入ったらしばらくは黙っていてくれ」
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